日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年函審第56号
件名

漁船第五十八政宝丸漁船第三十三大彦丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月21日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(織戸孝治、酒井直樹、大石義朗)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第五十八政宝丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
政宝丸・・・釣り機等を損傷、船尾外板に破口
大彦丸・・・船首球状部に亀裂

原因
政宝丸・・・気象、海象に対する配慮不十分

主文

 本件衝突は、第五十八政宝丸が、気象情報の収集が不十分で、強風により係留索が切断し、第三十三大彦丸に向け圧流されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年10月20日02時40分
 北海道留萌港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八政宝丸 漁船第三十三大彦丸
総トン数 138トン 108トン
全長 35.69メートル 36.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 514キロワット 404キロワット

3 事実の経過
 第五十八政宝丸(以下「政宝丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事し、1基1軸の固定ピッチプロペラを装備する中央船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成10年10月9日13時00分青森県大畑港を発し、翌10日19時ごろ北海道積丹(しゃこたん)郡神威(かむい)岬沖合の漁場に至って操業を行っていたところ、台風10号の接近による荒天避難のため、同16日12時ごろ同漁場を発進し、翌17日14時00分北海道留萌港に入港した。
 ところで、留萌港の港域は第1区から第4区に分けられ、第1区は最港奥に位置し、東側を陸岸、北側を北岸壁、南側はその東側部分を物揚場とする南岸壁によりそれぞれ囲まれ、西側が第2区に接続する長さ約450メートル幅約250メートルの西方に開いたコの字型の水域を形成し、また、第2区の水域は屈曲して北方に延び、同区の北側が第3区、第4区に接続し、第1区・第2区を内港、第3区・第4区を外港と各々呼称されていた。
 また、留萌は北海道でも有数の強風地帯で、特に冬季吹雪を伴う風速20メートル以上の編西から偏北風が強吹することも珍しくなく、波高6メートル以上の大波が防波堤に激突し、その影響が内港まで及ぶことがあり、平成2年11月11日には西南西の風最大瞬間風速35.2メートルが観測されている。
 一方、前示台風10号は、平成10年10月16日06時00分965ヘクトパスカルの勢力を保持して沖縄の南西方を、翌17日06時00分975ヘクトパスカルとなり九州南西方を、翌18日06時00分980ヘクトパスカルとなり日本海中部をそれぞれ通過し、翌19日06時00分には992ヘクトパスカルに衰弱して温帯低気圧となり北海道北東方のオホーツク海を時速55キロメートル(以下「キロ」という。)で北東方に進行し、また、同時刻新たに発生した1,004ヘクトパスカルの温帯低気圧が日本海中部に、1,028ヘクトパスカルの高気圧が中国大陸にそれぞれ占位する、いわゆる西高東低の冬型の気圧配置となり、ともに時速30キロで東北東進する態勢で同日17時00分には旭川地方気象台から留萌地方では南風が強くなり、翌朝には西に変わって引き続き強く、海岸で最大風速13から18メートルで突風を伴う旨の内容の雷・強風・波浪注意報が発表された。
 A受審人は、当初、留萌港第1区の北岸壁に係留していたが、同岸壁に他船が係留することとなったため、同19日16時ごろ南岸壁の物揚場の東端に左舷係留していた第三十三大彦丸(以下「大彦丸」という。)の船首端から約15メートル西方の同物揚場に自船の船尾端が位置するようにシフトし、通常の係留方法どおり合成繊維製係留索により船首部から直径45ミリメートル(以下「ミリ」という。)・長さ約15メートルのバウライン1本、直径40ミリ・長さ約20メートルの船首スプリングを2重にして1本、船尾部から直径45ミリ・長さ約20メートルのスターンライン1本、同径・長さ約25メートルのブレストラインを4重にして1本の各索を岸壁に取って左舷係留した。また、政宝丸の右舷側にほぼ同型の僚船が、更に同船の右舷側に同様の別の僚船が右舷錨を投入したうえ各船がバウライン・スターンラインをそれぞれ1本岸壁に取って左舷係船し、各船の船首間及び船尾間を互いにロープで結索して3縦列となって係留した。
