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平成11年広審第94号
件名

引船第二十一北洋丸被引台船T1110漁船漁栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、中谷啓二、内山欽郎)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第二十一北洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:漁栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
北洋丸・・・損傷なし
漁栄丸・・・船首部と右舷外板などのほか船橋が大破、のち廃船

原因
漁栄丸・・・見張り不十分、港則法の航法(右側航行)不遵守(主因)
北洋丸・・・灯火不表示(一因)

主文

 本件衝突は、漁栄丸が、見張り不十分で、航路の右側を航行しなかったことによって発生したが、第二十一北洋丸が、接舷してえい航中のT1110に灯火を表示しなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年4月28日01時40分
 広島県尾道糸崎港

2 船舶の要目
船種船名 引船第二十一北洋丸 漁船漁栄丸
総トン数 19トン 4.88トン
全長   13.70メートル
登録長 16.74メートル  
3.96メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 250キロワット 32キロワット

船種船名 台船T1110
全長 33.00メートル
12.00メートル
深さ 2.50メートル

3 事実の経過
 第二十一北洋丸(以下「北洋丸」という。)は、尾道糸崎港を基地として専ら台船のえい航作業に従事する鋼製引船で、A受審人が1人で乗り組み、船首1.0メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、空倉で喫水が船首尾とも0.3メートルとなった、灯火設備がない無人の鋼製台船T1110(以下「台船」という。)の左舷側後部に、タイヤフェンダーを挟んで北洋丸の右舷側を接舷し、同台船の中央と船尾から合成繊維ロープ3本をとって全長約36メートル幅約16メートルの引船列(以下「北洋丸引船列」という。)とし、平成11年4月28日00時00分尾道糸崎港第6区の係留場所を発し、広島県沼隈郡常石に向かった。
 A受審人は、平素、成規の灯火の設備がない船舶等のえい航に備え、バッテリーを電源とする白色点滅灯4個を用意していたが、自船が航行中のえい航船の表示する灯火を掲げているので、台船に灯火を表示しなくても月明りや自船のマスト灯の余光で接近する他船から台船の存在が分かるだろうと思い、出航時、用意していた点滅灯を台船に表示することなく、北洋丸にマスト灯2個、舷灯、船尾灯を表示したほか、マスト頂部に黄色回転灯を点灯し、港則法で定められた航路がある尾道水道に向かった。
 A受審人は、平素、台船を接舷してえい航することが多かったので、その操船方法には慣れており、台船を右舷側に接舷してえい航するときは、舵中央のまま前進すると右転するため、直進するには常に左舵を15度ばかりとっている必要があった。
 00時49分A受審人は、尾道糸崎港の第3航路に入航し、その後同航路内を東行したが、同港の第1、第2及び第3航路とも航路の境界または中央を示す航路標識がなく、レーダーを0.5海里レンジとし、ときどき陸岸の映像を見ながら自船が尾道水道のほぼ中央となるように適宜左舵を少しとって航行し、01時24分新尾道大橋西方1.2海里の地点で、航路幅が50メートルの第2航路に入航した。
 01時37分A受審人は、新尾道大橋橋梁灯(C2灯)(以下「新尾道大橋中央灯」という。)から270度(真方位、以下同じ。)440メートルの地点に達したとき、針路を081度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して4.5ノットの対地速力で、第2航路の中央より少し右側を進行した。
 01時38分半A受審人は、新尾道大橋中央灯から280度230メートルの地点で、右舷船首26度750メートルの、尾道大橋東方約450メートルのところに漁栄丸の白、緑2灯を初認するとともにその前方約200メートルに小型船の白、緑2灯を認め、これら2隻の船舶が尾道水道のほぼ中央を西行中であることを知った。
 間もなく、A受審人は、航路が右に屈曲している御立ケ鼻北方にさしかかり、01時39分少しずつ舵を中央に戻しながら徐々に右転を始めたとき、航路に沿って右転した漁栄丸が白、紅2灯を示すようになり、やがて同船前方の西行船が左舷側10メートルを航過したので、そのまま右転を続けて続航した。
 01時40分少し前A受審人は、新尾道大橋中央灯から297度80メートルの地点で、針路を航路に沿う118度に転じて同灯に向首し、北洋丸引船列が航路中央より少し右に寄った状態となったとき、左舷船首3度160メートルのところに漁栄丸の白、紅2灯を認めるようになったので、同船が航路に沿って直進して左舷側10メートルを航過すると判断し、操船目標の新尾道大橋中央灯を見ながら進行中、頭上に迫った新尾道大橋から視線を漁栄丸に向けたところ、船首方向至近に同船が左転して白、緑2灯を表示しているのを見て驚き、直ちに機関を後進にかけたが効なく、北洋丸引船列は、原針路、原速力のまま、01時40分航路の南側境界に近い、新尾道大橋中央灯から250度20メートルの地点において、台船の右舷船首が、漁栄丸の右舷船首に前方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期にあたり、尾道水道には約1.5ノットの西流があった。
