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平成11年第二審第36号
件名

漁船第二十二富丸プレジャーボートバリアント衝突事件〔原審仙台〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月15日

審判庁区分
高等海難審判庁(米田 裕、伊藤 實、田邉行夫、吉澤和彦、川本 豊)

理事官
山田豊三郎

受審人
A 職名:第二十二富丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:バリアント船長 海技免状:二級小型船舶操縦士

損害
富 丸・・・左舷船首外板に塗装剥離
バリアント・・・スパンカーマストの折損及び左舷船屋外板に亀裂を伴う損傷

原因
富 丸・・・見張り不十分、港則法の航法(防波堤入口、避船動作)不遵守(主因)
バリアント・・・見張り不十分、港則法の航法(防波堤入口)不遵守(一因)

二審請求者
理事官黒田 均

主文

 本件衝突は、第二十二富丸が、左舷に見る防波堤の突端からできるだけこれに遠ざかって航行しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、右舷に見る同突端に近寄って航行するバリアントが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年10月12日04時25分
 山形県酒田港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十二富丸 プレジャーボートバリアント
総トン数 4.72トン  
全長   10.77メートル
登録長 9.90メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 132キロワット 128キロワット

3 事実の経過
 第二十二富丸(以下「富丸」という。)は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成10年10月11日15時ごろ山形県酒田港第1区の、維持水深10メートルの掘下げ水路(以下「水路」という。)奥にある船だまりを発し、同港北西方約7海里沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、15時50分漁場に到着して操業を開始し、翌12日03時32分酒田港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から314度(真方位、以下同じ。)7.3海里の地点で、操業を打ち切り、航行中の動力船が掲げる灯火を表示して帰途に就いた。
 漁場発進後A受審人は、酒田港の南防波堤と第2北防波堤間の、可航幅約880メートルの防波堤入口に向かうこととし、南防波堤灯台を正船首に見る針路としたところ、海潮流の影響を受けて北方へ圧流されるので、自動操舵のつまみで適宜針路を同灯台に向首するよう調整しながら航行した。
 A受審人は、04時13分南防波堤灯台から337度1.8海里の地点に達し、海潮流が微弱となっていたとき、いったん行きあしを停止し、魚倉の海水を入れ替えたのち、同時16分再び防波堤入口に向けて航行を開始し、針路を同灯台に向首する157度に定め、機関を回転数毎分1,600ばかりにかけ、8.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は、3海里レンジとしたレーダー画面上で、南防波堤灯台北側約80メートルの南防波堤屈曲部(以下「南防波堤屈曲部」という。)東方にあたる、左舷船首2度1.8海里のところに、バリアントの映像を認めた。そこで、同受審人は、同映像を肉眼で確かめようとして船首方に視線を転じたところ、同船が第2北防波堤南西端との見通し線にほぼ重なり、海面上の高さ約9メートルの同防波堤の陰になって、その灯火を視認することができなかった。
 A受審人は、その後レーダーの画面上からバリアントの映像が消え、肉眼とレーダーのいずれによっても同船の存在を確認できないことに不審を抱きながら、船首目標の南防波堤灯台の灯光を注視し、同船が出航して来ていることに気付かないまま続航した。
 04時21分A受審人は、第2北防波堤南西端まで約1,000メートルの港域に達したとき、そのまま進行すれば、左舷に見る同南西端を70メートル離して航過する状況であったが、同南西端からできるだけ遠ざかって航行する措置をとることなく進行した。
 04時23分半A受審人は、南防波堤灯台から337度1,430メートルの地点に達したとき、左舷船首9度600メートルのところに、第2北防波堤の陰から現れた直後のバリアントの白、緑2灯を視認することができ、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然正船首方の南防波堤灯台の灯光のみを注視していて、左舷船首方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに行きあしを停止するなどの同船との衝突を避けるための措置をとらないまま続航した。
 04時25分わずか前A受審人は、船首至近に迫ったバリアントの船体を初めて視認し、急いで機関を後進としたが及ばず、04時25分南防波堤灯台から337度1,070メートルの地点において、富丸は、原針路のまま約5ノットの速力となったとき、その左舷船首が、バリアントの左舷船尾に前方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、バリアントは、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、遊漁の目的で、船首尾とも1.0メートルの喫水をもって、同日04時00分南防波堤灯台から120度1.3海里にあたる、酒田港第2区のプレジャーボート用船だまりを発し、航行中の動力船が掲げる灯火を表示して第2北防波堤北端付近の釣り場に向かった。
 B受審人は、操舵室右舷側の操縦席の前に立ち、ときどき前面の窓ガラスの曇りを拭きながら操船に当たり、水路を出て間もなく、04時13分南防波堤灯台から143度560メートルの地点に達したとき、針路を第2北防波堤南西端の緑色灯標を正船首わずか左方に見る334度に定め、機関を回転数毎分750にかけ、5.6ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 04時16分B受審人は、南防波堤屈曲部を左舷側に100メートル離して並航したとき、左舷船首2度1.8海里のところに、富丸が防波堤入口に向かっていたが、第2北防波堤の南西端とほぼ重なって同船の灯火を認めることができず、同船が入航して来ていることに気付かないまま続航し、同時18分南防波堤灯台から350度420メートルの地点に達したところ、貨物船1隻が防波堤入口を入航中であったので、いったん行きあしを停止して同船の通過を待ち、同時21分再び元の針路、速力で航行を開始した。