 A受審人は、神威岬沖合で操業中、気象ファックスで台風10号が日本海を北上することを知ってから同ファックスにより、朝夕の2回気象情報を受信していたが、19日朝には台風10号が通過して温帯低気圧に衰弱し、付近の風も弱まったことから、もう強風が吹くことはあるまいと思い、その後気象ファックスの情報やテレビ放映の天気番組にも注意を払わなかったので、気象情報の収集が不十分となり、冬型の気圧配置になったことや同日17時00分発表の前示の旭川地方気象台の気象注意報にも気付かず、以後気象、海象は平穏になるものと思い、停泊当直員の立直、増しもやい又は沖出しをするなどの荒天準備を行うことなく、22時ごろ自室で就寝した。
 翌20日01時40分旭川地方気象台は、留萌地方の海上海岸では、これから朝のうちにかけ、西又は南西の風が突風を伴い非常に強く、同地方では最大風速25メートルになる旨の内容の暴風・波浪警報を発表した。
 A受審人は、02時ごろ船体が岸壁とこすれ合う衝撃に気付いて目を覚まし、風が強吹しているのを知り、同時10分1人でバウライン1本の増し取りを行ったが、他の係留索も緊張して切断のおそれを感じたので、離岸して錨泊避泊するつもりで、同時30分総員を出港配置に就かせ、同時35分ごろからは適宜機関を前進にかけて船体を保持し、右舷側に係船中の僚船の離船を待っていたところ、同時40分少し前バウラインが切断して後退を始めたので、機関回転数を上げるも効なく、政宝丸は、02時40分留萌港内港西防波堤灯台から137度(真方位、以下同じ。)1,080メートルの地点で、279度を向首したその船尾が、大彦丸の船首に前方から0度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力7の南西風が吹き、波高約2メートルで潮候は上げ潮の末期であった。
 また、大彦丸は、えびかご漁業に従事する中央部船橋型の鋼製漁船で、船長Bほか9人が乗り組み、同日16日19時30分留萌港を発し、北海道西方の武蔵堆において操業中のところ、台風10号の接近による荒天避難のため、18日01時00分留萌港南岸壁物揚場東端で、バウライン3本、ブレストライン4本及びスターンライン2本をそれぞれ同岸壁に取って279度を向首して左舷係留したまま全乗組員が下船した状態で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、政宝丸は、船尾に設置してあるいか釣り機等を損傷するとともに、船尾外板に破口を生じ、大彦丸は、船首球状部に亀裂を生じて両船ともに燃料油が流出したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、暴風・波浪警報が発表された状況の下、台風避難のため、政宝丸が、僚船2隻を右舷側に係船させ3縦列となって留萌港内港奥の南岸壁物揚場において係留停泊中、気象情報の収集が不十分で、停泊当直員の立直、増しもやい又は沖出しをするなどの荒天準備が行われず、強風により係留索が切断し、同物揚場に隣接して係留停泊中の大彦丸に向け圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、僚船2隻を右舷側に係船させ3縦列となって留萌港内港奥の南岸壁物揚場において係留停泊する場合、同港は北海道でも有数の強風地帯で、特に冬季吹雪を伴う風速20メートル以上の偏西から偏北風が強吹することも珍しくなく、波高6メートル以上の大波が防波堤に激突し、その影響が港奥にまでも及ぶことがあるから、停泊当直員の立直、増しもやい又は沖出しをするなどの荒天準備の必要性について適切な判断ができるよう、気象ファックスやテレビの天気情報などにより気象情報の収集を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、台風が通過して温帯低気圧になって風が弱まったことから、もう強風が吹くことがあるまいと思い、気象情報の収集を十分に行わなかった職務上の過失により、冬型の気圧配置になったことや旭川地方気象台から発表された気象警報に気付かず、荒天準備を行うことなくそのまま係留中、増勢した強風により係留索が切断し、同物揚場に隣接して係留停泊中の大彦丸に向けて圧流され同船との衝突を招き、政宝丸の船尾外板に破口などを、大彦丸の球状船首部に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:91KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION