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平成11年第二審第37号
件名

漁船第十八福寶丸漁船第八千栄丸衝突事件〔原審長崎〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年2月23日

審判庁区分
高等海難審判庁(小西二夫、山崎重勝、伊藤 實、岸良 彬、川本 豊)

理事官
松井 武

受審人
A 職名:第十八福寶丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第八千栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
福寶丸・・・左舷外板擦過傷
千栄丸・・・操舵室側壁破損

原因
福寶丸・・・動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守
千栄丸・・・動静監視不十分、各種船間の航法(協力動作)不遵守

二審請求者
理事官小須田 敏

主文

 本件衝突は、第十八福寶丸が、動静監視不十分で、近距離で全速力前進に増速した第八千栄丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、第八千栄丸が、動静監視不十分で、近距離で針路を転じた第十八福寶丸との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年3月17日03時30分
 長崎県五島列島中通島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八福寶丸 漁船第八千栄丸
総トン数 85トン 4.8トン
全長 42.15メートル  
登録長   12.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 669キロワット  
漁船法馬力数   80

3 事実の経過
 第十八福寶丸(以下「福寶丸」という。)は、網船1隻、灯船2隻及び運搬船2隻で構成する、大中型まき網船団に所属する鋼製灯船で、長崎県野母漁港で月夜間の休漁を終えた後、A受審人が臨時の船長としてほか3人と乗り組み、同船団に所属する僚船の乗組員10人を同乗させ、船首2.8メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、航行中の動力船が掲げる灯火を表示したうえ、平成10年3月17日01時00分同漁港を発し、同船団が基地としている五島列島中通島東岸の浜串漁港に向かった。
 A受審人は、離岸操船に引き続いて単独で船橋当直にあたり、01時20分三ツ瀬灯台から000度(真方位、以下同じ。)0.5海里の地点において、針路を297度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて13.6ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、03時14分相ノ島灯台から154度6.4海里の地点に達したとき、ほぼ正船首約3海里のところに、他のまき網船団に所属する灯船第八千栄丸(以下「千栄丸」という。)の集魚灯と、その近くに同船団を構成する数隻の漁船の灯火を認めたので手動操舵に切り替え、そのままの針路で続航した。
 03時28分少し前A受審人は、相ノ島灯台から173度4.7海里の地点に至り、ほぼ正船首の同船団の網船までの距離が800メートルとなったとき、同船が投網を始めたので、投網水域を500メートルばかり離して迂回するつもりで右転を始め、同時28分針路を340度に転じた。このとき同受審人は、左舷船首35度700メートルの近距離のところに、集魚を終えて投網水域から北東方向に進行する千栄丸のマスト灯、右舷灯、黄色回転灯及び作業灯を視認することができる状況であったが、投網する網船に気をとられ、千栄丸の動静を十分に監視しないで進行した。
 03時29分A受審人は、千栄丸の方位がほとんど変わらずに400メートルまで接近し、衝突の危険が生じているのを知ることができたが、依然として動静監視不十分で、このことに気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらないで進行した。
 A受審人は、03時29分半網船を左舷正横後に見て網船の投網水域を十分に替わしたので、針路を浜串漁港に向かう原針路に戻そうとして左転を始め、やがて297度の針路としたが、同時30分わずか前正船首間近に接近した千栄丸の灯火を認めて右舵をとったものの、効なく、03時30分相ノ島灯台から176度4.2海里の地点において、福寶丸は、原針路のまま、その左舷船首が千栄丸の船尾右舷側に後方からほぼ平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、潮侯は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、千栄丸は、網船1隻、灯船3隻、運搬船2隻及びうらこぎ船1隻で構成する、中型まき網船団に所属するFRP製灯船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.35メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、同月16日15時ごろ長崎県小串漁港を発し、相ノ島南方の漁場に向かった。
 やがて、B受審人は、同漁場に至って魚群を探索していたところ、15時45分ごろ相ノ島灯台から178度4.5海里の水深約70メートルのところで魚群を発見したので、日没を待って集魚することとして自重約60キログラムの六爪錨を投じ、錨索約80メートルを延出し、これを左舷船首の係船柱に結止して錨泊を始めた。
 ところで、まき網船団の灯船は、通常、自船を中心として投網されたまき網の外に出る際、プロペラや舵に網が絡まないようシューピースを備えているが、千栄丸はこれを備えていなかった。そこでB受審人は、網船が投網を開始する前にその備えがある他の灯船と交替し、集魚した魚が拡散するのを防ぐため、揚錨しないまま機関を微速力前進にかけて投錨地点を発し、投網水域を離れたところで全速力前進に増速し、同水域から十分に遠ざかった地点で揚錨することとしていた。
 B受審人は、20時ごろ1キロワットの集魚灯3個と水中灯2個を点灯し、船首を西北西方に向けて集魚しているうち、翌17日03時08分ごろ右舷船尾方5海里のところに福寶丸の灯火を初認し、また同船の接近を船団所属の僚船からも無線連絡で知らされたが、接近する他船は集魚灯を点灯している自船を避けるものと思い、魚群探知機の監視に当たって集魚を続けた。
 やがて、B受審人は、網船が長さ約200メートルのまき網を、直径約60メートルの円形状に投網する時機となったので、その投網水域を離れることとし、03時27分福寶丸が1,100メートばかりに接近したとき、他の灯船と集魚を交替して自船の集魚灯および水中灯を消灯し、航行中の動力船が掲げる灯火のほかに、操舵室上のマスト頂部に設備している黄色回転灯と、操舵室天井後端の作業灯を点じ、針路を030度に定め、機関を3.0ノットの微速力前進にかけ、揚錨しないで、左舷船首の係船柱に結止した錨索を延出したまま集魚地点を発進した。
 03時28分B受審人は、相ノ島灯台から178度4.4海里の網船の投網水域を離れた地点で、機関を全速力前進として8.0ノットの対地速力に増速したとき、右舷正横後5度700メートルの近距離のところに、北北西方に進行する福寶丸のマスト灯及び左舷灯を視認することができる状況であったが、左舷側に延出している錨索が推進器に絡まないよう監視することに気を奪われ、福寶丸の動静を十分に監視しなかったので、これに気付かず進行した。
 03時29分B受審人は、福寶丸の方位がほとんど変わらずに400メートルまで接近し、衝突の危険が生じているのを知ることができたが、依然として動静監視不十分で、このことに気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらないで続航した。
 B受審人は、03時29分少し過ぎ網船から500メートルばかり離れた地点で機関を中立運転とし、惰力で進行した後船首が297度を向いて停止したところで、操舵室の左舷前部外壁に設備している索具巻揚用ローラで、船首方を向いて揚錨を始め、同時30分わずか前錨索を約10メートル巻き取ったとき、ふと船尾方を振り向き、間近に接近した福寶丸の灯火を認めたが、どうすることもできず、千栄丸は、297度を向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福寶丸は左舷側外板に擦過傷を生じ、千栄丸は右舷側防舷材、操舵室窓ガラス及び出入口扉などを破損し、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は、福寶丸及び千栄丸の両船が衝突の2分前700メートルの近距離に接近したとき、福寶丸が針路を転じ、千栄丸が全速力前進に増速して両船が互いに進路を横切る態勢となり、その後衝突直前まで方位の変化がほとんどない状態で接近したものである。
 しかしながら、両船が、進路を横切る態勢となった後、互いに方位の変化がなく、衝突のおそれがあると認めることができるのは衝突の約1分前、距離約400メートルに接近したときと考えられる。
 したがって、本件は、両船において衝突のおそれがあると分かったときには、その大きさ及び速力から判断して、時間的にも、距離的にも衝突の危険が切迫していたと認められるので、海上衝突予防法15条及び17条によって律するのは相当でなく、同法38条及び39条によって律するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、夜間、長崎県五島列島中通島東方沖合において、福寶丸が、動静監視不十分で、近距離で全速力前進に増速した千栄丸と衝突の危険が生じた際、同船との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、千栄丸が、動静監視不十分で、近距離で針路を転じた福寶丸と衝突の危険が生じた際、同船との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県五島列島中通島東方沖合を航行中、操業するまき網船団に所属する千栄丸の集魚灯を認めた場合、集魚を終えて網船の投網水域から離れる千栄丸と衝突のおそれがないかどうか判断できるよう、同船の動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、網船の投網水域を迂回する針路に転じた後も投網する同船に気をとられ、千栄丸の動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、近距離で全速力前進に増速した同船と衝突の危険が生じていることに気付かず、同船との衝突を招き、自船の左舷側に擦過傷を生じさせ、千栄丸の右舷側防舷材、操舵室窓ガラス及び出入口扉などを破損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、長崎県五島列島中通島東方沖合において投錨して集魚中、接近する福寶丸の灯火を認めた場合、投網水域を迂回する同船と衝突のおそれがないかどうか判断できるよう、同船の動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、集魚を終えて揚錨しないまま集魚地点を発進し、増速した後も左舷船首の係船柱から延出している錨索の監視に気をとられ、福寶丸の動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、近距離で針路を転じた同船と衝突の危険が生じていることに気付かず、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成11年12月17日言渡
 本件衝突は、第十八福寶丸が、見張り不十分で、漁ろう中の第八千栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八千栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。


参考図
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