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平成12年横審第105号
件名

漁船栄徳丸漁船丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月16日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(向山裕則、半間俊士、吉川 進)

理事官
古川 隆一

受審人
A 職名:栄徳丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
栄徳丸・・・ほとんど損傷
丸・・・右舷後部舷縁に擦過傷

原因
丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
栄徳丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、丸が、見張り不十分で、澪筋をこれに沿って航行する栄徳丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、栄徳丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月13日10時40分
 千葉県盤州

2 船舶の要目
船種船名 漁船栄徳丸 漁船
総トン数 3.07トン 0.4トン
登録長 8.10メートル 5.67メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 102キロワット  
漁船法馬力数   30

3 事実の経過
 栄徳丸は、採貝藻漁業に従事する無蓋操舵室を設けた、船外機で推進するFRP製和船型漁船で、A受審人が妻と乗り組み、あさり採取の目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、平成11年9月13日05時15分千葉県金田(瓜倉地区)漁港を発し、同県盤州にある盤洲鼻西方沖合1,500メートルばかりの漁場に向かい、同時30分同漁場に至って操業を行い、あさり112キログラムを獲て、10時28分帰途に就いた。
 ところで、盤州は、西方に向く半円状の地形をした陸岸から沖合約1,300メートルに亘(わた)るあさり漁業に適した干潟で、同干潟内にある各漁港から澪筋が浚渫整備され、金田(瓜倉地区)漁港の澪(みお)筋は、水深2.5メートルで、同漁港内から312度(真方位、以下同じ。)の方向に長さ約1,300メートル、幅40メートルあり、同沖側端から約800メートル港側に入った地点から北浜町の船だまりに向かって枝分かれし、海底より約1メートルの高さの崩落防止用鉄製矢板が澪筋の両側に打たれ、更にその外側に、高潮時に水面から約2メートルの高さとなる竹製の杭(以下「竹杭」という。)が同漁港防波堤から沖側端まで20ないし30メートルの間隔をもって立てられていたので、付近海域を航行する船舶は澪筋が容易に識別でき、特に下げ潮に当たるとき、澪筋をこれに沿って通航する船舶は、両側の竹杭や矢板などの影響から、可航水域が制限される状況となっていた。
 また、盤州におけるあさり採取漁法は、通称大巻といわれる機械方式と腰巻といわれる手動方式があり、大巻は、比較的船型の大きい漁船を用い、盤州外縁水域において、船尾から投錨して伸出した錨索を巻くことによって後進し、船首に固縛して海底に入れた棒柄付かごで海底をすくい、潮汐に関係なく朝6時ころから始めて約4時間の操業を行うもので、腰巻は、大巻より小さい漁船を用い、養殖場において、低潮時に操業者自身が直接海に下り、手によりかごで海底をすくうものであり、栄徳丸は大巻による操業に従事する漁船であった。
 A受審人は、前示漁場を発進後、陸岸と海ほたる(木更津人工島)のほぼ中間に向け、機関を全速力前進にかけて7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で北進し、10時35分半東京湾アクアライン海ほたる灯(以下「海ほたる灯」という。)から155度3,300メートルの地点の、金田(瓜倉地区)漁港の澪筋の沖側端付近に至り、右転して同澪筋に入り、針路を澪筋に沿う132度に定めた。
 定針ののち、A受審人は、腰巻により操業に従事する漁船(以下「腰巻漁船」という。)の漁場付近を航過することになり、折から腰巻漁船の操業開始時刻の11時に近づきつつあったので、澪筋外で低潮を待ったり、漁場に向かって前路を横切る多数の腰巻漁船と出会う状況となり、10時38分海ほたる灯から152度3,650メートルの地点において、機関を微速力前進に落とし、2.0ノットの速力で立ち上がって手動操舵により進行した。
 10時39分わずか前A受審人は、海ほたる灯から152度3,700メートルの地点に達したとき、左舷船首61度155メートルのところに丸が存在し、衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが、同船のすぐ前方において澪筋を横切る態勢で航行している腰巻漁船5隻(以下「第三船群」という。)に気をとられ、それらに後続する船舶はいないと思い、第三船群の後方の見張りが不十分となり、この状況に気付かず、丸と更に接近したが、行きあしを止めるなどして衝突を避けるための措置をとらず、第三船群と替わったものの、依然として丸に気付くことなく続航中、10時40分海ほたる灯から152度3,800メートルの地点において、栄徳丸は、原針路、原速力のまま、その船首が丸の右舷後部舷縁に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、潮高は約0.9メートルであった。
 A受審人は、船首部付近に座っていた妻の大声を聞いて初めて衝突に気付き、直ちに後進にかけて丸から離れ、事後の措置に当たった。
 また、丸は、採貝藻漁業に従事する船橋の無い、船外機で推進するFRP製和船型漁船で、B受審人が単独で乗り組み、腰巻によるあさり採取の目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同日09時45分千葉県金田(中島地区)漁港を発し、金田(瓜倉地区)漁港の澪筋の南側に当たる、瓜倉地区の西方沖合1,000メートルばかりの漁場に向かった。
 B受審人は、出航すると西に向かって微速力前進で進行し、操業を開始するまで時間があるので、時間調整をしながら進行し、その途中、小さなあさりを海に戻すための漁具を配っている金田漁業協同組合(以下「漁協」という。)の監視船が、海ほたる灯から149度3,700メートルの地点に錨泊していたので、10時38分監視船の右舷側に極微速力で接近して漁具を受け取り、同時38分半わずか前機関を半速力前進にかけ、澪筋を直角に横切る222度に針路を定め、4.0ノットの速力で進行した。
 10時39分わずか前B受審人は、海ほたる灯から150度3,700メートルの地点に至ったとき、右舷船首29度155メートルのところに、澪筋をこれに沿って航行する栄徳丸が存在し、衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め得る状況であったが、すぐ前方を航行している第三船群に気をとられ、栄徳丸が澪筋外で低潮を待っている多数の腰巻漁船と重なっていたこともあって、右舷前方の漁船群の中に澪筋を航行する船舶はいないと思い、同方向に対する見張りが不十分となり、この状況に気付かず、行きあしを止めるなどして衝突を避けるための措置をとることなく続航中、第三船群のうち2隻が、澪筋内に入り右方に横切る態勢になったことを認めて機関を中立とし、依然として栄徳丸に気付かないまま、同時40分わずか前惰力で澪筋に入り、約1ノットの速力になったとき、原針路のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、栄徳丸にはほとんど損傷がなく、丸は右舷後部舷縁に擦過傷を生じたが、のち修理され、B受審人が右下腿挫創等を負った。

(航法の適用)
 大巻方式の操業方法を採る栄徳丸は、腰巻方式で行う丸に比べ、操業用の装備が多く、より大型であるものの、栄徳丸の喫水が丸とほぼ同じであったことや、栄徳丸は漁場との往復に、安全性のため潮高と関係なく澪筋を利用していることなどから、当時の潮高に照らし、同船が澪筋でなければ安全に航行することができない船舶であるとは認められない。
 しかし、澪筋をこれに沿って航行する栄徳丸が、安全性の高い針路選定を行うことは、航海者にとって当然のことで、たまたま、本件後、澪筋外においても十分な水深があったことが分かったものの、例えば、横切り見合い関係を想定して同船が避航船の立場となった場合は、竹杭が航行の障害になることや、当時下げ潮の中央期であったことを考慮すれば、避航のために澪筋を離れれば矢板との船底接触のおそれがあり、同船は、外形的に可航水域が制限されていたと認められる。
 このことは、高潮時においても、竹杭が航行の障害になること、並びに実際にこの付近海域を航行する船舶が、澪筋内で他船と行き会うこととなった場合、互いに右側端に寄ることや、横切る際には潮高と関係なく澪筋をこれに沿って航行中の他船に注意を払っていることなどから、本澪筋付近の航法は、海上衝突予防法第9条の狭い水道等の、及び港則法第14条の航路の各航法目的を反映させ、澪筋を横切る船舶が、それに沿って航行している船舶を避ける措置をとることとするのが、合理的で、かつ交通整理がなされ、衝突防止に寄与するものと思考される。
 したがって、本件の場合は、澪筋を横切る丸に避航義務があるが、それに沿って航行している栄徳丸にも衝突を避けるための措置をとる義務があり、船員の常務で律するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、千葉県盤州において、澪筋を横断する丸と、澪筋をこれに沿って航行する栄徳丸とが衝突のおそれのある態勢で接近する際、丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、栄徳丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、千葉県盤州において、漁場に向かって澪筋を横断する場合、澪筋をこれに沿って航行する他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、すぐ前方を同航する第三船群に気をとられ、右舷前方に停留している多数の漁船の中に澪筋を航行する船舶はいないと思い、同方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、澪筋をこれに沿って航行する栄徳丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、丸の右舷後部舷縁に擦過傷を生じさせ、自らも右下腿挫創等を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、千葉県盤州において、帰航のため澪筋をこれに沿って航行する場合、澪筋を横断して自船に接近する他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、左舷前方から澪筋を横切る第三船群に気をとられ、それらに後続する船舶はいないと思い、第三船群の後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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