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平成12年仙審第19号
件名

貨物船平井丸押船第二十七東華丸被押起重機船第二十八東華丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月21日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(上野延之、根岸秀幸、藤江哲三)

理事官
大本直宏

受審人
A 職名:平井丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第二十七東華丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第二十七東華丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)

損害
平井丸・・・左舷前部に破口を伴う凹損
東華丸押船列・・・左舷船首部に破口を伴う凹損

原因
平井丸・・・狭視界時の航法(レーダー速力、、信号)不遵守
東華丸押船列・・・狭視界時の航法(レーダー速力、、信号)不遵守

主文

 本件衝突は、平井丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、押船第二十七東華丸被押起重機船第二十八東華丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月3日06時07分
 塩釜港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船平井丸
総トン数 499トン
全長 75.67メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

船種船名 押船第二十七東華丸 起重機船第二十八東華丸
総トン数 99トン 1,439トン
全長 22.95メートル 58.3メートル
  23.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,206キロワット  

3 事実の経過
 平井丸は、主に穀類などの国内輸送に従事する船尾船橋型の貨物船でA受審人ほか6人が乗り込み、穀物1,200トンを載せ、揚荷の目的で、船首3.80メートル船尾4.28メートルの喫水をもって、平成11年7月2日11時00分鹿島港を発して塩釜港に向かい、翌3日00時00分同港に至り、着岸の時間調整のために塩釜港灯浮標(以下、灯浮標については、名称中の「塩釜港」を省略する。)から032度(真方位、以下同じ。)470メートルにの地点に投錨して仮泊した。
 ところで、塩釜港塩釜区(以下「塩釜区」という。)には、港則法に定められた航路幅約100メートルの航路(以下「塩釜航路」という。)が設置され、第2号灯浮標から同航路西端までが同法の命令に定められた水路となっていて、宮城県馬放島南端に設置された塩釜信号所が、入出航船の許可及び入出航信号の表示などの塩釜区における港内交通管制業務(以下「管制業務」という。)を行っていた。
 管制業務は、原則として日出から日没までの視界内の監視で行われ、総トン数500トン以上の船舶を対象とし、濃霧、降雪等による代ヶ埼水道における視程が500メートル未満の視界制限状態の際に船舶の入出航を禁止しており、また、管制される船舶に対しては、前日17時までに代理店経由で入出港予定を塩釜海上保安部に提出させ、塩釜信号所との連絡については、同所と塩釜海上保安部オペレーション間に設置されている無線機により行われ、塩釜区の公共埠頭を使用する船舶に対しては、塩釜信号所に直接連絡すれば総トン数にかかわらず港内及び入出航路の各状況などを知らせていた。
 05時10分A受審人は、入港配置を令して二等航海士を船首に及び二等機関士を船尾にそれぞれ配し、船橋で機関長を主機関の遠隔操作及び一等航海士を操舵にそれぞれ当てて自ら操船指揮を執り、揚錨して前示投錨地点を発し、霧により視程500メートルの視界制限状態のなか、2台のレーダーを作動させ、法定の灯火を表示して自動により霧中信号を行いながら塩釜航路の南東端の入り口に向かい、同時43分半塩釜航路に入航し、同時52分台2号灯浮標に並航して針路を左に転じ、塩釜航路に沿って西行した。
 06時00分半A受審人は、地蔵島灯台から106度710メートルの地点で、針路を塩釜航路に沿う276度に定め、霧が更に濃くなって視程250メートルとなったので機関を極微速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 06時02分半A受審人は、地蔵島灯台から113度410メートルの地点に達したとき、レーダーで左舷正船首5度1.0海里のところに第二十七東華丸(以下「東華丸」という。)第二十八東華丸(以下「起重機船」といい、両船を総称するときには「東華丸押船列」という。)の映像を初めて探知したが、同映像を一瞥しただけで錨泊中の船と思い、その後レーダーによる動静監視を十分に行うことなく、塩釜航路を東行する東華丸押船列と著しく接近することを避けることができない状況で行き会うことに気が付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じて必要に応じて行きあしを止め、衝突の危険がなくなるまで十分に注意しないまま、船橋左舷側ウイングで肉眼と双眼鏡による見張りに当たって続航した。
 06時05分A受審人は、地蔵島灯台から185度120メートルの地点で、GPSプロッタの画面を見たところ、船位が塩釜航路の左側に表示されているのを認め、同航路の右側に寄るよう操舵中の一等航海士に令して針路を283度に転じ、依然船橋左舷側ウイングで見張りに当たって進行中、同時06分半左舷船首至近に東華丸押船列の船影を視認して衝突の危険を感じ、全速力後進を令したが及ばず、06時07分地蔵島灯台から260度310メートルの地点において、平井丸は、原針路、原速力のまま、その左舷前部に東華丸押船列の左舷船首が前方から17度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、視程は250メートルであった。
 また、東華丸は、船首先端両舷に押航装置を垂直に取り付けた鋼製押船で、B及びC両受審人が乗り組み、船首1.8メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、船首及び船尾に各1基のスラスタを装備して船首1.6メートル船尾1.8メートルの喫水とした起重機船の船尾部に同押航装置下部を密着させ、両船を堅固に結合して全長74メートルの東華丸押船列を構成し、直径3メートル長さ10メートルの鋼管15本を積んだ起重機船にクレーン運転手ほか4人を乗せ、同日05時50分塩釜港に東防波堤灯台から北方820メートルの係留岸壁を発し、宮城県閖上漁港の工事現場に向かった。
 東華丸は、船橋が上甲板上高さ4.2メートルのB甲板上及び同高さ9.7メートルのD甲板上の2箇所に在り、起重機船を押して航行する際には、D甲板上の船橋を使用しており、同船橋内は長さ2.0メートル幅2.5メートルで、右舷側から左舷側までの前窓後方に各スラスタ操作盤、主機操縦装置、コンパス及びGPSプロッタ等、その後方の中央船首尾線少し左側に操舵輪、その左舷側にレーダー、操舵輪後方に椅子、その後方の船橋後壁に配電盤及び配電盤の左舷側に東華丸と起重機船との結合操作盤がそれぞれ設置されていた。
 発航時、受審人は、平素、塩釜港の入出航に際して塩釜信号所に連絡を行っていたので、同所に出航する旨の連絡を行い、その後C受審人を肉眼による見張りに当たらせ、自ら操船指揮を執り、霧により視程700メートルの視界制限状態であったものの、法定の灯火を表示することも霧中信号を行うこともせず、0.8海里まで探知できる0.75海里レンジに設定したレーダーによる見張りをしながら塩釜港東防波堤に沿って南下した。
 ところで、C受審人は、B受審人が操舵輪後方の操舵位置で操舵操船に当たるとき、同人の後方に椅子があってレーダーに近づく事ができなかったことから、平素、船橋の右舷側に位置して見張りに当たり、視界制限状態の際のB受審人に対する補佐としては、同人がレーダーで探知した船を肉眼で確認することであった。
 06時01分少し前B受審人は、塩釜航路に入航したころ、塩釜信号所から自船の動静通報の依頼、及び塩釜区に入航する第三船がある旨の連絡を受け、同時01分半地蔵島灯台から265度1,690メートルの地点で、針路を塩釜航路に沿う086度に定め、霧が濃くなり視程が250メートルになったものの、機関を全速力前進にかけて速力を徐々に上げながら6.0ノットの平均速力で、依然霧中信号を行うことも安全な速力にもしないまま進行した。
 06時03分半B受審人は、地蔵島灯台から265度1,320メートルの地点に達し、速力が9.0ノットに整定したとき、レーダーで平井丸の映像を右舷船首5度0.8海里に初めて探知し、間もなく平井丸に著しく接近することを避けることができない状況で行き会うことになったことを認めたが、自船は航路の右側を航行しているので、互いに左舷を対して航過できると思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じて必要に応じて行きあしを止め、衝突の危険がなくなるまで十分に注意して航行することなく、レーダーによる動静監視を続け、C受審人を肉眼による見張りに当てて続航した。
 06時05分半B受審人は、平井丸の映像が670メートルに接近してきたことから、汽笛の吹鳴により長音2回と短音10回を行い、同時06分半右舷船首至近に平井丸の船影を視認して衝突の危険を感じ、機関を中立、続いて全速力後進にし、起重機船の船首スラスタを右転全出力としたが効なく、東華丸押船列は、原針路のまま、4.9ノットの前進惰力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、平井丸は、左舷前部に破口を伴う凹損、東華丸押船列は、左舷船首部に破口を伴う凹損をそれぞれ生じたが、のち両船とも修理された。

