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III 議事要旨
○「農山漁村地域の市町村における国土保全に資する取組」について報告
 
集落の公益的機能を維持するための対策や活動は、農業振興や農地保全に関する取組が多い。
 
水野委員:一番多かったのが農業振興や農地保全に関する取り組み事例であり、495事例で約4割でした。次に多かったのが森林整備や保全に関する事例であり、362事例で約3割ほどでした。そして環境整備・保全がありますが、これは集落の周辺環境整備・保全を通して国土保全を行っているという事例であります。それが191例で約2割弱と、大きく分野別で見るとこのような傾向になっております。
 
集落の公益的機能を維持するための対策や活動に係る実施主体は、取り組みの分野別に異なる傾向にある。
 
水野委員:一番目の環境整備・保全は、191事例であり、第3位でしたが、この取り組み事例の実施主体を見ますと、集落が45%で最も多く、同じく市町村と任意団体、両者が約3割といった実施主体の傾向になっています。最も多かった農業振興・農地保全の495事例では、実施主体は市町村が最も多く、約4割、その次が集落と、この二つで大体7割程度を占めているという結果になっています。
 一方この森林整備・保全に関しては、市町村が約46%で最も多いのですけれども、次に多かったのが「その他」となっております。その他というのは任意団体、地元の学校、ボランティア団体などの団体です。森林整備では環境整備や農業振興とは少し特徴が違いまして、次に上がってきたのがこの「その他」というふうに分類される主体です。
 また、都市農村交流は、今回は90事例だったのですが、市町村、その他、集落と、概ねこの三つの主体で行われているということです。
 防災・補修につきましては、実施主体は、大半がやはり市町村であります。
 このように、集落の公益的機能を維持するための対策や活動に係る実施主体は、取り組みの分野別に見ると様々であることが、今回の調査で判明しました。
 
集落の公益的機能を維持するための対策や活動に係る実施効果は、景観及び水環境が多い。
 
水野委員:景観形成や景観保全といったころに最も取り組みの実施効果があったというようなケースが多いのですけれども、ただ森林整備・保全というところを見ますと、やはり水循環の保全、あるいはそういった改善に寄与したといったような効果を上げている事例が多く見られました。
 都市農村交流は、その他がかなり高く、55.6%になっています。この効果というのは、事例を読み込んでいきますと、担い手が養成された、あるいは地域の関心が高まった、地域のPRにつながった、そういった面での効果ということになっています。
 
集落の公益的機能を維持するための対策や活動に係る将来展望は、農業振興・農地保全及び都市農村交流が多い。
 
水野委員:農業振興・農地保全及び都市農村交流の二つについては、今後こういった活動や取り組みを拡大していくといった割合が40%を超えて、やや高くなっています。ただ、集落環境周辺の整備とか保全については現状維持、これが52.9%で最も高くなっておりまして、同じく森林整備・保全についても、むしろ拡大というよりもこの活動の取り組みを現状維持でしていくといった、趨勢にあるようです。
 
