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平成12年広審第59号
件名

貨物船一興丸貨物船カサギ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(横須賀勇一、工藤民雄、内山欽郎)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:一興丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
一興丸・・・左舷船首部に曲損
カサギ・・・右舷側後部外板に擦過傷

原因
一興丸・・・居眠り運航防止措置不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
カサギ・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、カサギを追い越す一興丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、カサギの進路を避けなかったことによって発生したが、カサギが、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年3月6日01時20分
 瀬戸内海 備讃瀬戸東航路

2 船舶の要目
船種船名 貨物船一興丸 貨物船カサギ
総トン数 198トン 1,373トン
全長 49.6メートル 72.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 1,471キロワット

3 事実の経過
 一興丸は、九州各港と京浜港間の輸送に従事する液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか職員2人が乗り組み、ポリ塩化アルミニウム400トンを積み、船首2.4メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成11年3月5日11時40分山口県宇部港を発し、瀬戸内海経由で京浜港川崎区に向かった。
 A受審人は、当直体制を単独4時間ないし6時間交替として同人と一等航海士が当たることとし、適宜、海技士(航海)の免状を有する機関長も当直に入れることとしていた。
 A受審人は、出港操船に引き続き船橋当直に就いて、周防灘北部を東行したあと、船橋当直を15時から17時まで機関長に、引き続き21時00分まで一等航海士に行わせて伊予灘そして安芸灘を航行し、愛媛県大下島南方沖において、同航海士と船橋当直を交替し6時間の予定で再び当直に当たり同時40分宮ノ窪瀬戸を航過し、翌6日00時15分法定灯火を表示して備讃瀬戸南航路に入航した。
 A受審人は、00時31分高見港防波堤灯台から087度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点に達したとき、針路を備讃瀬戸南航路に沿う063度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 01時00分A受審人は、小瀬居島灯台から244度3.3海里の地点に達したとき、左舷船首15度600メートルに航路内を同航するカサギの船尾灯を認め、間もなく同船が自船より若干速力が遅く、同船を追い越す態勢であることを知ったものの、まだ距離もあり同船の右舷側には支障となる他船もいなかったことから、操縦盤の前方で椅子に腰掛け見張りに当たって続航した。
 01時09分半A受審人は、小瀬居島灯台から245度1.5海里の南備讃瀬戸大橋下に達したとき、椅子から離れ舵輪の後方に立ち手動操舵に切り替えて、針路を同灯台から0.2海里離すつもりで057度として進行中、特別に睡眠不足ということはなかったが、水島航路との交差部も通過し終え、海上も穏やかで、船尾灯を見せた同航船のほかは支障となる船舶が見当たらなかったことから、気が緩み、眠気を感じるようになったが、後しばらく我慢すれば大丈夫と思い、機関長を起こして2人による当直体制をとるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、操縦盤の後方に立ったまま進行中、いつしか居眠りに陥った。
 01時16分A受審人は、小瀬居島灯台から283度0.3海里の地点に達したとき、カサギが針路を航路に沿って069度に転じ同船を左舷船首65度300メートルのところに認め得る状況となり、その後同船を追い越し、衝突のおそれのある態勢で接近することとなったが、依然居眠りしていて、この状況に気付かず続航した。
 01時18分A受審人は、小瀬居島灯台から011度0.25海里の地点に達したとき、左舷船首方150メートルに接近するカサギの進路を避けずに進行中、同時20分少し前ふと目が覚め左舷船首至近に迫った同船に驚き右舵をとったものの効なく、01時20分一興丸は小瀬居島灯台から037度1,130メートルの地点において、原針路、原速力のままその左舷船首部が、カサギの右舷側後部に後方から12度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好で、付近には約0.5ノットの東流があった。
 また、カサギは、船尾船橋型のばら積船で、船長Eほか8人が乗り組み、含水珪酸アルミニウム1,200トンを載せ、船首3.4メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、同月4日大韓民国馬山港を発し、瀬戸内海経由で名古屋港に向かった。
 E船長は、法定灯火を表示して瀬戸内海西部を東行し、翌々6日01時00分小瀬居島灯台から245度3.0海里の地点に達したとき、甲板員を手動操舵に当て、針路を備讃瀬戸南航路に沿う063度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて10.5ノットの速力で進行した。
 01時08分半E船長は、小瀬居島灯台から247度1.5海里の南備讃瀬戸大橋下に達し、針路を同航路に沿う055度に転じたとき、自船の右舷正横後76度400メートルに一興丸の白、白、紅3灯を視認し、同時16分同灯台から325度620メートルの備讃瀬戸東航路への接続部に達し、針路を航路に沿う069度に転じたとき、一興丸を右舷船尾77度300メートルに認めるようになり、その後同船が自船を追い越し、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったものの、そのうち自船を避航するものと思い、警告信号を行うことなく進行中、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、一興丸は、左舷船首部に曲損を、カサギは、右舷側後部外板に擦過傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、両船が備讃瀬戸東航路をこれに沿って航行中、カサギを追い越す一興丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、カサギの進路を避けなかったことによって発生したが、カサギが、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き備讃瀬戸東航路を東行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、機関長を起こして2人による当直体制をとるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、後しばらく我慢すれば大丈夫と思い、機関長を起こして2人当直体制にするなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、航路をこれに沿って航行するカサギを追い越す際、その進路を避けずに進行して衝突を招き、一興丸の左舷船首部に曲損を、カサギの右舷側後部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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