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報告2
中山間地域等直接支払制度の意義と課題
 
I 中山間地域等直接支払制度について
(1)中山間地域等直接支払制度の目的及び考え方
 近年、中山間地域においては、地域住民の高齢化及び地域外への転出などで耕作放棄地が増加し、中山間地域が持つ国土保全機能の低下が懸念されている。そこで、平成12年度から、このような中山間地域を対象に、農業生産を維持しつつ、多面的機能を確保するという観点から、国民の理解の下に、直接支払制度が実施されている。
 基本的な考え方としては、以下のような項目に分けることができる。
 
(1)我が国農政史上初の試みであることから、導入の必要性、制度の仕組みについて広く国民の理解を得るとともに、国際的に通用するものとしてWTO農業協定上「緑」の政策として実施する。
(2)明確かつ客観的基準の下に透明性を確保しながら実施する。
(3)農業生産活動等の継続のためには、地方公共団体の役割が重要であり、国と地方公共団体が緊密な連携の下に共同して実施する。
(4)制度導入後も、中立的な第三者機関による実施状況の点検や政策効果の評価等を行い、基準等について見直しを行う。
 
(2)中山間地域等直接支払制度の仕組み
(1)対象地域及び対象農地
 対象地域は、特定農山村法等の指定地域とし、対象農地は、このうち傾斜等により生産条件が不利で耕作放棄地発生の懸念の大きい農用地区域内の一団の農地とし、指定は、国が示す基準に基づき市町村長が行う。
 
(2)対象行為
 対象行為は、耕作放棄の防止等を内容とする集落協定又は第3セクターや認定農業者等が耕作放棄される農地を引き受ける場合の個別協定に基づき、5年以上継続される農業生産活動等とする。
 
(3)対象者
 対象者は、協定に基づく農業生産活動等を行う農業者等とする。
 
(4)単価
 単価は、中山間地域等と平地地域との生産条件の格差の範囲内で設定する。
 
(5)地方公共団体の役割
国と地方公共団体とが共同で、緊密な連携の下で直接支払いを実施する。
 
(6)期間
 農業収益の向上等により、対象地域での農業生産活動等の継続が可能であると認められるまで実施する。
 
参考:農林水産省のHP  http://www.maff.go.jp/
 
II 中山間地域の現状と直接支払制度の特徴
(1)中山間地域の現状
 中山間地域の現状は、一言で言うと「人・土地・村の三つの空洞化」である。1960年代から70年代の高度経済成長期において、農家の後継ぎが他の土地へ転出したのが、人の空洞化である。その後、残された父や母が、農地または林地の保全を担ってきたが、高齢化のために土地を維持できなくなり、耕作放棄地になったのが、土地の空洞化である。さらに、90年代からは、集落数そのものが減少し、村の存続まで危ぶまれているのが、村の空洞化である。詳しくは、下図を参照されたい。
 
(拡大画像:14KB)
 
 
(2)中山間地域等直接支払制度の特徴
(1)集落重点主義
 この制度は、集落協定に対して交付金を支払う仕組みとなっており、その使い道は、集落ごとに決めている。
 
(2)農家非選別主義
 交付金対象を、例えば農家が零細であるか、あるいは高齢農家であるかによって選別しないということになっている。
 
(3)地方裁量主義
 対象地域は、地域振興8法(特定農山村、山村振興、過疎、半島、離島、沖縄、奄美及び小笠原の地域振興立法)の指定地域に限られるが、それ以外の地域においても、都道府県知事が認定すれば、対象となるため地方裁量主義といえる。
 
(4)使途の非制約主義
 交付金であるが、使途については制約がない。
 
(5)予算の単年度主義の脱却
 集落協定によって交付金をプールできるため、1年間で交付金を使い切らなくても構わない。
 
(6)むらづくり活動との一体性
 集落協定を結んだ地域は、次項の図のように、共同取組活動の活性化を集落レベルで行い、集団的対応をするとともに、条件不利性を補正して個別の農業生産活動の活性化も行う。さらに発展させると、攻めの活動として多面的機能を増やすとともに、守りの活動として従来の農業生産活動も継続するということが、中山間地域農業・農村の多面的機能の確保につながる。
 
(7)地方主導型農政
 今回の制度は、地方で草の根的に実施されてきた政策をボトムアップにより全国レベルで展開しようとするものである。
 
中山間地域等直接支払制度の構図
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