 また、漁栄丸は、底びき網漁業に従事する木製漁船で、B受審人及び同人の妻と息子の3人が乗り組み、尾道糸崎港第1区の魚市場で漁獲物を水揚げしたのち、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日01時30分魚市場岸壁を発し、同港第5区の吉和漁港に向かった。
 B受審人は、妻と息子に船橋前にあるいけす内部の掃除などを行わせ、マストに白色全周灯と両色灯を表示し、操舵室内に座って手動で操舵に当たりながら尾道水道を西行した。
 01時37分B受審人は、尾道大橋橋梁灯(C1灯)(以下「尾道大橋中央灯」という。)から092度950メートルの地点において、針路を258度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて11.5ノットの対地速力で進行した。
 01時38分B受審人は、尾道大橋東方約600メートルの地点で第2航路に入り、同時38分半右舷船首29度750メートルに航路内を東行中の北洋丸引船列の灯火を視認し得る状況となったが、背後の尾道市街の明りに紛れて同船の灯火に気付かないまま、航路屈曲部に沿って右転を始め、同時39分尾道大橋中央灯から117度280メートルの地点で、針路を298度に転じ航路中央からわずか右側の航路内を続航した。
 01時39分半B受審人は、正船首少し左270メートルに右転し始めた北洋丸引船列の白、白、緑3灯を視認することができ、間もなく右転を終えた同引船列の舷灯が緑灯から紅灯に変わったが、前路の見張りが不十分でこのことに気付かず、その後航路の右側を東行する同引船列と左舷を対し約10メートル隔てて航過する態勢となって進行した。
 01時40分少し前B受審人は、尾道大橋下にさしかかり、北洋丸引船列が左舷船首3度160メートルとなったが、左右の陸岸との接近模様に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、互いに左舷を対して航過する態勢で行き会う同引船列に気付かず、引き続き航路の右側を航行することなく、御立ケ鼻沖合に向けるため左舵を少しとって左転を始めたところ、北洋丸引船列の前路に向かう態勢となり、間もなく正船首少し右70メートルばかりに北洋丸の白灯2個、緑、紅2灯及び黄色回転灯を初認したものの、台船に灯火が表示されていなかったことから、北洋丸が右舷側に接舷した台船を引いていることに気付かず、更に大きく左舵をとって台船を右舷側に替わすことができず、北洋丸の右舷側を航過するつもりでゆっくり回頭中、278度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、北洋丸及び台船には損傷がなく、漁栄丸は、船首部と右舷外板などのほか船橋が大破して廃船となり、また、B受審人、同人の妻及び息子の3人が打撲傷などを負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、広島県尾道糸崎港の尾道水道において、第2航路の右側を西行中の漁栄丸が、同航路の右側を東行中の北洋丸引船列と互いに左舷を対して航過する態勢で行き会う際、前路の見張りが不十分で、引き続き航路の右側を航行しなかったことによって発生したが、北洋丸引船列が、接舷してえい航中の台船に灯火を表示しなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、広島県尾道糸崎港の尾道水道において、第2航路を西行する場合、同航路の右側を東行する北洋丸引船列を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左右の陸岸との接近模様に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、互いに左舷を対して航過する態勢で行き会う北洋丸引船列に気付かず、航路の右側を航行しないで、同引船列の前路に向け左転して台船との衝突を招き、漁栄丸の船首部などに損傷を生じさせ、また、自身のほか妻及び息子が打撲傷などを負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、広島県尾道糸崎港の尾道水道において、北洋丸右舷側に接舷した台船をえい航する場合、台船に灯火を表示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、灯火を表示しなくても月明りや自船のマスト灯の余光で接近する他船から台船の存在が分かるだろうと思い、台船に灯火を表示しなかった職務上の過失により、台船に気付かないで進行した漁栄丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるとともに、漁栄丸乗組員に打撲傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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