(原因)
 本件衝突は、霧により視界が著しく制限された状態の塩釜港塩釜航路において、西行する平井丸が、レーダーによる動静監視が不十分で、東行する東華丸押船列と著しく接近することを避けることができない状況で行き会うことになった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じて必要に応じて行きあしを止め、衝突の危険がんくなるまで十分に注意して航行しなかったことと、東行する東華丸押列が、霧中信号を行うことも安全な速力に減ずることもなく、レーダーにより前路探知した平井丸に著しく接近することを避けることができない状況で行き会うことになったことを認めた際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じて必要に応じて行きあしを止め、衝突の危険がなくなるまで十分に注意して航行しなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、霧により視界が著しく制限された状態の塩釜航路を西行中、レーダーにより左舷船首方に東華丸押船列の映像を探知した場合、同押船列と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同映像を一瞥しただけで錨泊中の船と思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、東華丸押船列と著しく接近することを避けることができない状況で行き会うことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じて必要に応じて行きあしを止め、衝突の危険がなくなるまで十分に注意しないまま航行して東華丸押船列との衝突を招き、平井丸の左舷前部及び東華丸押船列の左舷船首部にそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、霧により視界が著しく制限された状態の塩釜航路を東行中、レーダーにより右舷船首方に平井丸を探知して同船と著しく接近することを避けることができない状況で行き会うことになったことを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じて必要に応じて行きあしを止め、衝突の危険がなくなるまで十分に注意して航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は航路の右側を航行しているので、互いに左舷を対して航過できると思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じて必要に応じて行きあしを止め、衝突の危険がなくなるまで十分に注意して航行しなかった職務上の過失により、そのまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示のとおりそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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