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平成12年広審第9号
件名

貨物船第八広福丸交通船備讃丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月10日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(横須賀勇一、竹内伸二、中谷啓二)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:第八広福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第八広福機関長

損害
広福丸・・・船首に擦過傷
備讃丸・・・全損、広福丸船長が、プロペラに巻き込まれて溺死

原因
備讃丸・・・海交法の航法(避航動作)不遵守(主因)
広福丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、海交法の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、航路を横断しようとする備讃丸が、航路をこれに沿って航行している第八広福丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八広福丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年4月5日13時58分
 瀬戸内海備讃瀬戸北航路

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八広福丸 交通船備讃丸
総トン数 498トン 3.71トン
登録長 61.23メートル 9.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 735キロワット 84キロワット

3 事実の経過
 第八広福丸(以下「広福丸」という。)は、船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人、B指定海難関係人及び3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.4メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成11年4月5日09時50分兵庫県家島港を発し、福岡県芦屋港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を同人、一等航海士及び次席一等航海士の3人による輪番の単独3時間交替制とし、適宜、乗船経験の長いB指定海難関係人を単独で船橋当直に当てるなど、各人の就労時間の配分に配慮していた。
 A受審人は、13時30分北備讃瀬戸大橋の東方約0.7海里の地点において、船舶の輻輳する備讃瀬戸北航路と水島航路の交差部での操船指揮を執る目的で昇橋し、その後、当直中のB指定海難関係人を操舵に当て自ら操船指揮を執って同交差部を通過し、同時44分牛島灯標から048度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に達したとき、針路を備讃瀬戸北航路に沿う245度に定めて、機関を全速力前進にかけ、折からの東北東流に抗して9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 ところで、備讃瀬戸北航路東部は、本州と四国の張出部とに挟まれて塩飽諸島の大小の島々が航路の間際まで迫り、航路を南北に横断する小型の船等も多く、航路航行に当たっては、周囲の十分な見張りを必要とする海域であった。
 13時48分A受審人は、牛島灯標から018度0.5海里の地点に達したとき、B指定海難関係人に船橋当直を委ねることとしたが、同人の当直経験が豊富であったことから、備讃瀬戸北航路を横断しようとする小型の船等を見落とすことのないよう、左右には特に気を配り周囲の見張りを十分に行うことを指示することなく、同人に船橋当直を行わせ、操舵室左舷側後方にある海図台に移動して船尾方を向いて来島海峡の通航計画の検討を始めた。
 B指定海難関係人は、舵輪後方に立った姿勢で当直に当たり引き続き備讃瀬戸北航路をこれに沿って航行し、13時54分牛島灯標から269度0.8海里の地点に達したとき、左舷船首54度2,000メートルのところに同航路を横断しようとする態勢の備讃丸を視認し得る状況となり、その後、同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、折から右舷方に認めた漁船に気を取られ、左舷前方の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かず続航し、備讃丸の接近がA受審人に報告されなかった。
 B指定海難関係人は、13時56分備讃丸が避航の気配のないまま1,000メートルに接近したものの、依然、左方に対する見張りが不十分で、同船に気付かず、警告信号が行われず、間近に接近しても、行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作がとられないまま進行中、同時58分わずか前左舷船首至近に同船を認め、慌てて汽笛を吹鳴したが効なく、13時58分広福丸は、牛島灯標から256度1.5海里の地点において、原針路、原速力のままその船首が備讃丸の右舷中央部に後方から81度の角度で衝突し同船を乗り切った。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で付近には1.5ノットの東北東流があった。
 通航計画検討中のA受審人は、汽笛に驚いて衝突に気付き、直ちに行きあしを止めて救助作業を行うなど事後の措置に当たった。
 また、備讃丸は、海砂採取場の監視などに従事する船尾船橋型のFRP製交通船で、船長Eが1人で乗り組み、香川県丸亀市内の病院に入院中の妻を見舞った後帰宅する目的で、喫水不詳のまま、同日13時34分丸亀港みなと公園北側の船だまりを発し、同県広島田ノ浦に向かった。
 E船長は、13時42分丸亀港蓬莱町防波堤灯台から031度200メートルの地点において、針路を広島田ノ浦に向けて326度に定め、機関を全速力前進にかけ、東北東流により右方に4度圧流され13.0ノットの速力で船尾で舵柄を握って手動操舵により進行した。
 E船長は、備讃瀬戸北航路を横断しようとする態勢で北上中、13時54分牛島灯標から223度1.5海里の地点に達したとき、右舷船首45度2,000メートルのところに同航路をこれに沿って西行している広福丸を視認し得る状況で、その後、同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、このことに気付かず、同船の進路を避けずに続行中、備讃丸は原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、広福丸は船首に擦過傷を生じ、備讃丸は船体が2つに折れて全損となり、E船長(大正11年5月24日生)がプロペラに巻き込まれて溺死した。

(原因)
 本件衝突は、備讃瀬戸東部において備讃瀬戸北航路を横断しようとする備讃丸が、同航路をこれに沿って航行している広福丸と衝突するおそれがある態勢で接近した際、同船の進路を避けなかったことによって発生したが、広福丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 広福丸の運航が適切でなかったのは、船長が備讃瀬戸北航路を西行中、船橋当直を無資格者に行わせる際、左右には特に気を配り周囲の見張りを十分に行うことを指示しなかったことと、無資格者当直者が左方の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、備讃瀬戸北航路を航行中、無資格者に船橋当直を行わせる場合、航路を横断しようとする小型の船等を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うことを指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直者が船橋当直の経験が豊富であったことから、航路を横断しようとする備讃丸を見落とすことのないよう、左右には特に気を配り周囲の見張りを十分に行うことを指示しなかった職務上の過失により、当直者が左方の見張りを十分に行わず備讃丸との衝突を招き、広福丸の船首部に擦過傷を生じさせ、備讃丸の船体を2つに折り全損させ、E船長を溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、単独で船橋当直に当たり備讃瀬戸北航路を西行中、左方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、深く反省していることに徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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