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平成12年神審第70号
件名

漁船松栄丸漁船妙法丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年1月12日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小須田 敏、阿部能正、西田克史)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:松栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:妙法丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
松栄丸・・・船首及び船底外板に亀裂
妙法丸・・・船尾部及び左舷ブルワーク等に亀裂、甲板員が右第11肋骨骨折及び右脚関節距骨下関節靱帯損傷

原因
松栄丸・・・動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
妙法丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、松栄丸が、動静監視不十分で、漁ろうに従事している妙法丸を避けなかったことによって発生したが、妙法丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年1月6日08時26分
 徳島県吉野川河口沖合

2 船舶の要目
船種船名  漁船松栄丸 漁船妙法丸
総トン数 7.3トン 2.78トン
登録長 13.06メートル 7.42メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120 15

3 事実の経過
 松栄丸は、船尾寄りに操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船びき網漁業の魚群探索兼漁獲物運搬に従事する目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成11年1月6日06時30分網船2隻と共に徳島県徳島小松島港和田島地区を発し、同港の東方沖合で魚群探索を行ったのち、単独で通称小松沖のり養殖場の西側水域に向かった。
 A受審人は、08時21分今切港長原導流堤灯台(以下「導流堤灯台」という。)から145度(真方位、以下同じ。)570メートルの地点に達したとき、針路を小松沖のり養殖場西縁に沿う180度に定め、10.0ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で手動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は、正船首わずか左1,500メートルのところに妙法丸を初認したが、停留している様子に見えたことから、同船を左舷側に見て替わるものと思い、その後同船の動静監視を十分に行うことなく操縦席の右前方にある魚群探知器の映像を見ながら続航した。
 08時24分A受審人は、導流堤灯台から166度1,430メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首方で自船に船尾を向けた妙法丸まで600メートルとなり、同船が漁ろうに従事していることを示す法定の形象物を掲げていなかったものの、その船体中央部付近に徳島県が指定した貝けた網漁を示す標旗を掲げ、船尾において鳥居型やぐらを用いて漁具を揚収している様子などから、わずかに船尾方に移動しながら漁ろうに従事していることが分かる状況となって、その後妙法丸に衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然として動静監視を行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま進行した。
 A受審人は、同じ針路、速力で続航中、08時26分導流堤灯台から170度2,040メートルの地点において、松栄丸は、その船首が、妙法丸の船尾に後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、妙法丸は、貝けた網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日07時30分徳島県榎瀬江湖川沿いの係留地を発し、同県指定の操業区域である小松沖のり養殖場西側水域に向かった。
 B受審人は、08時00分船体中央部の甲板上約1メートルの高さのところに徳島県が指定した約90センチメートル四方の標旗を掲げていたものの、漁ろうに従事していることを示す法定の形象物を掲げないまま、船尾から長さ3メートルの袋網の網口に鉄製の爪を有する高さ30センチメートル幅2メートルの鉄枠を取り付けた漁具に長さ16メートルの引き綱を結んで投入し、曳網を開始した。
 08時21分B受審人は、水深約2メートルの前示衝突地点付近に至ったところで機関を中立運転とし、160度に向首して揚網作業を始め、同時24分漁具の巻き込みによりわずかに船尾方に移動していたとき、左舷船尾20度600メートルのところに自船に向首接近する松栄丸を視認することができ、その後同船が自船を避けずに衝突のおそれがある態勢で接近したが、揚網作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことなく同作業を続けた。
 B受審人は、08時26分わずか前網口の鉄枠を鳥居型やぐらを使って甲板上に引き上げ、船尾端に立って袋網を手繰り寄せようとしたとき、船尾方至近に迫った松栄丸を初めて認めたものの、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、松栄丸は船首及び船底外板に亀裂を生じ、妙法丸は船尾部及び左舷ブルワーク等に亀裂を生じたが、のちいずれも修理され、妙法丸の甲板員が右第11肋骨骨折及び右脚関節距骨下関節靱帯損傷等を負った。

(原因)
 本件衝突は、徳島県吉野川河口沖合において、松栄丸が、動静監視不十分で、漁ろうに従事している妙法丸を避けなかったことによって発生したが、妙法丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、吉野川河口沖合において、正船首わずか左に妙法丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、妙法丸を左舷側に見て替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、わずかに移動しながら漁ろうに従事している同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、これを避けないまま進行して衝突を招き、松栄丸の船首及び船底外板に亀裂を、妙法丸の船尾部及び左舷ブルワーク等に亀裂を生じさせ、妙法丸の甲板員に右第11肋骨骨折及び右脚関節距骨下関節靱帯損傷等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、吉野川河口沖合において、漁ろうに従事する場合、自船に向首接近する松栄丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、揚網作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する松栄丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことなく同作業を続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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