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平成12年門審第58号
件名

貨物船第二十三対州丸漁船第三十六栄進丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西山烝一、原 清澄、供田仁男)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第二十三対州丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:第三十六栄進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第二十三対州丸甲板員

損害
対州丸・・・左舷側船尾部外板に擦過傷
栄進丸・・・船首部外板に亀裂

原因
対州丸・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
栄進丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第二十三対州丸が、動静監視不十分で、錨泊中の第三十六栄進丸を避けなかったことによって発生したが、第三十六栄進丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年7月9日02時30分
 長崎県壱岐島北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十三対州丸 漁船第三十六栄進丸
総トン数 195トン 19トン
登録長 50.41メートル 18.22メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット  
漁船法馬力数   160

3 事実の経過
 第二十三対州丸(以下「対州丸」という。)は、福岡県博多港と長崎県厳原港間の定期航路に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、雑貨約30トンを載せ、船首1.3メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成10年7月8日23時57分厳原港を発し、博多港に向かった。
 A受審人は、出港時、法定灯火を掲げ、出港操船に引き続いて単独で船橋当直に就き、翌9日00時09分耶良埼灯台から124度(真方位、以下同じ。)2.0海里の地点で、針路を玄界島に向く123度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分330にかけ、折からの海潮流の影響を受けて2度ばかり左方に圧流されながら、12.0ノットの対地速力で進行した。
 ところで、A受審人は、平素、出港操船に引き続き単独で2時間船橋当直に入り、次の2時間をB指定海難関係人に同当直を行わせ、その後自らが入港着岸まで同当直にあたることにしており、02時00分若宮灯台から011度7.2海里の地点で、昇橋してきたB指定海難関係人に当直を委ねることにしたが、同人が航行に慣れている海域であるし、船橋当直の経験も十分にあるので大丈夫と思い、他船の動静を十分に監視し、接近したときは報告するよう指示することなく、針路などを引き継ぎ、降橋して自室で休息した。
 B指定海難関係人は、船橋中央部の舵輪の後方に立って単独で見張りにあたり、02時15分正船首わずか左方3海里のところに、第三十六栄進丸(以下「栄進丸」という。)の灯火を初認し、同時25分若宮灯台から051度7.3海里の地点に達したとき、同船が左舷船首2度1.0海里となり、錨泊灯のほか作業灯などを掲げていたことから、同船が錨泊中であることを知ったが、このままの針路で同船に著しく接近することになるかどうか、同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、海潮流の影響を受け、同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、A受審人に報告せず、同船を避ける措置がとられないまま続航した。
 その後、B指定海難関係人は、栄進丸が左舷方に替わるものと思って進行したところ、02時30分少し前ようやく同船と衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて針路を130度に向けたが及ばず、02時30分若宮灯台から058度7.6海里の地点において、対州丸は、船首が130度を向いて、原速力のまま、その左舷船尾部が栄進丸の船首部に前方から85度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、付近には北東方に流れる0.6ノットばかりの海潮流があった。
 A受審人は、衝突の衝撃を感じて直ちに昇橋し、事後の措置にあたった。
 また、栄進丸は、はえなわ漁業に従事するFRP漁船で、C受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同月5日08時00分佐賀県馬渡島漁港を発し、壱岐島西方沖合でいったん操業を行ったのち、同島魚釣埼北東方沖合の漁場に向かった。
 C受審人は、目的の漁場に着いてあまだいはえなわ漁を開始し、毎日06時から16時ごろまで操業を行ったあと、錨泊して夜間に休息するという操業模様を繰り返し、同月8日16時00分当日の操業を終え、水深約90メートルの前示衝突地点付近で重さ120キログラムの左舷錨を投じ、直径32ミリメートルの合成繊維製の錨索を250メートル延出して錨泊した。
 日没時、C受審人は、船首マストに錨泊中を表示する白色全周灯を、操舵室上のマストに2個の同灯及び船尾部のビニールで囲われたオーニングの内側に、40ワットの作業灯2個をそれぞれ点灯して甲板上を照明したが、船舶が輻輳(ふくそう)する海域でなかったことから、停泊当直を立てず、翌朝に備えて甲板員を船室で休養させ、20時ごろ自らも操舵室内のベッドで仮眠した。
 こうして、C受審人は、翌9日02時25分前示衝突地点で船首が225度を向いていたとき、右舷船首85度1.0海里のところから対州丸が衝突のおそれがある態勢で接近したが、停泊当直を立てていなかったことから、周囲の見張りが不十分で、このことに気付き得ず、避航を促すための注意喚起信号を行えないまま錨泊中、対州丸の機関音を聞いて目が覚めた直後、栄進丸は、船首が225度を向いて前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、対州丸は、左舷側船尾部外板に擦過傷を生じ、栄進丸は、船首部外板に亀裂を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、壱岐島北東方沖合において、東行中の対州丸が、動静監視不十分で、錨泊中の栄進丸を避けなかったことによって発生したが、栄進丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 対州丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格者に船橋当直を行わせるにあたり、他船の動静監視及びその接近時の報告について十分に指示しなかったことと、船橋当直者が、動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、壱岐島北東方沖合において、無資格者に船橋当直を行わせる場合、他船の動静を十分に監視し、接近したときは報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船橋当直者が航行に慣れている海域であるし、船橋当直の経験も十分にあるので大丈夫と思い、他船の動静を十分に監視し、接近したときは報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同当直者が、動静監視不十分で、栄進丸に接近した旨の報告が得られず、同船を避ける措置がとれないまま進行して衝突を招き、対州丸の左舷側船尾部外板に擦過傷を、栄進丸の船首部外板に亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人が、夜間、壱岐島北東方沖合で錨泊した際、停泊当直を立てなかったことにより周囲の見張りを行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 しかしながら、以上のC受審人の所為は、錨泊地点付近が船舶の輻輳する海域でなく、錨泊中を示す法定灯火のほか操舵室上のマストに白色全周灯を掲げ、船尾部に作業灯を点灯して甲板上を照明していた点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
 B指定海難関係人が、夜間、壱岐島北東方沖合において、単独で船橋当直にあたって東行中、船首方に栄進丸を認めた際、動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、船会社を退職し船員として再乗船しない点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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