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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年門審第53号
件名

漁船第二大福丸漁船新栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(供田仁男、原 清澄、西山烝一)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第二大福丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:新栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
大福丸・・・左舷側後部舷縁の頂部に凹損、A受審人が左手掌部挫創
新栄丸・・・損傷なし

原因
大福丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
新栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、漂泊中の第二大福丸と漁ろうに従事中の新栄丸とが接近して衝突のおそれがあるとき、第二大福丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、新栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月21日09時40分
 山口県三田尻中関港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二大福丸 漁船新栄丸
総トン数 2.84トン 2.4トン
全長 11.10メートル 10.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 40キロワット 11キロワット

3 事実の経過
 第二大福丸(以下「大福丸」という。)は、舵柄を設け、船体中央部やや後方の操縦室内に機関操作装置を配したFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、くるまえび漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成11年11月21日07時00分山口県三田尻中関港の三田尻地区西部に位置する向島漁港を発し、同時35分同地区東部の翁埼と竜ケ埼との間に形成された港口付近の漁場に着き、なまこけた網による操業を開始した。
 なまこけた網によるくるまえび漁は、袋網の網口を鉄製の枠で広げ、これを長さ100メートル前後の1本の鋼索で船尾から曳くもので、曳網中は操縦性能が制限される状態であったものの、大福丸及び新栄丸を含む13隻の漁船が、いずれも漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げないまま、2.0ノット程度の速力(対地速力、以下同じ。)で約30分間曳網したのち、揚網してその場で漂泊するか、あるいは航走しながら、漁獲物を選別し、再び投網する操業方法を採っていた。
 A受審人は、3回目の曳網を終え、船尾から揚網して漁獲物を後部甲板上に取り込み、09時30分三田尻灯台から166度(真方位、以下同じ。)1,450メートルの地点で、機関を中立回転として漂泊し、操縦室後方で船尾方を向いて腰をかがめ、漁獲物の中から生きているものをバケツに、それ以外のものを他の容器にそれぞれ分けて入れる選別作業に取り掛かった。
 09時38分A受審人は、船首が180度を向いていたとき、左舷船首75度120メートルに船首を見せた新栄丸を視認でき、同船の曳網索を見ることができなくとも、極めて遅い速力模様から、曳網中であることが分かり、その後衝突のおそれがある態勢で接近してくるのを認め得る状況となったが、漂泊している自船を他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、機関を使用して前進するなどの衝突を避けるための措置をとることなく、漂泊を続けた。
 09時40分わずか前A受審人は、選別作業を終え、生きているえびと魚を船首寄りのいけすに移そうとして、バケツを手に持って立ち上がり、至近に迫った新栄丸を初めて視認し、とっさに左手を伸ばして同船の船首部を押したものの、効なく、09時40分三田尻灯台から166度1,450メートルの地点において、大福丸は、180度に向首して、その左舷側後部舷縁に新栄丸の船首が前方から75度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、新栄丸は、舵柄を設け、船体中央部やや後方の操縦室内に機関操作装置を配したFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、くるまえび漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同日07時00分向島漁港を発し、同時40分三田尻地区港口付近の漁場に着き、なまこけた網による操業を開始した。
 B受審人は、09時10分衝突地点付近で3回目の曳網に取り掛かり、機関を微速力前進にかけ、いったん南下したのち、徐々に左回頭して、同時30分三田尻灯台から149度1,800メートルの地点に至り、左手で舵柄を握って針路を285度に定め、操縦室後方の甲板上に置かれた高さ約40センチメートルのプラスチック製箱に腰掛けたところ、眼高が同室の窓ガラス下端とほぼ同じとなり、前方を見通すことができない状態のまま、左舷方で一団となって操業している僚船の方に身体を向け、2.0ノットの速力で進行した。
 09時38分B受審人は、三田尻灯台から162度1,500メートルの地点に達したとき、正船首120メートルに左舷側を見せて漂泊している大福丸を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況となったが、僚船は全て左舷方で一団となって操業しており、自船の近くに他船がいないものと思い、前路の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、右転するなどの衝突を避けるための措置をとることなく、僚船の操業模様を眺めながら続航中、新栄丸は、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大福丸は左舷側後部舷縁の頂部に凹損を生じたものの、新栄丸に損傷はなく、A受審人が大福丸の操縦室側壁と新栄丸の船首部とに左手を挟まれ、左手掌部挫創を負った。

(原因)
 本件衝突は、三田尻中関港の三田尻地区港口付近において、漂泊中の大福丸と漁ろうに従事中の新栄丸とが接近して衝突のおそれがあるとき、大福丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、新栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、三田尻中関港の三田尻地区港口付近において、なまこけた網を揚網し、漁獲物の選別作業のため漂泊した場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、漂泊している自船を他船が避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する漁ろうに従事中の新栄丸に気付かず、機関を使用して前進するなどの衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、大福丸の左舷側後部舷縁の頂部に凹損を生じさせたほか、自らも左手掌部挫創を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、三田尻中関港の三田尻地区港口付近において、なまこけた網により漁ろうに従事する場合、前路の他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、僚船は全て左舷方で一団となって操業しており、自船の近くに他船がいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の大福丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、前示のとおり大福丸に損傷を生じさせ、A受審人を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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