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平成12年横審第70号
件名

プレジャーボートとく丸漁船第三豊丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月23日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、西村敏和、平井 透)

理事官
伊東由人

受審人
A 職名:とく丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:第三豊丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
とく丸・・・船首右舷側外板を損傷、転覆、A受審人が頸椎捻挫及び頭部外傷
豊 丸・・・左舷側ビルジキールを損傷

原因
豊 丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
とく丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三豊丸が、見張り不十分で、漂泊中のとく丸を避けなかったことによって発生したが、とく丸が、衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年10月11日10時01分
 静岡県戸田港

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートとく丸 漁船第三豊丸
総トン数 1.76トン 1.10トン
全長   8.70メートル
登録長 6.80メートル 6.72メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 17キロワット 44キロワット

3 事実の経過
 とく丸は、最大搭載人員6人のFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成10年10月11日08時10分静岡県戸田港の大浦岸壁を発し、同時15分同港港口港内側の戸田灯台から064度(真方位、以下同じ。)680メートルの地点で、錨泊をして釣りを始めた。
 ところで、戸田港は、戸田灯台のある御浜埼とその北方対岸の有埼とで形成された港口は北西方に開き、北、東、南の三方は陸岸に囲まれており、港口の可航幅約250メートルであった。また、同港から出漁するさざえ刺し網漁の漁期は、毎年9月15日から翌年5月15日までで、同刺し網漁船は、一旦岸壁を離れて港内で待機し、10時00分に戸田漁業協同組合(以下「漁協」という。)の無線による合図で一斉に出漁し、それぞれの漁場に向かうもので、同時刻には通常約40隻の同漁船が港口を通過する状況であった。
 A受審人は、錨泊後自身は釣りを行わなかったものの、友人の釣りの世話を行いながらすごし、一斉出漁の行われることを知っていて、港内に約40隻の漁船が待機していたので釣りを止めて帰ろうとしたところ、釣果が良かったので友人が釣りを続けたいということから、出漁する漁船の邪魔にならないよう少し沖出しすることとして、09時50分ごろ抜錨し、釣り場を移動した。
 09時55分A受審人は、ほぼ港口の中間にあたる戸田灯台から045度600メートルの地点で、船首を風上に向けて113度とし、操舵スタンドの後方に立って舵柄を足の間に挟み、船首が風上に向かうよう、適宜機関を使用して漂泊しながら友人に釣りを続けさせ、10時00分一斉に航走を始めて港口に向かって来る漁船群を見ていたところ、同時00分少し過ぎ右舷船首70度360メートルのところに、自船に向首してくる第三豊丸(以下「豊丸」という。)を認め、その後同船の方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、それまでに自船付近を航過した漁船は船尾方を替わっていったので、豊丸も自船を避けて後方を替わしてくれるものと思い、自船が出漁船の通航路に位置していることを考慮して、早期に機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続け、同時01分わずか前豊丸が避航する気配なく至近に迫ったのを認めて危険を感じ、機関を後進にかけ、わずかに後退したものの及ばず、10時01分戸田灯台から045度600メートルの地点において、とく丸が、113度に向首していたとき、その船首右舷側に豊丸の船首が前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、豊丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、さざえ刺し網漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日09時50分戸田港の御浜岸壁を発し、同港の北方2海里の漁場に向かった。
 B受審人は、離岸後極微速力で進行し、09時54分戸田灯台から096度350メートルの地点に至り、漂泊して漁協の出漁の合図を待ち、10時00分合図を受け、機関を全速力前進にかけて16.0ノットの対地速力とし、手動操舵で僚船とともに一斉に航走を始めた。
 10時00分少し過ぎB受審人は、御浜埼の桟橋を替わした戸田灯台から080度410メートルの地点で、針路を港口北側わずか西方に向首する003度に定めたとき、正船首方360メートルのところに、漂泊中のとく丸を視認できる状況にあったが、右舷方から出漁してくる数隻の漁船に気を取られ、前方の見張りを十分に行わず、とく丸を見落としたまま進行し、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然同船に気付かず、同船を避けることなく続航中、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、衝撃で衝突を知り、事後の措置にあたった。
 衝突の結果、とく丸は船首右舷側外板を損傷して転覆し、豊丸は左舷側ビルジキールを損傷したが、のちいずれも修理され、A受審人が頚椎捻挫及び頭部外傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、静岡県戸田港において、出航中の豊丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のとく丸を避けなかったことによって発生したが、港口で漂泊中のとく丸が、衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、静岡県戸田港において、定められた出漁時刻となって多数の漁船とともに一斉に発進し、同港北方の漁場に向かうため、港口を横切って北上する場合、前路で漂泊しているとく丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、右舷方から出漁してくる漁船に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊しているとく丸を見落とし、同船を避けないまま進行して同船との衝突を招き、とく丸の船首部右舷側外板に損傷を生じさせて転覆させ、豊丸の左舷側ビルジキールに損傷を生じさせ、A受審人に頚椎捻挫及び頭部外傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、静岡県戸田港において、一斉に出漁してくる漁船を避けるため釣り場を移動し、港口で漂泊して釣りを行うにあたり、右舷方に豊丸を認め、同船が接近してくることを知った場合、自船が出漁船の通航路に位置していることを考慮して、早期に衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船を避けてくれるものと思い、早期に衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も負傷するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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