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平成11年広審第80号
件名

旅客船こうらく丸旅客船こんぴら丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(工藤民雄、釜谷獎一、内山欽郎)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:こうらく丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:こんぴら丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
こうらく丸・・・左舷船首部の外板及び防舷材に凹損
こんぴら丸・・・右舷船首部のブルワーク及び防舷材に凹損

原因
こうらく丸・・・狭視界時の航法(レーダー、速力)不遵守
こんぴら丸・・・狭視界時の航法(レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、こうらく丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、こんぴら丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年5月8日01時45分
 岡山県宇野港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船こうらく丸 旅客船こんぴら丸
総トン数 1,940トン 699トン
全長  81.22メートル 71.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,353キロワット 2,059キロワット

3 事実の経過
 こうらく丸は、岡山県宇野港と香川県高松港との間の定期航路に就航する、2基2軸の推進機関を備えた船首船橋型の旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか7人が乗り組み、船首3.0メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成10年5月7日19時38分高松港を発し、21時08分宇野港の宇高国道フェリー株式会社の専用桟橋(以下「専用桟橋」という。)に着桟し、その後霧のため高松海上保安部から高松港に停船勧告が発令されたのに伴って同社の全船が運航を中止することになったので、21時40分宇野港港域内の三井造船1号岸壁の東方で、宇野港口飛州灯台(以下「飛州灯台」という。)から315度(真方位、以下同じ。)700メートの地点に右舷錨を投じ、錨鎖2節半延出して錨泊待機した。
 A受審人は、翌8日01時20分ごろ運航管理者からVHFで、停船勧告が解除になったので専用桟橋に着桟中のこんぴら丸が1番船、宇野港港域内に錨泊している、たかまつ丸及びこうらく丸がそれぞれ2番船、3番船として高松港に向け運航を再開するようにとの指示を受けた。
 01時35分A受審人は、霧模様であったものの葛島が視認でき、視程が約1,000メートルで、運航基準で定められた基準航行中止要件の500メートル以上となっていたので専用桟橋に着桟することとし、船首に甲板員3人を配置し、また操舵手を手動操舵に、一等航海士を機関操作ハンドルの操作にそれぞれ就け、自らは操舵スタンド右横の主機遠隔操作盤の左横に立ち操船指揮に当たって揚錨を開始した。
 こうしてA受審人は、錨を揚げているうち、視界が徐々に悪化しだしたものの、まだ視程が500メートル以上確保されていて霧が流れる状態であったことから、そのまま揚錨を続け、01時39分半船首が222度を向いて錨を揚げ終えたとき、右舷機を極微速力前進にかけ、左舵一杯にとって回頭を始め、間もなく両舷機を約6ノットの極微速力前進とし、左回頭しながら平均2.5ノットの対地速力で、航行中の動力船の灯火を掲げて霧中信号を行うことなく進行した。
 その後、A受審人は、VHFを傍受してこんぴら丸が専用桟橋を発航したことを知り、やがてカラーレーダーで左舷方に南下する船舶の映像を探知し、これをこんぴら丸と思って留意していたところ、南下船が接近したので01時41分半少し前飛州灯台から309度650メートルの地点に達し、船首がほぼ130度に向いたとき、一旦機関を停止して前進惰力で続航するうち、前路近距離のところを航過した同船を視認し、これが同時期に運航を再開した他社のフェリーであることを知った。
 01時41分半少し過ぎA受審人は、再び両舷機を極微速力前進にかけ、077度の針路を令して左回頭しながら航行を続けるうち、間もなく霧が濃くなって視程が約200メートルに狭められる状況となった。
 A受審人は、01時42分少し過ぎ飛州灯台から309度580メートルの地点に至り、5.0ノットの対地速力となって針路を077度に定めたとき、1.5海里レンジとしたレーダーで、こんぴら丸の映像を左舷船首33度850メートルのところに初めて認め、これを南下するこんぴら丸と判断し、狭い海域なので念のため機関を停止して前進惰力で進行したところ、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、すでに下り便の基準航路線に近づいていたことから、このままで同船の前路を無難に航過して基準航路線の東側に抜けられるものと思い、カーソルを当てて方位の変化を確かめるなど、同船に対する継続した動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、速やかに行きあしを停止することなく進行した。
 01時44分半少し前、A受審人は、レーダーを見てこんぴら丸の映像が中心輝点に急速に近づくので不安を感じ、汽笛で短音を繰り返して吹鳴し、更に操舵手に左舷前方を注視するよう指示して見張っていたところ、01時44分半少し過ぎ左舷船首近距離に自船に向けて接近するこんぴら丸の客室の灯火に続き船体の右舷側を認め、直ちに機関を半速力後進、次いで全速力後進にかけたが及ばず、01時45分飛州灯台から337度480メートルの地点において、こうらく丸は、約2ノットの対地速力となったとき、原針路のまま、その左舷船首部に、こんぴら丸の右舷船首が前方から47度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期にあたり、視程は約200メートルであった。
 また、こんぴら丸は、こうらく丸と同じく宇野港と高松港との間の定期航路に就航する、2基2軸の可変ピッチプロペラを装備した船首船橋型の旅客船兼自動車渡船で、B受審人ほか5人が乗り組み、同月7日21時30分専用桟橋に出船右舷付けで着岸し、その後霧のため運航を中止して同桟橋で待機していたところ、運航が再開され、高松港向けの1番船として、旅客19人を乗せ、車輌19台を積載し、船首2.8メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、高松港に向かうことになった。
 B受審人は、霧模様であったものの第1突堤南東部が視認でき、視程が700ないし1,000メートルで、運航基準で定められた基準航行中止要件の500メートル以上となっていたので、船首に甲板員、船尾に機関長と甲板長をそれぞれ配置し、自らは船橋で出航操船に当たって離桟作業に取り掛かり、翌8日01時37分専用桟橋を出航し、両舷機を毎分回転数340、翼角4.5度の極微速力前進にかけ、宇野港港域内で錨泊しているたかまつ丸とこうらく丸に自船の動静を知らせるつもりで、VHFで「こんぴら丸出航した。」と発し、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
 01時39分B受審人は、専用桟橋の南東方70メートル沖で両舷機を翼角9度の微速力前進としたところで、船首尾配置を解き、その後昇橋してきた甲板員を手動操舵に、機関長を機関ハンドルの操作に、更に甲板長をカラーレーダーの監視と見張りにそれぞれ就け、自らは左舷側で白黒レーダーを見ながら操船指揮に当たって第3突堤の東側を霧中信号を行なうことなく南下した。
 B受審人は、01時41分少し前、飛州灯台から013度1,300メートルの地点で、南近端鼻を右舷側に270メートル離して航過したとき、針路を基準航路の210度に定め、引き続き機関を微速力前進にかけ、7.5ノットの対地速力で、同時刻に発航した他社フェリーの後方近距離のところを徐々に離れる態勢で続航したところ、間もなく霧が濃くなって視程が200メートルに狭められる状況となった。
 01時42分少し過ぎB受審人は、飛州灯台から008度940メートルの地点に達したとき、1.5海里レンジとしたレーダーで、こうらく丸の映像を右舷船首14度850メートルに初めて認め、その後東方に向けて進行している同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、このころ2番船のたかまつ丸が抜錨を終えたばかりで専用桟橋に向かい始めたことをVHFで傍受していたことから、時間的に早いので3番船のこうらく丸はまだ錨泊していて、このままで同船が自船の右舷側を無難に替わるものと思い、レーダーで葛島南方の予定進路付近の船舶の様子を確認することに注意が集中し、カーソルを当てて方位の変化を確かめるなど、同船に対する継続した動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、速やかに行きあしを停止することなく進行した。
 B受審人は、01時44分半少し過ぎレーダーを見たとき、こうらく丸が針路線に寄っているように感じ、不安を覚え、汽笛で長音1回を吹鳴したところ、機関長と甲板長が「見えた。」と叫んだので、前方に目を転じたとき右舷船首近距離に、自船に向けて接近するこうらく丸の灯火と船体の左舷側を認め、衝突の危険を感じ、急ぎ機関を全速力後進にかけたが効なく、こんぴら丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、こうらく丸は、左舷船首部の外板及び防舷材に凹損を生じ、こんぴら丸は、右舷船首部のブルワーク及び防舷材に凹損を生じたが、のちいずれも修理され、こんぴら丸搭載の車輌1台が損傷した。

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧のため視界制限状態となった宇野港において、着桟のため錨地から専用桟橋に向けて東行中のこうらく丸が、レーダーによる動静監視不十分で、前路に認めたこんぴら丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに行きあしを停止しなかったことと、同桟橋を発航して南下中のこんぴら丸が、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知したこうらく丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった宇野港において、専用桟橋に着桟するため錨地を発進して東行中、レーダーにより左舷前方にこんぴら丸の映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船の前路を無難に航過できるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、こんぴら丸と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かず、速やかに行きあしを停止することなく進行して同船との衝突を招き、こうらく丸の左舷船首部外板及び防舷材に凹損を、またこんぴら丸の右舷船首部ブルワーク及び防舷材に凹損をそれぞれ生じさせたほか、こんぴら丸搭載車輌1台を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった宇野港において、専用桟橋を発航して南下中、レーダーにより右舷前方にこうらく丸の映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、こうらく丸はまだ錨泊していて、このままで自船の右舷側を無難に替わるものと思い、レーダーで葛島南方の予定進路付近の船舶の状況を確認することに注意が集中し、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、こうらく丸と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かず、速やかに行きあしを停止することなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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