集落の公益的機能を維持するための対策や活動の担い手を直接的担い手、間接的担い手と分類した。
 
水野委員:収集した多くの事例から、取り組みや対策の分野別に、国土保全の担い手を細かく分類してみたものを、参考資料としてまとめてみました。事例を中心に様々な担い手による、公益的機能の取り組み状況をご紹介します。生活環境の整備の分野ですと、道路整備や下水道の整備など直接的な担い手は市町村となるケースが多いわけですが、排水路の整備では、市町村が間接的担い手となって、当然集落が直接的な担い手になるケースもあるわけです。同じように生活環境の維持・保全でも、道路・水路の維持や掃除、それから清掃、草刈り等につきましては、集落が直接やっている事例もあれば、佐賀県の三瀬村のように、市町村が謝金を出して集落にそれを支援してやっていただいているという事例もあります。市町村が間接的な担い手となって、集落だけではなくて、任意団体の方も含めて道路・水路の維持・清掃を行っている事例も見られました。
 公園等の整備・維持の分野ではホタルの里づくり事業という事例がありますが、神奈川県の開成町では集落周辺の公園等の整備として、地元の任意団体がホタルの里づくり研究会をつくり、実際にホタルの養殖や放流を行って、将来的にはホタルの里の公園を目指している。こういった意味での担い手となっているというケースもありました。
 景観の整備・保全の分野におきましては、集落が直接やっているものももちろん数多くあるのですけれども、三重県の津市と松坂市の間にある久居市では、市が間接的な担い手となって、市内の社団法人のシルバー人材センターに、市町村が委託して緑化、植樹を行っているといった事例も報告されています。
 また、三重県の大山田村では、ふるさと創生1億円を機会にして、基金をつくり、それをもとに集落を支援しながら景観保全に取り組んでいます。
 あるいは湿地保全、環境保全全般として、担い手としてNPOというケースもあります。例えば宮城県の田尻町は、マガンの飛来地ですけれども、ここの湿地保全に地元のNPO団体が取り組んでおり、静岡県の金谷町でも、休耕された棚田とその落葉樹林の里山の保全に地元のNPO団体が直接的な担い手となって環境保全に取り組んでいます。
 次に農業振興・農地保全の分野においては、全体としてはやはり集落、あるいは農家、そういった主体が直接的な担い手になってまいります。農地保全・管理においてもそうなのですが、農協や市町村が間接的には支援しつつも、実際は農家が行うという、通常のパターンが多いわけです。ただ、遊休地とか、耕作放棄地の対策につきましては、幾つか事例もあげておりますが、市町村が窓口となって農家が実際に行う事例として、長野県の山ノ内町のそば振興対策補助金や群馬県の万場町の、町が苗木を購入して、国道沿いの遊休地に集落住民がそれをもって植樹や下草刈りをやるというような事例もあります。
 さらに、三重県の久居市では、病院近くの水田を利用して、病院が2分の1の協力金を支出して、農家に菜の花とかコスモス、こういったものを買って植えてもらうといった病院や市町村が間接的な担い手になって農家が直接的な担い手になっている事例も見られました。あとは農地流動化対策として、有名な新潟県の津南町では担い手農家への流動化、あるいは新規就農者を募って、公社が窓口となって研修事業を展開しているという事例があります。農作業の受委託、ふれあい農園、市民農園等のケースですと、農協が窓口となって希望者にそれを提供しているというケースでは、千葉県の山武町の事例があり、1区画当たり10坪、これを100区画程都市住民に貸して提供しているようです。
 農業の担い手対策といたしましては、埼玉県の栗橋町から上がってきた事例ですけれども、地元の農業後継者対策協議会という団体をつくりまして、そこが担い手確保のために新規就農者や、あるいは非農家住民に対して遊休地を提供して作付を指導しているといった事例があります。
 一方、森林整備・保全に関してですが、農業と違いまして、森林整備につきましては直接的な担い手、間接的な担い手としていろいろなボランティア団体やNPO団体、任意団体が主体となっているケースが数多く報告されています。例えば森林整備の植樹は、これは岩手県の胆沢町から上がってきた事例ですけれども、エコワークいさわ水の郷というボランティア団体が胆沢のダム建設を機会としてブナの苗木を購入し、住民ボランティアがそれを植栽していくといった取り組みがあります。
 また、森林の保全活動につきましては、NPOが直接的な担い手となって行っている事例ですが、北海道の下川町から上がってきた「美しい森を未来へとっなぐNPO さーくる森人類」という事例があります。U・Iターン者が増加してきたことを機会に発足したらしいのですけれども、枝打ちとか除・間伐、こういった森林保全活動をNPOが展開しているという報告がありました。
 ボランティアが森林整備を行っている事例としては、長野県の明科町では、県や市町村の林務課から手入れを求めているような山林所有者を紹介してもらって、そこに最適な管理手法を研究しながら実際に間伐等を地元の団体やボランティアが行っているという事例があります。
 その他といたしましては、例えば林業の担い手育成の中で、これは兵庫県の波賀町ですが、若者を中心に森林組合が月給制の林業従事者を育成しているといった事例の報告もあります。
 また、その他の一番下にも分類しましたように、間接的な担い手が市町村のほか民間企業となっていまして、直接的な担い手が子供という、少し変わったおもしろい事例もありました。どんぐり銀行の開設として、茨城県の大子町から、これは報告があったのですけれども、この民間企業というのは東京の渋谷に本社があり、キャラクター商品の企画・開発をしております会社です。この活動は全国のいろいろなところで展開しているようですが、子供たちがどんぐりを拾って役場に持っていって、一定量たまるとそこで苗木をもらうという、こういった仕組みになっています。苗木をもらってその苗木を植樹していく、つまり子供たちに森林資源の重要性を認識してもらうために、民間企業も一緒に参画して活動をしているという、珍しい事例もありました。
 4番目は、都市農村交流を通じて国土保全の対策を実施しているという分野です。農業・農村体験、オーナー制度など、対策はいろいろありますが、国土保全の担い手という点で見てみますと、間接的な担い手としては、市町村、農協、あるいは都市住民が中心とるなど、地元住民以外の主体が活躍している事例も多く見られます。例えば農業・農村体験ですと、中山間地域活性化推進事業として、山形県の戸沢村の事例で報告されておりましたのは、都内の消費者グループと連携して土地改良区や農家が畑地の使用契約を締結し、体験交流を実施していろいろな産物をつくっています。この都内の消費者グループというのは、無農薬農産物の生活体験の場というのを方では求めていて、一方で、山形県の戸沢村では、遊休地の対策をどうしたらいいか、それを悩んでいたわけですが、たまたまそこでうまくお互いが折り合って、1.2ヘクタールの耕作放棄地を実際に地元住民、あるいは都市住民の方にも参画していただいて守っているという事例です。
 そのほかにオーナー制度といたしましては、棚田のオーナー制度が各地であるかと思いますが、千葉県の鴨川市でも大山千枚田オーナー制度というのがありましたし、あるいはそばオーナー制度ですと、群馬県の甘楽町では、1口1万円で1アールの畑を提供して、遊休農地にそばを栽培する。種まきからそば打ちまでを地元名人の指導によって体験していく、こういう形で畑の耕作を続けて守っているという事例もあります。
 最後に防災・補修という分野ですと、治水・洪水防止として、市町村が窓口となって、あるいは支援をして立木所有者が直接的な担い手となっているという和歌山県の龍神村では、支障木伐採事業、台風後の倒木を伐採してもらう際に村が助成するといった事例があります。
 こうやって見ますと、総じての傾向ですが、景観・環境整備という点では集落住民のみならず、任意団体とかNPOの参画など、様々な主体が直接的あるいは間接的に担い手となっているケースが見られつつあります。同様に森林整備・保全という面においても、ボランティア団体、あるいは学校・児童が直接的・間接的担い手となって、様々なテーマで活躍されているといった傾向が見られつつあり、国土保全の担い手は、最近、各地で多様化していることがうかがえます。







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