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平成12年門審第90号
件名

油送船美和丸漁船第八萬漁丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西山烝一、供田仁男、米原健一)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:美和丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第八萬漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
C 職名:第八萬漁丸機関員

損害
美和丸・・・左舷側船尾に凹損及び擦過傷
萬漁丸・・・左舷側船首部を圧壊

原因
萬漁丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守、服務に関する指揮・監督不適切(主因)
美和丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八萬漁丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る美和丸の進路を避けなかったことによって発生したが、美和丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年2月10日12時35分
 日向灘

2 船舶の要目
船種船名 油送船美和丸 漁船第八萬漁丸
総トン数 499トン 14トン
全長 65.30メートル  
登録長   12.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   160

3 事実の経過
 美和丸は、主に重油の輸送に従事する船尾船橋型の油送船で、船長E及びA受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.00メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成11年2月10日09時50分宮崎県油津港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
 E船長は、出港操船後引き続いて船橋当直に就き、11時05分戸崎鼻灯台から112度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき、針路を023度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、12.9ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、11時30分宮崎港南東方沖合6海里の地点で昇橋し、E船長と交替して船橋当直に就き、単独で見張りに当たり、12時28分富田灯台から100度7.7海里の地点に達したとき、左舷前方2.3海里のところに南下中の第八萬漁丸(以下「萬漁丸」という。)を初めて視認したが、そのころ携帯電話で会社と雇用条件について話をし、その内容が不満で考え込んでいたことから、一瞥(いちべつ)しただけで、左舷を対して無難に航過するものと思い、引き続き同船の動静監視を行うことなく、同一の針路及び速力で続航した。
 12時32分A受審人は、富田灯台から093度8.0海里の地点に達したとき、左舷船首8度1.0海里のところに前路を右方に横切る萬漁丸を視認できる状況で、その後同船と方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然として同船に対する動静監視が不十分で、このことに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき右転するなど衝突を避けるための協力動作もとらないで進行した。
 12時34分半A受審人は、萬漁丸が同方位300メートルに接近したことにようやく気付き、衝突の危険を感じ、汽笛で短音1回を吹鳴したのち、手動操舵に切り替えて右舵一杯とし、更に汽笛を吹鳴したが及ばず、12時35分富田灯台から089度8.2海里の地点において、美和丸は、船首が045度を向いたとき、原速力のまま、その左舷船尾部に萬漁丸の左舷船首部が前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
 E船長は、汽笛の音を聞いて昇橋したところ、萬漁丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
 また、萬漁丸は、操舵室を船体中央部に設けたFRP製漁船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか1人が乗り組み、まぐろはえなわ漁の目的で、船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同日09時10分宮崎県門川漁港を発し、沖縄島南東方海域の漁場に向かった。
 B受審人は、出港操船後引き続いて船橋当直に就き、宮崎県東岸に沿って南下し、11時35分富田灯台から047度11.2海里の地点に達したとき、針路を180度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分1,300にかけ、7.5ノットの対地速力で進行した。
 定針して間もなくB受審人は、C指定海難関係人に船橋当直を委ねることにしたが、広い海域であるし、同人が同当直に慣れているから特に指示しなくても大丈夫と思い、見張りを十分に行うよう指示することなく、当直を引き継いで操舵室後方の寝台で休息した。
 C指定海難関係人は、操舵室右舷側のいすに腰掛けて単独で見張りに当たり、12時28分右舷前方2.3海里のところに、北上中の美和丸を視認できる状況であったが、そのころ友人30人分の変更された電話番号を携帯電話に打ち込む作業に熱中し、前方を見ていなかったので、同船の存在に気付かないまま続航した。
 12時32分C指定海難関係人は、富田灯台から086度8.2海里の地点に達したとき、右舷船首15度1.0海里のところに美和丸を視認でき、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況にあったが、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、B受審人に報告が行われず、同船の進路を避ける措置がとられないまま進行中、同時35分わずか前美和丸が吹鳴した2度目の汽笛の音で顔を上げたところ、船首至近に同船の左舷側船体を初めて視認したものの、どうすることもできず、萬漁丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、衝突の衝撃で目を覚まし、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、美和丸は、左舷側船尾部に凹損及び擦過傷を生じ、萬漁丸は、左舷側船首部を圧壊したが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、宮崎港北東方沖合の日向灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、萬漁丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る美和丸の進路を避けなかったことによって発生したが、美和丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 萬漁丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、船橋当直者が、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 B受審人は、日向灘において、無資格の機関員に船橋当直を行わせる場合、見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、広い海域であるし、機関員が船橋当直に慣れているから特に指示しなくても大丈夫と思い、見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、機関員が見張り不十分で、美和丸が接近した旨の報告が得られず、同船の進路を避ける措置がとれないまま進行して衝突を招き、美和丸の左舷側船尾部に凹損及び擦過傷を生じさせ、萬漁丸の左舷側船首部を圧壊させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、宮崎港北東方沖合の日向灘を北上中、左舷前方に南下中の萬漁丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を確かめることのできるよう、引き続き動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、一瞥しただけで、左舷を対して無難に航過するものと思い、引き続き動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する萬漁丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が、宮崎港北東方沖合の日向灘において、単独で船橋当直に当たって南下中、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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