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平成12年神審第99号
件名

漁船第八十八強新丸漁船長盛丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小須田 敏、阿部能正、西林 眞)

理事官
橋本 學

受審人
A 職名:第八十八強新丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:長盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
強新丸・・・船首部外板に亀裂
長盛丸・・・右舷側後部外板に破口

原因
長盛丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
強新丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、長盛丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第八十八強新丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八十八強新丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年6月13日11時00分
 石川県猿山岬北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十八強新丸 漁船長盛丸
総トン数 18トン 5.93トン
登録長 17.45メートル 11.43メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 508キロワット  
漁船法馬力数   50

3 事実の経過
 第八十八強新丸(以下「強新丸」という。)は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、いか一本釣り漁を行う目的で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成11年6月13日08時00分石川県富来漁港を発し、同漁港北北西方の大和海山付近の漁場に向かった。
 A受審人は、発航操船に引き続いて単独で船橋当直に就き、08時30分猿山岬灯台から209度(真方位、以下同じ。)10.6海里の地点において、針路を漁場に向く345度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 10時53分半A受審人は、猿山岬灯台から320.5度17.8海里の地点に達したとき、左舷船首16度1.5海里のところに前路を右方に横切る長盛丸を視認し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、長盛丸の方位が左方に変わるように見えたことから、同船の前路を無難に航過するものと思い、動静監視を十分に行うことなく、折から前日に操業した漁場に差し掛かっていたので、操舵室右舷側に備えたソナーなどの映像に視線を移して続航した。
 A受審人は、10時59分わずか過ぎ長盛丸の方位がほとんど変わらないまま、衝突のおそれがある態勢で300メートルに接近したものの、依然動静監視を十分に行っていなかったのでこれに気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、更に間近に接近した際、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行し、11時00分わずか前至近に迫った長盛丸に気付き、右舵一杯にとるとともに減速したが及ばず、11時00分猿山岬灯台から322度18.9海里の地点で、強新丸は、010度に向いて8.0ノットの対地速力となったとき、その船首が長盛丸の右舷側後部に前方から74度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の西南西風が吹き、視界は良好であった。
 また、長盛丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、延縄漁を行う目的で、B受審人が単独で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日00時30分石川県輪島港を発し、02時30分猿山岬北西方21海里の漁場に至って操業を開始し、30キログラムの漁獲を得て、10時49分わずか過ぎ猿山岬灯台から320.5度19.7海里の地点を発進して帰途に就いた。
 B受審人は、漁場発進と同時に針路を輪島港に向く116度に定め、機関を微速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で自動操舵とし、その後操舵室を離れて前部甲板上で漁獲物の選別作業をしながら進行中、10時53分半猿山岬灯台から321度19.3海里の地点に達したとき、右舷船首33度1.5海里のところに前路を左方に横切り北上する強新丸を視認できる状況にあったが、発進時、周囲をいちべつして他船を認めなかったことから、付近に航行船舶はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、同作業に専念していて強新丸の存在に気付かなかった。
 B受審人は、その後漁獲物の選別作業を終えて操舵室に戻ったものの、持参した弁当を食べ始めるなど、依然周囲の見張りを十分に行わなかったので、強新丸の存在にも、その方位がほとんど変わらないまま衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かず、同船の進路を避けることなく続航し、長盛丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、強新丸は船首部外板に亀裂などを、長盛丸は右舷側後部外板に破口などを生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、石川県猿山岬北西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行中の長盛丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る強新丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中の強新丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、猿山岬北西方沖合において、漁場から帰港のため東行する場合、前路を左方に横切る態勢で接近する強新丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、発進時、周囲をいちべつして他船を認めなかったことから、付近に航行船舶はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、強新丸の存在に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、強新丸の船首部外板に亀裂などを、長盛丸の右舷側後部外板に破口などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、猿山岬北西方沖合において、単独で船橋当直に当たり漁場に向け北上中、前路を右方に横切る態勢で接近する長盛丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、長盛丸の方位が左方に変わるように見えたことから、同船の前路を無難に航過するものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、長盛丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、更に間近に接近した際、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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