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平成12年横審第90号
件名

貨物船日清貨物船第八東星丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月8日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(勝又三郎、猪俣貞稔、平井 透)

理事官
葉山忠雄

受審人
A 職名:日清船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:日清一等航海士 海技免状:一級海技士(航海)
C 職名:第八東星丸甲板長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
日 清・・・球状船首破口
東星丸・・・右舷前部外板破口、浸水、沈没
船長、機関長、一等機関士・・・行方不明

原因
東星丸・・・海交法の航法(避航動作)不遵守(主因)
日 清・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、航路外から航路に入ろうとする第八東星丸が、航路をこれに沿って航行する日清の進路を避けなかったことによって発生したが、日清が、第八東星丸に対して避航を促す警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年6月29日16時54分
 伊良湖水道航路

2 船舶の要目
船種船名 貨物船日清 貨物船第八東星丸
総トン数 6,429トン 497トン
全長 138.00メートル 76.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 9,340キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 日清は、船首船橋型の鋼製自動車運搬船で、A及びB両受審人ほか9人が乗り組み、車輌831台を積載し、船首6.18メートル船尾6.46メートルの喫水をもって、平成11年6月29日14時45分名古屋港を発し、鹿児島港に向かった。
 A受審人は、伊勢湾を南下し、伊勢湾灯標通過後、船橋当直を二等航海士に任せて自室に退いて休息をとり、16時25分神島灯台から326度(真方位、以下同じ。)7.7海里の地点で伊良湖水道航路通航に備えて昇橋し、当直中のB受審人から針路145度及び巨大船が3海里前方を先航し、同航路入航時刻が同船とほぼ同じになる旨の引継ぎを受け、B受審人を補佐に、甲板手を操舵にそれぞれ就け、自ら操船の指揮に当たった。
 16時45分A受審人は、神島灯台から355度1.6海里の地点において、針路を134度に定め、11.0ノットの港内全速力前進で伊良湖水道航路に入り、先航する巨大船を追い越すため、同時46分航海全速力に増速し、同船の左舷側を追い越したのち、同時51分神島灯台から037度1.06海里の地点において、B受審人から第八東星丸(以下、「東星丸」という。)を認めた旨の報告を受け、右舷船首16度1.07海里に、同航路に入る態勢の同船を初めて認めた。
 B受審人は、東星丸が伊良湖水道航路外から同航路に入るのを認めたのち、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況になると判断したが、A受審人が狭水道通航の指揮を執っているので当然承知しているものと思い、自船の進路を避けずに航路外から航路に入ろうとする東星丸に対して、避航を促す警告信号を行うようA受審人に進言することなく、同船の動静を監視した。
 A受審人は、東星丸を初認したのち、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となるのを認めたが、同船がそのうち右転して、左舷を対して替わる態勢になるであろうと思い、避航を促す警告信号を行うことなく航路の右側に寄せるつもりで、16時52分少し過ぎ右舵10度を令したあと回頭速度が遅いことから、同時52分半神島灯台から053度1.07海里の地点で、更に右舵20度を令して右転を開始した。
 16時53分A受審人は、風と潮流の影響を受けて速力が13.0ノットになり、船首が154度を向いたとき、東星丸を正船首760メートルに見るようになったので、無難に左舷を対して替わるつもりで、同船の動静を監視していたところ、同時53分少し過ぎ船首が163度を向き、同船を左舷船首10度540メートルに見たとき、突然同船が左転を始めたので急ぎ左舵一杯を令したが、効なく、16時54分神島灯台から070度1.07海里の地点において、日清は160度を向いたとき、原速力のまま、その船首が東星丸の右舷前部に前方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力7の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、伊良湖水道には約1.3ノットの北西流があった。
 また、東星丸は船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長G及びC受審人ほか3人が乗り組み、ステンレス合金約1,300トンを積載し、船首3.65メートル船尾4.65メートルの喫水をもって、同月29日12時10分名古屋港を発し、大阪港に向かった。
 13時05分G船長は、名古屋港東航路を出たところで、C受審人に船橋当直を任せて休息をとった。
 C受審人は、伊勢湾を南下し、15時50分一等航海士に対して風速が強くなり、視界も少し悪くなってきたことを引き継ぎ、当直を交代して自室に退いた。
 そののちG船長は、昇橋して操船の指揮に当たり、16時10分伊良湖水道航路南口を航過して南下したが、ますます東風が強まり荒天になったので伊勢湾内で荒天避難を行うこととし、同時32分ごろC受審人の部屋に赴いてその旨を告げ、同時33分半反転し、同時35分神島灯台から143度1.6海里の地点で、針路を344度に定め、9.0ノットの速力で再び同航路に向け、手動操舵で進行した。
 G船長は、操舵室右舷側の窓の前に位置し、一等航海士を操舵に、機関長を機関操作に、昇橋してきたC受審人を操舵室左舷側の窓の前で見張りにそれぞれ就けて進行した。
 16時50分少し過ぎC受審人は、神島灯台から098度1.2海里の地点に達したとき、ほぼ船首方1ないし1.5海里に小型鋼船を先頭とする日清を含む3隻の船舶が伊良湖水道航路を南下してくるのを認め、G船長にその旨を報告をしたが、日清と右舷を対して替わることができると思い、その後同船の動静監視を十分に行わなかった。
 G船長は、C受審人から報告を受けたとき、針路を適宜変え、日清を左舷船首15度1.3海里に、その後方に巨大船をそれぞれ初認し、16時51分神島灯台から093度1.2海里の地点で、伊良湖水道航路南西端付近に達したとき、日清と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となるのを認めたが、同航路をこれに沿って航行している同船の進路を避けることなく、同時52分同航路に入り、同時52分少し過ぎ小型鋼船が右方に転舵して自船の進路を避けた旨の報告をC受審人から受けてこれを確認したが、依然日清の進路を避けずに同一針路のまま続航した。
 16時53分G船長は、神島灯台から079度1.12海里の地点に達したとき、左舷船首10度760メートルのところに、日清が自船に向首して接近することから、操舵に当たっている一等航海士に針路を日清と同船に後続する巨大船との間に向けるよう命じた。
 一等航海士は、日清が右転していたので、自船はすでに日清の左舷船首側に少し出ていたものの同船の緑灯が見えていたので、16時53分少し過ぎ左舵を取ったところ、同船が右舷船首17度540メートルに迫る状況となり、急左転を開始した。
 G船長は、C受審人の「近すぎるのでは。」との問いかけに、「緑灯を見せているから大丈夫、そのまま行け。」と指示したが、日清の船首が意外に早く右舷船首に迫るので衝突の危険を感じ、同時54分わずか前機関停止、続いて全速力後進を令したが、効なく、左回頭中で船首が280度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、日清は、球状船首に破口を伴う凹損を生じたが、のち修理され、東星丸は、右舷前部外板に破口を生じて浸水し、16時57分神島灯台から078度1.13海里の地点において沈没し、C受審人は膨張式救命筏に移乗して救出されたが、一等航海士D(昭和14年1月5日生、五級海技士(航海)免状受有)が死亡し、G船長(昭和14年2月6日生、三級海技士(航海)免状受有)、機関長E(昭和22年10月23日生、三級海技士(機関)免状受有)及び一等機関士F(昭和13年4月14日生、四級海技士(機関)免状受有)がそれぞれ行方不明となった。