 04時23分半B受審人は、南防波堤灯台から344度840メートルの地点に達したとき、第2北防波堤南西端を近距離に替わすため、左舵をとり、針路を同南西端を右舷側に70メートル離し、右舷に見る同突端に近寄って航行する314度に転じた。
 転針したころB受審人は、右舷船首14度600メートルのところに、第2北防波堤の陰から現れた直後の富丸の白、赤2灯を視認することができ、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、前示の貨物船を替わしたのちは、入航船はいないものと思い、右舷側の窓から顔を出し、同防波堤南西端との距離を目測することに気を奪われ、船首方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに行きあしを停止するなどの富丸との衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
 04時25分わずか前B受審人は、至近に迫った富丸の灯火を初めて視認し、急いで右舵一杯としたが及ばず、バリアントは、047度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、富丸は、左舷船首外板に擦過傷を生じ、バリアントは、スパンカーマストの折損及び左舷船尾外板に亀裂を伴う損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は、港則法が適用される酒田港において、夜間、入航する富丸と出航するバリアントが、防波堤入口の第2北防波堤南西端付近で衝突したものであるが、以下適用する航法について検討する。
 まず、防波堤入口又は入口付近で出会うおそれのある、出航船と入航船間の航法を定めた港則法第15条の適用について考察する。
 同条は、防波堤入口の可航幅から、出航船と入航船の両船が十分な余裕をもって安全に航過することができないような状況下において、出航船と入航船が防波堤入口又は入口付近で出会うおそれがある場合に、入航船を避航船とし、防波堤の外で入航船に出航船の進路を避けさせることで、出航船の通航を優先させ、一方通航とすることによって船舶交通の安全を図ることを目的としたものである。
 酒田港における、南防波堤と第2北防波堤間の防波堤入口の可航幅は約880メートルあり、入航する登録長9.90メートルの富丸と、出航する全長10.77メートルのバリアントの両船が、同入口及び入口付近において十分な余裕をもって安全に航過できるものであり、防波堤の外で富丸がバリアントの出航を待つまでもない状況にあったものと認められることから、本条を適用することは相当でない。
 次に、防波堤等の工作物の突端または停泊船舶の近くを航行する船舶の航法を定めた港則法第17条の適用について考察する。
 同条は、防波堤等の工作物の突端などにより、互いに他の船舶を視認することが困難な場所において、航行船舶同士の出会いがしらの衝突を防止するために、あるいは、衝突のおそれある態勢になっても時間的、距離的に十分な余裕をもって衝突回避の措置がとれるように、同突端などを右舷に見て航行するときは、できるだけこれに近寄り、左舷に見て航行するときは、できるだけこれに遠ざかって航行するようにしたものである。
 本件は、入航する富丸が、04時16分にレーダーで前方1.8海里に出航するバリアントの映像を探知したとき、同船は富丸と第2北防波堤南西端を結ぶ見通し線にほぼ重なり、以後同南西端を左舷に見る同船が、これに近寄って、また、バリアントが、同南西端に近寄ってそれぞれ航行していたことから、衝突1分半前まで同防波堤によって互いにその灯火を視認できない状況のまま接近し、その灯火が相互に視認可能となったのは、かなり近距離になってからである。したがって、富丸が、左舷に見る第2北防波堤南西端からできるだけ遠ざかって航行していたならば、本件衝突を回避できたと認められることから、本条を適用するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、夜間、山形県酒田港の第2北防波堤南西端付近において、富丸が、左舷に見る同南西端からできるだけこれに遠ざかって航行しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、右舷に見る同南西端に近寄って航行するバリアントが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、酒田港において、南防波堤と第2北防波堤間の防波堤入口に向けて入航する場合、出航するバリアントを見落とさないよう、左舷船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船首目標とした南防波堤灯台のみを注視して、左舷船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、見通しを妨げる第2北防波堤の陰から現れ、衝突のおそれがある態勢で接近するバリアントに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、自船の左舷船首外板に擦過傷を、バリアントの左舷船尾外板に亀裂等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、酒田港において、南防波堤と第2北防波堤間の防波堤入口に向けて出航する場合、入航する富丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、入航する他船はいないものと思い、右舷方の第2北防波堤南西端との距離を目測することに気を奪われ、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、見通しを妨げる同防波堤の陰から現れ、衝突のおそれがある態勢で接近する富丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成11年12月16日仙審言渡
 本件衝突は、入港する第二十二富丸が、動静監視不十分で、出航するバリアントの進路避けなかったことによって発生したが、バリアントが、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。


参考図
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