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平成11年神審第101号
件名

漁船第七十八新貢丸漁船新開丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月19日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(須貝壽榮、西田克史、小須田 敏)

理事官
黒田 均

受審人
A 職名:第七十八新貢丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第七十八新貢丸甲板員兼漁労長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:新開丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
新貢丸・・・左舷船首部に擦過傷
新開丸・・・沈没して全損

原因
新開丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
新貢丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、新開丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第七十八新貢丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第七十八新貢丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年12月24日14時10分
 和歌山県勝浦湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船第七十八新貢丸 漁船新開丸
総トン数 89トン 1.07トン
全長 31.15メートル  
登録長   6.13メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 507キロワット  
漁船法馬力数   25

3 事実の経過
 第七十八新貢丸(以下「新貢丸」という。)は、中央船橋型の鋼製漁船で、A受審人及びB受審人ほか6人が乗り組み、まぐろ延縄漁の目的で、船首1.3メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、平成10年11月15日10時00分宮城県塩釜港を発し、同月25日ミクロネシア方面の海域に至り、繰り返し操業を行って24トンを漁獲し、同年12月18日03時00分漁場から水揚げのため和歌山県勝浦港に向かった。
 新貢丸は、漁場発進後、全乗組員が輪番により06時から18時までは3時間交替、それ以外は2時間交替で当たる船橋当直体制で航行を続け、越えて同月24日11時30分和歌山県樫野埼の南南東方17海里沖合に至り、目的地まで25海里ばかりとなったとき、B受審人が、入港に備えて前直の甲板員から引き継いで当直に就き、そのころ操舵室に入ってきたA受審人とともに見張りを行いながら北上した。
 ところで、B受審人は、昭和48年に購入した38トン型漁船に次ぎ、平成5年から新貢丸にいずれも船長として乗り組んでまぐろ延縄漁に従事し、同7年4月A受審人に船長職を譲ったのち、新貢丸の漁労長を務めていた。また、同人は、操舵室前部右舷側に設けた操船用のいすに腰掛けた状態では、船首構造物に妨げられて船首から左舷側へ20度の範囲に死角が生じるので、船舶の輻輳する水域において、操舵室の上に立って操船するようにしていた。
 B受審人は、付近に他船を見掛けなかったことから、いすに腰掛けて見張りを行い、13時52分梶取埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点で、針路を312度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で自動操舵により進行した。
 14時05分少し過ぎB受審人は、那智勝浦鰹島灯台(以下「鰹島灯台」という。)を左舷側200メートルに並航したとき、針路を298度に転じるとともに、折から北西風がやや強かったので半速力に減速し、更に操舵を遠隔手動に切り換え、コントローラーを操作しながら7.0ノットの速力で勝浦湾を乙島の少し南側に向けて西行し、間もなくA受審人が入港準備のため降橋後は単独で船橋当直を続けた。
 一方、A受審人は、専ら操舵室左舷側の前窓際に立って前方の見張りを行ったのち、B受審人が298度に転針して間もなく、同人に船橋当直を任せて前部甲板に赴き、甲板員1人とともに防舷材の整備などの入港準備に取り掛かった。
 14時06分B受審人は、鰹島灯台から353度240メートルの地点に達したとき、左舷船首78度270メートルに北上する新開丸を視認することができる状況で、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたが、出航船がいないか船首方の勝浦港港口に注目し、左舷方の見張りを十分に行わなかったことから、新開丸の存在に気付かずに西行した。
 そして、B受審人は、14時08分新開丸が方位にほとんど変化がないまま140メートルに接近したが、警告信号を行わず、更に間近に接近したとき、機関を全速力後進にかけるなど、衝突を避けるための協力動作をとらずに続航するうち、14時10分紀伊勝浦港乙島灯台から123度270メートルの地点において、新貢丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が新開丸の右舷後部に後方から18度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界良好であった。
 A受審人は、前部甲板において防舷材の修理作業をしていたとき、左舷側至近の海面に転覆している新開丸を認め、「転覆した小船がいる。」旨をB受審人に告げ、事後の措置に当たった。
 また、新開丸は、船体後部に操舵室を設けたFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、延縄漁などの目的で、船首尾とも0.5メート ルの喫水をもって、同月24日06時00分和歌山県勝浦港を発し、07時00分梶取埼灯台の南西方3海里付近の漁場に至り、操業を開始した。
 C受審人は、10時ごろ延縄漁から一本釣り漁に変えて操業を続け、かさごなど5キログラムを釣り上げたところで漁を終え、13時30分勝浦港に向けて帰途に就き、やがて鰹島南側水域に設置された定置網を避けるために同島南方の灯明埼側に近寄り、14時02分鰹島灯台から180度740メートルの地点で、定置網の間に開けた水路を北上することとし、針路を同灯台に向首する360度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの速力で進行した。
 そして、C受審人は、操舵室の後ろに立ってその上から顔を出し、同室屋根に設けた透明なプラスチック製の風防越しに前方の見張りを行いながら、舵柄による操舵に当たり、14時05分少し前鰹島灯台を船首180メートルに見る地点で、乙島とその東にある鶴島との間の水路を経て勝浦港に入航することとし、針路を316度に転じ、同じ速力で勝浦湾を乙島の少し東側に向けて北上した。
 14時06分C受審人は、鰹島灯台から277度190メートルの地点に達したとき、右舷船首84度270メートルに西行する新貢丸を視認することができる状況で、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたが、風防を通して操舵目標である乙島に注目し、右舷方の見張りを十分に行わなかったことから、同船の存在に気付かず、速やかに新貢丸の進路を避けなかった。
 こうして、C受審人は、同じ針路及び速力のまま続航中、新開丸は前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、新貢丸は左舷船首部に擦過傷を生じ、新開丸は、左舷側に転覆し、その後来援した引船によって曳航されているとき、衝突地点付近で沈没して全損となった。また、C受審人は海中に投げ出されたが、付近を通り掛かった僚船に救助された。

(原因)
 本件衝突は、和歌山県勝浦湾において、新開丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る新貢丸の進路を避けなかったことによって発生したが、新貢丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、勝浦湾において、漁場から帰航中、乙島の少し東側に向けて北上する場合、前路を左方に横切る態勢で接近する新貢丸を見落とさないよう、右舷方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、操舵目標である乙島に注目し、右舷方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、新貢丸の存在に気付かず、速やかにその進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、新貢丸の左舷船首部に擦過傷を生じさせ、新開丸を転覆させるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、勝浦湾において、漁場から帰航中、乙島の少し南側に向けて西行する場合、前路を右方に横切る態勢で接近する新開丸を見落とさないよう、左舷方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、出航船がいないか船首方の勝浦港港口に注目し、左舷方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、新開丸の存在に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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