日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年横審第106号
件名

遊漁船英正丸プレジャーボート海龍丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月22日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、勝又三郎、西村敏和)

理事官
葉山忠雄

受審人
A 職名:英正丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:海龍丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
英正丸・・・左舷外板全般に擦過傷
海龍丸・・・左舷船尾部外板に破口、転覆し廃船、同乗者が頭蓋骨骨折

原因
英正丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
海龍丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、英正丸が、見張り不十分で、錨泊中の海龍丸を避けなかったことによって発生したが、海龍丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月19日05時00分
 静岡県御前埼東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船英正丸 プレジャーボート海龍丸
総トン数 4.9トン  
登録長 10.98メートル 6.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 301キロワット 66キロワット

3 事実の経過
 英正丸は、最大搭載人員15人のFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客2人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成12年5月19日04時40分静岡県地頭方漁港を発し、御前埼南方沖合にある金洲ノ瀬の魚釣り場に向かった。
 ところで、英正丸の最大速力は21ノットで、10ノット以上の速力で航行すると船首が浮上して死角を生じ、通常の航海における全速力前進である16ノットでは、操舵室において前方左右にそれぞれ約25度の範囲が死角となり、A受審人は死角を補うため、操舵室内で立って天井を開け、そこから頭を出して見張りをしたり、時々船首を左右に振って前方を確かめるなどしていた。
 発航後A受審人は、御前崎港内を横断して同港の防波堤A及び同B間の水路を通過したのち、これら防波堤の東側で陸岸沿いに散在する太刀魚漁の漁船に注意しながら手動操舵で南下し、04時55分半御前埼灯台から051度(真方位、以下同じ。)2,200メートルの地点で、針路を御前埼と御前岩の間に向け、164度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力で進行した。
 定針後A受審人は、時々しぶきを受ける状態であったことから、操舵室内でいすに腰掛け、御前埼南方沖合を通過する船舶を確認するため、3海里レンジとしたレーダーを見ながら続航したところ、前路に海龍丸が釣り場を求めて錨を投じており、04時59分御前埼灯台から096度2,150メートルの地点に達したとき、正船首500メートルのところに錨泊している同船を視認することができ、その後、衝突のおそれのある態勢で同船に接近していることを認め得る状況であったが、これまでにこの付近で早朝に錨泊している船舶を見かけたことがなかったことから、錨泊している船舶はいないものと思い、船首を左右に振るなどして前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、右転するなど同船を避けずに続航した。
 05時00分少し前A受審人は、海龍丸と80メートルに接近したものの、依然見張り不十分で同船に気付かず、同船を避けないまま進行中、05時00分御前埼灯台から107度2,400メートルの地点において、英正丸は、原針路、原速力のまま、その船首が海龍丸の左舷船尾部に前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の北北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
 また、海龍丸は、船体中央部に操舵席を有する船外機付きFRP製プレジャーモーターボートで、B受審人が1人で乗り組み、同人の父親及び友人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日04時45分御前崎港を発し、御前埼と御前岩の間の魚釣り場に向かった。
 B受審人は、前示衝突地点付近に至って測深ののち、04時57分水深19メートルの前示衝突地点で、錨を投じ、合成繊維製ロープを約40メートル延出し、形象物を掲げないまま機関を停止して錨泊した。
 投錨後B受審人は、父親が左舷船尾で、友人が右舷船尾でそれぞれ船首方を向いて腰掛け、自身は操舵席付近で右舷後方を向いて腰掛け、船体の動きが止まるのを待って魚釣りの準備にかかり、04時59分船首がほぼ風上に向いて029度に向首したとき、左舷船首45度500メートルのところに英正丸を視認することができ、その後、同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め得る状況であったが、錨泊している船に向かってくる船はいないものと思い、魚釣りの準備に専念し、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま魚釣りの準備を続けた。
 B受審人は、05時00分少し前何気なく左舷船首方を見たとき、左舷船首45度80メートルのところに英正丸の船体を認めたものの、自船に向かってくることはないと思い、同船がさらに接近して危険を感じたとき、機関を始動したが間に合わず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、英正丸は、左舷外板全般に擦過傷及びプロペラ翼1枚の先端に欠落を生じたが、のち修理され、海龍丸は、左舷船尾部外板に破口を生じて転覆し、英正丸によって地頭方漁港に引き付けられたが廃船とされ、海龍丸の同乗者清水一郎が頭蓋骨骨折及び左中耳出血などの傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、静岡県御前埼東方沖合において、英正丸が、同埼南方の魚釣り場に向かって南下する際、見張り不十分で、前路で錨泊中の海龍丸を避けなかったことによって発生したが、海龍丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、静岡県御前埼東方沖合において、同埼南方の魚釣り場に向かって南下する場合、前路で錨泊中の海龍丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これまでにこの付近で早朝に錨泊している船舶を見かけたことがなかったことから、錨泊している船舶はいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の海龍丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、英正丸の左舷外板全般に擦過傷及びプロペラ翼1枚の先端に欠落を生じさせ、海龍丸の左舷後部外板に破口を生じさせて転覆させ、同船の同乗者1人に頭蓋骨骨折などの傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、静岡県御前埼東方沖合において、錨泊して魚釣りを行う場合、左舷前方から接近する英正丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、錨泊している船に向かってくる船はいないものと思い、魚釣りの準備に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷前方から接近する英正丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま魚釣りの準備を続け、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、同乗者を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:43KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION