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平成12年仙審第80号
件名

巡視船おじか漁船第三十七全徳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月29日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(上野延之、根岸秀幸、藤江哲三)

理事官
大本直宏

受審人
A 職名:おじか船長 海技免状:二級海技士(航海)
B 職名:おじか航海長 海技免状:一級海技士(航海)
C 職名:おじか主任航海士 海技免状:四級海技士(航海)
D  職名:第三十七全徳丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
おじか・・・左舷中央部外板に破口
全徳丸・・・船首部に凹損

原因
全徳丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
おじか・・・動静監視不十分、警告信号不履行、服務に関する指揮・監督の不適切、横切りの航法(協力動作)不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第三十七全徳丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るおじかの進路を避けなかったことによって発生したが、おじかが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Dの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月6日03時45分
 宮城県牡鹿半島南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 巡視船おじか 漁船第三十七全徳丸
総トン数 966.51トン 268トン
全長 77.816メートル 50.61メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 5,148キロワット 897キロワット

3 事実の経過
 おじかは、塩釜海上保安部所属の警備・救難業務に従事する鋼製巡視船で、A、B及びC各受審人ほか31人が乗り組み、回航の目的で、船首3.0メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成12年10月4日08時20分境港を発し、塩釜港に向かった。
 A受審人は、発航時から操船指揮を執り、塩釜港までの船橋当直(以下「当直」という。)を3時間交替の4直制として各当直時間帯の当直責任者をB受審人、首席航海士及び主任航海士2人とし、当直補助者としてそれぞれの時間帯に主任航海士及び航海士補を入直させ、境港出港時の操船指揮を終えて降橋した。
 ところで、A受審人は、出入港時や狭水道航行時には昇橋して自ら操船の指揮を執るようにし、その際、必要な報告が当直責任者から得られていたので、特に指示しなくても各当直責任者は当直補助者から必要な報告をその都度得ているものと思い、当直責任者と当直補助者との間の指示・報告を明確に行うなどして当直者全員による組織的な当直体制を維持するよう具体的に指示していなかった。
 翌々6日02時45分B受審人は、C受審人及び航海士補2人とともに昇橋し、03時00分宮城県網地島の濤波岐埼東南東方沖合で、前直者から引き継いで当直に就き、同県牡鹿半島南方沖合を西行した。
 B受審人は、当直中には自らとC受審人とが船橋前面で肉眼による見張りに当たり、他の当直補助者2人を船橋左舷後部に隣接して設置されている自動衝突予防援助装置と警備救難情報表示装置とにそれぞれ配置するようにしていた。また、各当直補助者はB受審人から特に指示がなければ、それぞれの判断で船橋内を移動しながら自主的に当直業務に従事していた。
 03時25分C受審人は、濤波岐埼南南西方沖合に達したとき、左舷前方に第三十七全徳丸(以下「全徳丸」という。)のマスト灯及び緑灯を認め、前路を右方に横切る態勢の全徳丸がある旨をB受審人に報告し、同受審人から「ああ、あれか。」と返事があったものの、特に指示がなかったので、その後の動静監視をB受審人が行うものと思って右舷前方の見張りを始めた。また、B受審人は、報告を受けて左舷前方を見たところ前路を右方に横切る態勢で北上する全徳丸の灯火を認めたものの、一見して同船が自船を避けるものと思って引き続き西行した。
 03時30分B受審人は、濤波岐埼灯台から216.5度(真方位、以下同じ。)4.9海里の地点で、針路を290度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、14.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、法定灯火を表示して自動操舵により進行し、同時37分少し過ぎ濤波岐埼灯台から233度5.6海里の地点に達したとき、全徳丸が左舷船首44度2.0海里となり、その後前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然同船が避航するものと思い、当直補助者に対してレーダーなどで動静監視を行うよう指示せず、自らも方位の変化を測定するなど動静監視を行うことなく、これに気付かないまま、警告信号を行わないで、右舷船首方に見える塩釜港付近の灯火を見ながら続航した。
 03時43分B受審人は、濤波岐埼灯台から243度6.5海里の地点に達したとき、C受審人から全徳丸が間近に接近している旨の報告を受けたが、依然警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中、同時45分わずか前全徳丸が左舷側至近に迫ってようやく衝突の危険を感じ、右舵15度を令したが効なく、03時45分濤波岐埼灯台から246度6.8海里の地点において、おじかは、原速力のまま、300度に向首したとき、その左舷中央部に全徳丸の船首が左舷後方から65度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は、自室において休息中、衝撃を感じて衝突を知り、昇橋して事後の措置にあたった。
 また、全徳丸は、専らあじ・さばなどを漁獲する大中型まき網漁業に従事する全徳丸船団(以下「船団」という。)所属の鋼製運搬船で、D受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首1.3メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、同月5日10時30分千葉県銚子港を発し、17時00分福島県相馬港東方沖合の漁場に至って操業を始め、さば約20トンを漁獲して操業をやめ、19時00分船団とともに同漁場を発して北方の漁場に向かった。
 ところで、D受審人は、船団が、土曜日、日曜日、祝日及び荒天の日には休業していたことから年間出漁日数が約120日で、一旦出漁すると食事をとるときなどを除き、常時操舵室にいて船団所属の各船との無線連絡や魚群の探索などに従事していたので、ほとんど休息をとらない状態であった。
 D受審人は、発航時から当直を自らと一等航海士、甲板長及び甲板員3人の6人による単独2時間輪番制とし、翌6日03時00分濤波岐埼南南西方沖合で、前直者を休息させて単独で当直に当たり、同時15分濤波岐埼灯台から219度10.7海里の地点で、針路を005度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.2ノットの速力で、法定灯火を表示して自動操舵により進行した。
 定針した後、D受審人は、操舵室後部の海図台に寄りかかって見張りに当たっていたところ、ほとんど休息していなかったことから眠気を催したが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、休息中の乗組員を起こして2人当直とするなど居眠り運航の防止措置を十分に行うことなく、そのまま当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
 03時37分少し過ぎD受審人は、濤波岐埼灯台から236.5度7.6海里の地点に達したとき、右舷船首61度2.0海里におじかの前部及び後部の両マスト灯並びに紅灯を視認することができ、その後おじかが前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたが、居眠りしていたのでこのことに気付き得ず、同船の進路を避けることができないまま続航した。
 03時45分わずか前D受審人は、ふと目覚めて顔を上げたとき、右舷側至近におじかを初めて認めて驚き、急ぎ左舵一杯をとり全速力後進としたが効なく、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、おじかは左舷中央部外板に破口を生じて機関室に浸水し、他の巡視船によって塩釜港に引き付けられ、全徳丸は船首部に凹損を生じ、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、宮城県牡鹿半島南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、全徳丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るおじかの進路を避けなかったことによって発生したが、おじかが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 おじかの運航が適切でなかったのは、船長が当直責任者に対して当直者全員による組織的な当直体制を維持するよう指示しなかったことと、当直責任者が当直補助者から前路を横切る態勢の他船がある旨の報告を受けた際、動静監視を行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 D受審人は、夜間、単独で当直に当たり、宮城県牡鹿半島南方沖合を北上中、眠気を催した場合、居眠り運航にならないよう、休息中の乗組員を起こして2人当直とするなど居眠り運航の防止措置を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置を十分に行わなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、おじかの進路を避けることができないまま進行して同船との衝突を招き、おじかの左舷中央部外板に破口を生じて機関室に浸水させ、全徳丸の船首部に凹損を生じさせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、夜間、宮城県牡鹿半島南方沖合を西行中、当直補助者から前路を右方に横切る態勢の全徳丸がある旨の報告を受けた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、当直補助者に対してレーダーなどで動静監視を行うよう指示し、自らも方位の変化を測定するなど動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、全徳丸が避航するものと思い、動静監視を行わなかった職務上の過失により、全徳丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かないまま、警告信号を行わず、間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人が、当直責任者に対して当直者全員による組織的な当直体制を維持するよう指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 しかしながら、このことは、当直責任者が全徳丸の動静監視を行っていれば同船との衝突を避け得る状況であったことに徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。
 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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