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平成12年広審第90号
件名

貨物船第十六旭丸貨物船高砂丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月6日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(横須賀勇一、釜谷奬一、中谷啓二)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:第十六旭丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:高砂丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
旭 丸・・・右舷船首外板に破口を伴う損傷
高砂丸・・・右舷外板に亀裂を伴う損傷

原因
旭 丸・・・動静監視不十分、行会いの航法(避航動作)不遵守
高砂丸・・・居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件衝突は、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、高砂丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で針路を右に転じなかったことと、第十六旭丸が、動静監視不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月22日23時50分
 本州南岸 熊野灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十六旭丸 貨物船高砂丸
総トン数 491トン 199トン
全長 75.80メートル 58.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,103キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 第十六旭丸(以下「旭丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、砂約1,460トンを載せ、船首2.78メートル船尾4.88メートルの喫水をもって、平成11年9月20日18時10分青森県むつ小川原港を発し、兵庫県尼崎西宮芦屋港へ向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及び甲板長の3人による単独の4時間ごとの輪番制として本州東岸に沿って南下し、越えて22日20時00分大王埼東方沖で一等航海士と交替して船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示して熊野灘を南西進し、同時54分大王埼灯台から140度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点に達したとき、針路を230度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 23時35分A受審人は、三木埼灯台の東方15海里沖合に達したころ、広い海域であり、支障となる船舶も見られなかったので、無線業務日誌等の書類整理をすることとし、船橋左舷後部の海図台に移動し船首を背にして書類の整理を開始した。
 23時40分A受審人は、三木埼灯台から110度14.0海里の地点に達したとき、当直交替の時間が近づいていたので船橋前面に設置された時計を見るため振り返えると、ほぼ正船首方3.7海里に高砂丸の白1灯を初めて視認したが、一瞥しただけで、まだ距離が十分あるものと思い、書類整理を継続して続航した。
 23時43分A受審人は、三木埼灯台から112度13.9海里の地点に達したとき、ほぼ正船首2.5海里のところに、高砂丸の白、白、緑、紅4灯を視認することができる状況となり、その後高砂丸とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近したが、書類整理に専念したまま、同船に対する動静監視を行うことなく、この状況に気付かず進行した。
 23時46分A受審人は、高砂丸と右舷船首2.5度1.4海里に接近していたが、同船の左舷側を通過することができるよう、速やかに針路を右転しないまま続航中、23時50分旭丸は三木埼灯台から117度13.4海里の地点において、その右舷船首が高砂丸の右舷船首に前方から5度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の南風が吹き、視界は良好であった。
 また、高砂丸は、船尾船橋型の貨物船で、B受審人のほか2人が乗り組み、プラント38トンを載せ、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同日09時40分兵庫県東播磨港を発し、茨城県鹿島港へ向かった。
 B受審人は、船橋当直を自らと機関長及び甲板長の3人による単独の4時間ごとの輪番制として瀬戸内海及び紀伊水道を航過し、19時50分潮岬灯台の東方4.3海里の地点において、甲板長と交替して船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示して時折り反航船を替わしながら熊野灘を北東進した。
 22時45分B受審人は、三木埼灯台から174度13.0海里の地点に達したとき、針路を055度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力で進行した。
 B受審人は、船橋左舷側後部の椅子に腰掛けて当直に就いていたところ、22時50分三木埼灯台から167度12.8海里に達したとき、広い海域でもあり、周囲に気になる他船が見えなくなったことから、気が緩み、眠気を催すようになったが、当直交替まで1時間ほどであり、それまでは眠気に耐えられるものと思い、立って外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
 B受審人は、いつしか居眠りに陥り、23時43分三木埼灯台から122度12.8海里の地点に達したとき、ほぼ正船首2.5海里のところに旭丸の白、白、紅、緑4灯を視認し得る状況となり、その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近していたが、このことに気付かず、旭丸の左舷側を通過することができるよう、速やかに針路を右に転じないまま進行中、同時50分少し前、ふと目を覚ましたとき、船首至近に迫った旭丸を認め慌てて左舵一杯としたが、間に合わず、高砂丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、旭丸は、右舷船首部外板に破口を伴う損傷を、高砂丸は、右舷外板に亀裂を伴う損傷を、右舷ブルワーク及びハンドレールに損壊をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、熊野灘において、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、東行する高砂丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、針路を右に転じなかったことと、西行する旭丸が、動静監視不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、熊野灘において、単独で船橋当直に就き、椅子に腰掛け自動操舵で東行中、眠気を催した場合、居眠り運航となるおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、立って外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直交替まで1時間ほどであり、それまでは眠気に耐えられるものと思い、立って外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれのある態勢で接近する旭丸に気付かず、針路を右に転じないまま進行して同船との衝突を招き、旭丸の右舷船首部外板に破口を伴う損傷を、高砂丸右舷側の外板、ブルワーク及びハンドレールに損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人が、夜間、熊野灘を西行中、正船首方に高砂丸の灯火を視認して進行する場合、高砂丸と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、まだ距離が十分あるものと思い、書類整理に専念し、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、高砂丸がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、針路を右に転じないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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