日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年横審第107号
件名

貨物船北翔丸漁船初栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月29日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(勝又三郎、猪俣貞稔、向山裕則)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:北翔丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:北翔丸二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:初栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
北翔丸・・・右舷中央部の外板に擦過傷
初栄丸・・・右舷前部を圧壊

原因
北翔丸・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
初栄丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、北翔丸が、前路を左方に横切る初栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、初栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月6日14時31分
 千葉県勝浦港東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船北翔丸 漁船初栄丸
総トン数 3,524トン 4.9トン
全長 102.43メートル  
登録長   11.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,324キロワット 264キロワット

3 事実の経過
 北翔丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか9人が乗り組み、空倉のまま、船首2.30メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、平成12年2月5日09時00分東播磨港を発し、釧路港に向かった。
 A受審人は、発航後友ケ島水道を航行したのち、本州南岸を北上し、翌6日11時46分野島埼灯台から156度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点において、次の変針地点に向かう057度に針路を定め、機関を12.0ノットの全速力前進にかけ、自動操舵にて進行し、同時55分次直のB受審人に船橋当直を引き継いだ。
 B受審人は、甲板手とともに船橋当直にあたり、6海里レンジとしたレーダーを監視しながら、適宜操舵を手動に切り換えて漁船を替わしながら続航していたところ、14時24分レーダーで右舷船首23度3.0海里に、前路を左方に横切る態勢の初栄丸を中心とした3隻の映像を初認し、同時26分少し過ぎ右舷船首23度2.0海里に接近したのを視認したものの、漁船は近づいてから避けるものと思い、右転するなどして3隻の漁船を避けることなく進行した。
 B受審人は、船橋前部中央よりやや左側の汽笛の位置で、3隻の漁船を肉眼で監視していたところ、一番手前の漁船は0.5海里ばかりに接近したとき左転したのを認め、一番遠方の漁船は400メートルばかりに接近したところで停止したので、真ん中を走る初栄丸も針路を変えたものと思い、その後十分な動静監視をしないまま、同一針路のまま続航した。
 14時30分半少し過ぎB受審人は、初栄丸の方位が変わらずに200メートルに見る態勢となり、同船が自船を避航する様子が見えなかったものの、他の漁船と同じようにいずれ自船を避けるものと思って続航し、同時31分わずか前初栄丸が間近に接近したとき初めて衝突の危険を感じ、甲板手に左舵一杯を令したが、効なく、14時31分勝浦灯台から091度9.1海里の地点において、北翔丸は、左に3度回頭して船首が054度を向いたとき、原速力のまま、その右舷中央部と、初栄丸の右舷船首とが、前方から44度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力2の西風が吹いていた。
 A受審人は、自室で仕事をしていたとき、窓越しにふと船首方を見て、右舷船首間近に迫った初栄丸に気付き、急ぎ昇橋したが、どうすることもできず、事後の措置にあたった。
 また、初栄丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、かじき引き縄漁のため、船首0.30メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同月6日04時00分千葉県勝浦東部漁港(豊浜地区)を発し、同漁港沖合の漁場に向かった。
 C受審人は、1時間ほど走って漁場に至り、僚船と互いに情報を交換しながら操業を開始し、適宜進行方向を変えて引き縄を行い、14時00分勝浦灯台から094度17.0海里の地点で操業を終え、自動操舵として上総豊浜港防波提灯台に向かう278度に針路を定めて同地点を発進し、機関を15.5ノットの速力として進行した。
 C受審人は、折からの小雨で窓を閉めて回転窓を回し、10日ほど前に新しくしたレーダーを1.5海里レンジとして作動させ、発進後は漁具の後片付け作業を行いながら続航し、14時10分ごろ、作業を中断して前方を向いて食事を始め、同時24分左舷船首18度3.0海里に北翔丸が接近していたがこれに気付かなかった。
 14時26分少し過ぎC受審人は、勝浦灯台から092度10.2海里の地点に達したとき、北翔丸が左舷船首18度2.0海里に接近していたが、依然同船の接近に気付かず、その後もレーダー映像を見ながら進行していたところ、同時27分半左舷船首18度1.5海里に同船の映像を初めて認めた。
 C受審人は、レーダーレンジが3.0海里になっていると勘違いし、画面の端に見えた北翔丸の映像をまだ3.0海里あるから大丈夫と思い、同船の動静を監視せず、警告信号を吹鳴することも、間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく、再び漁具の後片け作業を行いながら進行中、ふと前方を見て至近に迫った同船の外板を視認し、傍らにあった遠隔操舵装置を操作して左舵一杯をとったが、効なく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、北翔丸は、右舷中央部の外板に擦過傷を生じ、初栄丸は、右舷前部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、千葉県勝浦港東方沖合において、北翔丸が、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する初栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、初栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、千葉県勝浦港東方沖合において、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する初栄丸を認めた場合、右転するなどして同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、他の漁船と同じように初栄丸の方で自船を避けるものと思い、同船の進路を避けなかった職務上の過失により、初栄丸との衝突を招き、自船の右舷中央部に擦過傷を生じさせ、初栄丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、千葉県勝浦港東方沖合において、北翔丸のレーダー映像を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、まだ距離があるから大丈夫と思い、後片付け作業に専念し、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:103KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION