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平成11年横審第111号
件名

漁船第二十一大徳丸遊漁船大幸丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月9日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、勝又三郎、西村敏和)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第二十一大徳丸一等航海士兼漁労長 海技免状:六級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:大幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
大徳丸・・・損傷なし
大幸丸・・・右舷船首部ハンドレールに曲損、甲板員が肋軟骨骨折

原因
大徳丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
大幸丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二十一大徳丸が、見張り不十分で、漂泊中の大幸丸を避けなかったことによって発生したが、大幸丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成9年10月20日08時40分
 鹿島港沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一大徳丸 遊漁船大幸丸
総トン数 65トン 4.92トン
全長 29.05メートル  
登録長 23.75メートル 11.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 183キロワット

3 事実の経過
 第二十一大徳丸(以下「大徳丸」という。)は、沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか6人が乗り組み、平成9年10月19日03時00分千葉県銚子漁港を出港し、05時ごろ鹿島港沖合の漁場に至って操業を始めた。
 翌20日08時00分A受審人は、8回目の操業を終え、かれい、ひらめ、たいなど約2トンを漁獲し、船首2.0メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、水揚げのため銚子漁港に帰港することとし、同時20分鹿島港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から048度(真方位、以下同じ。)6.5海里の地点を発し、針路を175度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
 A受審人は、発進したころ、右舷船首45度3海里ばかりのところにいた釣船2隻が視野に入っていたものの、乗組員に漁獲物の選別作業を行わせていたので、同作業に気を奪われて周囲の見張りを十分に行わず、08時35分南防波堤灯台から066度5.5海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルのところに、漂泊して遊漁中の大幸丸を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で同船に接近していることを認め得る状況であったが、依然選別作業に気を奪われて、このことに気付かず、同船を避けないで続航中、08時40分南防波堤灯台から072度5.3海里の地点において、大徳丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が、大幸丸の右舷船首部に、前方から15度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、海上にはやや波があった。
 A受審人は、選別作業中の甲板員の叫び声で自船の右舷正横近くに大幸丸を認め、更に同船の船長から「けが人がいる。」と告げられ、衝突の事実を知り、事後の措置に当たった。
 また、大幸丸は、最大搭載人員15人のFRP製小型遊漁兼用船で、B受審人及び甲板員の2人が乗り組み、釣客2人を乗せ、同日06時00分鹿島港北海浜第2船だまりを発し、同時40分ごろ前示衝突地点付近に至り、漂泊して遊漁を始め、以後適宜潮上りを繰り返し、ポイントを移動しながら遊漁を続けた。
 07時40分ごろB受審人は、南防波堤灯台から060度5.8海里ばかりの地点で、船首が340度を向いていたとき、目視及び1.5海里レンジとしていたレーダーにより右舷船首10度1.5海里に操業中の大徳丸を認め、気にもとめず、更に移動して遊漁を続けた。
 08時25分ごろB受審人は、潮上りしたのち衝突地点付近に至って漂泊し、接近する他船の方で遊漁中の自船を避けてくれると思い、操舵室を離れ遊漁を再開したところ、同時35分船首が340度を向いていたとき、右舷船首15度1,000メートルのところに南下する大徳丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況にあったが、遊漁することに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、機関を始動するなどして衝突を避けるための措置をとらずに漂泊中、同時40分少し前、船首部にいた甲板員が船尾方に駆け込んできたので、頭を上げたところ、船首至近に迫った大徳丸を認め、とっさに機関を全速力後進としたが、効なく、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大徳丸に損傷はなく、大幸丸は右舷船首部のハンドレールに曲損を生じたほか、甲板員が衝撃で転倒し肋軟骨骨折を負い、通院1箇月の治療を受けた。

(原因)
 本件衝突は、鹿島港沖合において、水揚げのため銚子漁港に向けて航行中の大徳丸が、見張り不十分で、前路で漂泊して遊漁中の大幸丸を避けなかったことによって発生したが、大幸丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、操業を切り上げた後、乗組員に漁獲物の選別作業を行わせながら鹿島港沖合を銚子漁港に向けて自ら操船に当たって航行する場合、選別作業は乗組員に任せ、漂泊中の他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁獲物の選別作業に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊して遊漁中の大幸丸に気付かず、同船を避けないまま進行して同船との衝突を招き、大幸丸の右舷船首部ハンドレールに曲損を生じさせたほか同船の甲板員に肋軟骨骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、鹿島港沖合において、自船の付近で大徳丸が底引き網漁を行っている状況のもと、潮上りを繰り返しながら漂泊して遊漁する場合、同船が南下して接近する状況になったとき、これを見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船の方で遊漁中の自船を避けてくれると思い、遊漁することに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大徳丸が南下して接近していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに遊漁を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を両船に生じさせ、自船の甲板員を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:40KB)





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