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5. 資源の持続的な利用に向けて総合的な政策を展開する必要がある
 わが国の排他的経済水域および大陸棚に存在する豊かな生物資源および非生物資源を持続的に利用するためには、利用・開発・保全のバランスのとれた政策を推進することが重要である。
 
(1)水産資源管理と環境管理の連携強化
 水産資源はわが国の食料政策において重要な位置付けにあるが、陸起源の水質汚染・汚濁に加え、海底資源開発にともなう不慮の事故や海難事故による油流出、船舶に起因する海洋汚染などの指標ともなり、環境管理の上でも重要な位置付けにある。
 
 一方で、特定種の増養殖による種の多様性への影響や、過密養殖や過給餌による沿岸域の水底質の悪化など、漁業による環境への影響も環境管理における重要な課題のひとつである。
 
 したがって、農林水産省を中心に行なわれている生物資源管理と、環境省を中心に行なわれている環境管理の連携を強化し、排他的経済水域および大陸棚における生物資源管理のネットワークを構築することが必要である。
 
(2)非生物資源の合理的利用のための法制整備
 水産行政における生物資源については、「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」いわゆるTAC法を施行し、現在では同法の改正により導入されたTAE制度との両輪により資源管理が行なわれている。
 
 他方、海底鉱物資源などの非生物資源については、現在のところ「鉱業法」などの在来法を準用しており、これら国内法令の領海外への適用という管理政策の内外への明確化を基礎とした海洋管理を推進することが重要である。
 
 その場合、提言2で述べた基本法制との関係も含めて、「排他的経済水域および大陸棚に関する法律」の見直しをはじめ、大陸棚の海底および海底下の資源管理を柱とした法制整備や管理施策の推進が必要である。
 
6. 国民の理解を得ることならびに人材を育てることが必要である
 わが国の排他的経済水域および大陸棚の適正な管理は、そもそもわが国の産業経済と国民生活を支えるための施策であり、納税者たる国民に理解を得ることが重要である。
 また、適正な海洋管理を行なうためには、専門知識を有する多種多様な人材が必要であり、国家戦略としてこれを育てることが必要である。
 
(1)国民の理解
 広大なわが国の排他的経済水域および大陸棚の管理は大きな財政的負担を伴うものである。これらの海洋管理が、国民の生命と財産を守るために不可欠であること、持続的な社会を形成するために重要であることなどを、納税者である国民に理解してもらうことが必要である。
 
 つまり、国は海洋管理の重要性について絶えず国民に対して情報を発信する義務があり、かつ、それが重要な国家戦略であることを認識すべきである。
 
(2)人材の育成
 わが国の排他的経済水域および大陸棚の管理を行なうためには、海洋を探求する科学者、海洋研究や資源調査を支援する技術者、海洋政策を議論する研究者など、海洋管理を担う多様な人材の育成が必要である。
 
 そのためには、小中学校における海洋教育のカリキュラム化や、大学・大学院における海洋管理コースの設置などを推進する必要がある。
 
 さらに、非教育機関である試験研究機関の海洋研修や体験航海、水族館・博物館などの野外体験学習など学習・教育機会の提供を一層推進し、教育機関と非教育機関のネットワークを構築して、次代を担う人材を育てていくことが重要である。
 
わが国200海里水域の海洋管理ネットワーク構築に関する研究
研究委員会
(敬称略・順不同)
委員長 酒匂 敏次 東海大学海洋学部教授
委員 小野征一郎 近畿大学農学部教授
木下  肇 海洋科学技術センター理事
栗林 忠男 東洋英和女学院大学国際社会学部教授
竹内 倶佳 電気通信大学名誉教授
寺島 紘士 財団法人シップ・アンド・オーシャン財団 海洋政策研究所所長
徳山 英一 東京大学海洋研究所教授
永田  豊 財団法人日本水路協会 海洋情報研究センター技術顧問
前田 久明 日本大学理工学部教授
松田 惠明 鹿児島大学水産学部教授
 
排他的経済水域および大陸棚等の管理に係る用語解説
○排他的経済水域と大陸棚
 排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)は、国連海洋法条約において規定されている領海基線から最大200海里までの水域で、海中、海底、海底下の天然資源の探査などに関する主権的権利や、海洋の科学的調査や環境の保護・保全に関する管轄権などが認められている。
 大陸棚(Continental Shelf)は、沿岸国の領海を超える海底および海底下で、領土の自然の延長をたどって大陸縁辺部の外縁に至るまでのもの、または、大陸縁辺部の外縁が領海基線から200海里まで延びていない場合には、沿岸国の領海基線から200海里までのものをいう。ただし、同条約の定める範囲内で200海里を超えて最大350海里まで延長が可能である(p.4、5の概念図参照)
 
○TAC・TAE制度
 漁獲可能量(Total Allowable Catch)と漁獲努力量(Total Allowable Effort)に基づく資源管理制度のことである。
 TAC制度は、あらかじめ漁獲量の上限を定め、その範囲内に漁獲を収めるように漁業を管理する制度で、現在わが国では、サンマ、スケトウダラ、マアジ、マイワシ・マサバ・ゴマサバ、ズワイガニ、スルメイカの8魚種が管理の対象魚種となっている。
 TAE制度は、操業日数や操業隻数などの漁獲努力量に上限を設定し、その範囲内に漁獲努力量を収めるように漁業を管理する制度で、現在、カレイ類、サワラ、トラフグ等が対象魚種となっている。
 一般的には、資源量の予測精度が高い場合はTAC制度による管理を、資源変動に大きな幅が出る資源または現状では正確な資源予測に足るデータの収集が不十分な資源に対してはTAE制度による管理を行なっている。







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