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平成12年第二審第7号
件名

プレジャーボートアヤ漁船松喜丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月29日

審判庁区分
高等海難審判庁(伊藤 實、宮田義憲、山崎重勝、岸 良彬、川本 豊)

理事官
亀山東彦

受審人
A 職名:アヤ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:松喜丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
ア ヤ・・・船首部に擦過傷
松喜丸・・・左舷前部に破口及び亀裂のち廃船

原因
ア ヤ・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
松喜丸・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

二審請求者
理事官橋本 學

主文

 本件衝突は、アヤが、左舷に見る防波堤北端からできるだけ遠ざかって航行しなかったばかりか、動静監視不十分で、同北端を右舷に見てこれに近寄って航行する松喜丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、松喜丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成9年7月29日02時30分
 石川県金沢港

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートアヤ 漁船松喜丸
総トン数   2.85トン
全長   10.25メートル
登録長 9.36メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 169キロワット  
漁船法馬力数   35

3 事実の経過
 アヤは、船体中央部に操舵室を設けたFRP製のプレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成9年7月29日02時08分石川県金沢港の大野川西岸にある係留地を発し、同港南西方沖合の釣り場に向かった。
 ところで、金沢港は、大野川河口に造成された掘り込み式の港で、同港の西側には陸岸から北方に水面上の高さ4メートル、長さ3,000メートルの西防波堤が築造され、同防波堤北端から南100メートルの防波堤上に金沢港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)が設置されていた。そして、当時、同防波堤北端ではその延長工事が施工されており、同灯台から063度(真方位、以下同じ。)130メートル、021度380メートル、347度380メートル及び305度130メートルの各4地点に、4秒1閃光の黄色灯付浮標(以下「仮設灯浮標」という。)がそれぞれ仮設され、前示各地点を順に結ぶ線の内側の水域が、防波堤工事区域(以下「工事区域」という。)に指定されて一般船舶の航泊が禁止されていた。
 A受審人は、発進後、航行中の動力船が掲げる灯火を表示して大野川を下航したのち、港口に向けて低速力で北上し、02時27分半西防波堤灯台から176度1,450メートルの地点で、針路を001度に定め、機関を回転数毎分2,200にかけ、18.0ノットの対地速力で、手動操舵として進行した。
 02時28分A受審人は、西防波堤灯台から175度1,170メートルの地点において、左舷船首方の西防波堤北端の陰から現れた松喜丸の緑灯を正船首1,560メートルのところに初めて視認し、同船が工事区域北東端の仮設灯浮標付近を入航してくるのを認めたが、同船が右舷灯を見せていたので、互いに右舷を対して無難に替わるものと思い、その後、同船の動静監視を十分に行わないまま続航した。
 A受審人は、02時28分わずか過ぎ西防波堤灯台から174度1,100メートルの地点に達したとき、西防波堤の延長工事が行われていることを知っていたものの、釣り場までの距離を短縮しようと思い、左舷に見る同防波堤北端からできるだけ遠ざかって航行する針路とせず、同防波堤北端に近寄る356度の針路に転じてGPSの操作を開始した。
 02時28分少し過ぎA受審人は、西防波堤灯台から174度1,030メートルの地点に至ったとき、松喜丸が右舷船首6度1,400メートルとなったところで右転して白、紅2灯を見せるようになり、その後、その方位が変わらないまま衝突のおそれのある態勢で接近してきたが、依然、GPSの操作に気を奪われ、同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転するなど衝突を避けるための措置をとらずに続航した。
 A受審人は、02時29分半、松喜丸が西防波堤北端に近寄った針路で右舷前方400メートルに接近してきたものの、同船との衝突回避措置をとらないまま続航するうち、同時30分わずか前、船首至近に迫った同船の船体を認めたが、何をする暇もなく、02時30分西防波堤灯台から148度70メートルの地点において、アヤは、原針路、原速力のまま、その船首が松喜丸の左舷前部に前方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、松喜丸は、船体中央部付近に操舵室を設けたFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、刺し網漁の目的で、船首0.40メートル船尾0.55メートルの喫水をもって、同日00時10分金沢港を発し、同港西方4海里付近の漁場に向かった。
 B受審人は、01時00分ごろ目的の漁場に着き、長さ500メートルの刺し網2張りを投網して操業を終え、同時55分航行中の動力船が掲げる灯火を表示したうえ、西防波堤灯台から294度4.2海里の地点を発進し、針路を工事区域の北端に向首する110度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で、操舵室後方に立って舵柄を操作しながら進行した。
 02時28分少し前B受審人は、西防波堤北端を右舷側300メートルの距離に並航して金沢港の港域内に入り、同時28分少し過ぎ西防波堤灯台から024度400メートルの地点に達したとき、右舷船首72度1,400メートルのところに出航してくるアヤの緑灯を初めて視認し、針路を西防波堤北端に近寄る196度に転じた。
 B受審人は、転針したとき、アヤの緑灯を左舷船首14度の方向に見るようになり、その後、その方位が変わらないまま衝突のおそれのある態勢で接近していることを知ったが、自船が西防波堤寄りに航行しているので、アヤが右転して同防波堤から遠ざかって衝突回避措置をとるものと思い、警告信号を行わず、機関を後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
 B受審人は、02時29分半アヤの緑灯を左舷前方400メートルに見るようになったものの、依然、同船の回避措置を期待して続航するうち、同時30分少し前衝突の危険を感じて機関を微速力前進としたが及ばず、松喜丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、アヤは船首部に擦過傷と船底に小破口を生じたが、のち修理され、松喜丸は左舷側前部を大破して転覆し、のち廃船にされた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、金沢港の西防波堤北端付近において、アヤが、同防波堤北端を左舷に見て出航する際、できるだけこれに遠ざかって航行しなかったばかりか、動静監視不十分で、同防波堤北端を右舷に見てこれに近寄って入航する松喜丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、松喜丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、金沢港の西防波堤北端を左舷船首方に見て出航中、工事区域北東端の仮設灯浮標付近に入航する松喜丸の緑灯を認めた場合、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、同船が右舷灯を見せていたので、互いに右舷を対して無難に替わるものと思い、GPSの操作に気を奪われ、その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、松喜丸が右転して衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、自船の船首部に擦過傷と船底に小破口を生じさせ、松喜丸の左舷側前部を大破させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、漁場から帰航するため金沢港の西防波堤北端付近を入航中、出航するアヤの緑灯を右舷前方に認めて右転したのち、同船と衝突のおそれのある態勢で接近しているのを知った場合、機関を後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同受審人は、自船が西防波堤寄りに航行しているので、アヤが右転して同防波堤から遠ざかって衝突回避措置をとるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成12年3月15日神審言渡
 本件衝突は、アヤが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、松喜丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。


参考図
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