(原因)
 本件衝突は、伊良湖水道航路において、同航路南口の航路外から航路に入ろうとする東星丸が、同航路をこれに沿って航行する日清の進路を避けなかったことによって発生したが、日清が、航路外から航路に入ろうとする東星丸に対して避航を促す警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 日清の運航が適切でなかったのは、船長が東星丸に対して避航を促す警告信号を行わなかったことと、一等航海士が東星丸に対して避航を促す警告信号を行うよう船長に進言しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、伊良湖水道航路において、同航路をこれに沿って航行中、航路外から航路に入る態勢である東星丸を視認し、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となるのを認めた場合、同船に対して自船の進路を避けるよう、避航を促す警告信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、東星丸がそのうち右転して、左舷を対して替わる態勢になるであろうと思い、同船に対して避航を促す警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、同船の右舷前部外板に破口を生じさせて沈没させるとともに、日清の球状船首に破口を伴う凹損を生じさせ、東星丸の乗組員が死亡及び行方不明となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、伊良湖水道航路において、同航路をこれに沿って航行中、東星丸が航路外から航路に入る態勢であるのを視認し、同船と衝突のおそれがある態勢で接近すると判断した場合、同船に対して避航を促す警告信号を行うよう船長に進言すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、船長が狭水道通航の指揮を執っているので当然承知しているものと思い、同船に対して避航を促す警告信号を行うよう船長に進言しなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人が、操舵室左舷側前面で見張りをするに当たり、日清を初認したのちも同船の動静を監視し続け、その状況を船長に報告した点に徴し、同人の所為は本件発生の原因とはならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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