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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年門審第54号
件名

旅客船おーしゃんのーす岸壁損傷事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月21日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、原 清澄、相田尚武)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:おーしゃんのーす船長 海技免状:一級海技士(航海)

損害
おーしゃんのーす・・・損傷なし
3号岸壁・・・盛り上がるなどの損傷

原因
操船不適切

主文

 本件岸壁損傷は、着岸時、回頭惰力に対する減殺措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年10月7日05時00分
 関門港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船おーしゃんのーす
総トン数 11,114トン
全長 166.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 21,182キロワット

3 事実の経過
 おーしゃんのーすは、京浜港東京区、徳島県徳島小松島港徳島区及び関門港新門司区の各港を結ぶ定期航路に就航する、外旋式の可変ピッチプロペラを装備して2基2軸、2舵及び船首部に1基のスラスターを備えた船首船橋型の旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか21人が乗り組み、旅客14人を乗せ、車両132台を積載し、船首5.68メートル船尾6.00メートルの喫水をもって、平成10年10月6日14時30分徳島小松島港徳島区を発し、関門港新門司区に向かった。
 ところで、関門港新門司区の新門司フェリー岸壁は、同区の北部にあってほぼ南北方向に、北側から1号岸壁、2号岸壁及び3号岸壁が逆L字形に築造され、3号岸壁の長さが205メートルで、同岸壁の側面にはその北端から75メートル、105メートル、150メートル及びほぼ南端の4箇所に縦6.70メートル、横3.90メートルの大型防衝構が岸壁から0.95メートル前方に出た状態で取り付けられており、おーしゃんのーすが着岸するときは、2号岸壁の南端に船首部を付けた状態で、3号岸壁に入船左舷係留されていた。
 A受審人は、同6日気象情報を入手し、低気圧が九州の西方海上に接近中で、門司港新門司区に入港するころ、東寄りの強風が吹くおそれがあることを知り、翌7日03時30分周防灘航路第1号灯浮標付近で昇橋し、周防灘西部では毎秒12メートルばかりの東風が吹いていたものの、3号岸壁付近の風速が運航管理規程に定めた引船使用基準の毎秒12メートルを超えないことを確認したうえ、通常どおりの操船に当たって入港することとし、04時32分新門司第1号及び同第2号灯浮標の中間に達したとき、入港用意を令し、船橋に三等航海士及び甲板手を、船首部及び船尾部にも乗組員をそれぞれ配置して操船の指揮を執り、機関を用意し、手動操舵により港口に向かった。
 04時40分A受審人は、新門司北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)を右舷側220メートルに見て航過して新門司区に入ったあと徐々に右転し、同時44分少し過ぎ同灯台から262度(真方位、以下同じ。)1,040メートルの地点に達したとき、折からの東風の影響を考慮して平素より東寄りを航行することとし、針路をほぼ1号岸壁北西角に向く355度に定め、両舷推進器翼角を半速力前進とし、船橋左舷側の窓から顔を出して3号岸壁の方向や行きあしなどを確認しながら8.0ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、その後、両舷推進器翼角を微速力前進に減速して左方へ5度圧流されながら続航し、04時47分少し前2号岸壁の手前220メートルのところで右舷推進器翼角を停止、続けて半速力後進とし、同時48分半少し前船首部が同岸壁まで30メートルで、左舷側が3号岸壁から40メートルの地点に至ったとき、ほぼ行きあしを止めるとともに船体を徐々に3号岸壁と平行にしたあと、船体を平行移動するため、2舵を左舵一杯の45度にとり、左舷推進器翼角を前進側に、右舷推進器翼角を後進側にしたまま、各推進器翼角を適宜半速力、あるいは微速力にそれぞれ操作したうえ、スラスターで微調整しながら3号岸壁に接近した。
 04時49分少し過ぎA受審人は、船体がゆっくり右回頭を始め、左舷船尾が先に3号岸壁に接近していることを認めたが、同岸壁には大型防衝構が設置されているので船体が3号岸壁に直接接触することはないものと思い、船体が同岸壁と平行に戻るよう、直ちにスラスターなどを使用し、回頭惰力に対する減殺措置をとらないまま、着岸作業を続行中、05時00分北防波堤灯台から295度1,380メートルの地点において、おーしゃんのーすは、その船首が010度を向いたとき、左舷船尾部の防舷材が3号岸壁の側面に8度の角度をもって接触した。
 当時、天候は雨で風力5の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 その結果、おーしゃんのーすに損傷はなく、3号岸壁上面が盛り上がるなどの損傷を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件岸壁損傷は、夜間、関門港新門司区の3号岸壁に着岸する際、回頭惰力に対する減殺措置が不十分で、船尾部が同岸壁の側面に接触したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、関門港新門司区の3号岸壁に着岸操船中、船体が右回頭していることを認めた場合、船体が直接同岸壁に接触すると岸壁に損傷を生じるおそれがあったから、船体が同岸壁と平行になるよう、直ちにスラスターなどを使用し、回頭惰力に対する減殺措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、3号岸壁には大型防衝構が設置されているので、船体が直接同岸壁に接触することはないものと思い、船体が3号岸壁と平行になるよう、直ちにスラスターなどを使用し、回頭惰力に対する減殺措置をとらなかった職務上の過失により、右回頭を続けたまま同岸壁に接近して左舷船尾部の防舷材を直接3号岸壁の側面に接触させ、同岸壁の上面等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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