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平成12年神審第19号
件名

貨物船第八大栄丸漁船千石衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月19日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西田克史、阿部能正、黒岩 貢)

理事官
橋本 學

受審人
A 職名:第八大栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:千石船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第八大栄丸機関長

損害
大栄丸・・・船首部に擦過傷
千 石・・・舷船尾外板に破口や亀裂を伴う損傷

原因
大栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
千 石・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八大栄丸が、船橋を無人とし、漂泊中の千石を避けなかったことによって発生したが、千石が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月11日09時45分
 高知県室戸岬南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八大栄丸 漁船千石
総トン数 497トン 4.2トン
全長 70.41メートル 12.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 121キロワット

3 事実の経過
 第八大栄丸(以下「大栄丸」という。)は、砂利石材等の運搬に従事する貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、石灰1,800トンを載せ、船首3.2メートル船尾5.2メートルの喫水をもって、平成11年7月10日22時10分大分県津久見港を発し、愛知県衣浦港に向かった。
 A受審人は発航後、船橋当直を全乗組員の輪番による2時間半交替制で東行を続け、翌11日06時30分土佐湾沖合において自身の当直を終えて一等航海士に引き継ぐに当たり、平素何かあれば知らせるようにと告げているので大丈夫と思い、適正な船橋当直を維持できるよう、船橋から離れる必要が生じた際には船長に昇橋を求めること、また、これを次直者に申し送ることを指示しないで降橋した。
 09時00分B指定海難関係人は、室戸岬灯台から216度(真方位、以下同じ。)12.2海里の地点で昇橋し、前直の一等航海士から針路、速力を引き継いで当直に就き、引き続き針路を065度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 09時40分B指定海難関係人は、室戸岬灯台から187度6.9海里の地点に達したとき、機関室の見回りを思い立って同室に赴くこととしたが、船長に昇橋を求めないまま、降橋して船橋を無人とした。
 09時42分B指定海難関係人は、室戸岬灯台から184度6.7海里の地点に至ったとき、正船首970メートルに紺色の三角帆を掲げ、北北東方に向首した千石を視認でき、その後、漂泊している同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、船橋を無人としていたので、このことに気付かないで船長に報告することができず、千石を避けることができないまま続航した。
 こうして、B指定海難関係人は、機関室内において各部の点検などを行っていたところ、09時45分室戸岬灯台から180度6.5海里の地点において、大栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が千石の左舷船尾に後方から42度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候はほぼ低潮期であった。
 09時50分ごろB指定海難関係人は、機関室の見回りを終えて昇橋したものの、衝撃などの異常を感じなかったので衝突に気付かないまま航行を続け、11時30分次直者の甲板員に当直を引き継いで降橋した。
 一方、A受審人は、自室で仮眠をするなど休息をとったのち、14時00分昇橋して当直に就き、しばらくして会合した巡視船の指示により和歌山県田辺港に入港のうえ、船体検査及び取調べを受けて衝突の事実を確認し、事後の措置に当たった。
 また、千石は、FRP製の漁船で、C受審人が1人で乗り組み、一本釣り漁の目的で、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、同月11日04時00分高知県室戸岬港を発し、室戸岬南方沖合の白草の根と呼ばれる漁場に向かった。
 C受審人は、06時ごろ同漁場に到着し、機関のクラッチを切って中立回転としたうえ、船尾マストに紺色の三角帆を掲げて折からの弱い北北東風に船首を立て、漂泊して釣りを始めた。
 09時42分C受審人は、前示衝突地点において、023度に向首した自船の船尾右舷側に腰を下ろし、右舷前方を向いて釣りをしていたとき、左舷船尾42度970メートルに、自船に向首した大栄丸を視認でき、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが、釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
 09時44分C受審人は、大栄丸が自船を避けずに320メートルに接近したが、依然として見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに機関を使用して衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続け、同時45分わずか前左舷後方至近に同船を初めて認めたが、何をする間もなく、千石は、023度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大栄丸は、船首部に擦過傷を、千石は左舷船尾外板に破口や亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じ、また、C受審人は、衝撃で海中に投げ出されたが、間もなく付近にいた漁船に救助された。

(原因)
 本件衝突は、室戸岬南方沖合において、大栄丸が、船橋を無人とし、漂泊中の千石を避けなかったことによって発生したが、千石が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 大栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、船橋を無人としないよう、船橋を離れる必要が生じた際の報告についての指示が十分でなかったことと、同当直者が、船長に昇橋を求めず、船橋を無人としたこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、土佐湾南方沖合を東行中、次直の一等航海士に船橋当直を引き継ぐ場合、適正な船橋当直を維持できるよう、船橋を離れる必要が生じた際には船長に昇橋を求めること、また、これを次直者に申し送ることを指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、平素何かあれば知らせるようにと告げているので大丈夫と思い、船橋を離れる必要が生じた際には船長に昇橋を求めること、また、これを次直者に申し送ることを指示しなかった職務上の過失により、単独で当直中の機関長が無断で降橋し、船橋を無人として漂泊中の千石に気付かず、機関長からの報告が得られないまま、同船を避けることができずに進行して衝突を招き、大栄丸の船首部に擦過傷を、千石の左舷船尾外板に破口や亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、室戸岬南方沖合において、機関のクラッチを切って中立回転とし、漂泊して一本釣り漁を行う場合、自船に向首して接近する大栄丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、避航しないまま接近する大栄丸に気付かず、速やかに機関を使用して衝突を避けるための措置をとることなく、釣りを続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、単独で船橋当直に就き、室戸岬南方沖合を東行中、機関室の見回りを思い立って同室に赴く際、船長に昇橋を求めず、船橋を無人としたことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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