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III. その他の行政の役割
(1)様々な団体との協働を目指す。
・自治会等の既存のコミュニティ組織は地域内において重要な役割を果たしており、行政とNPO等との協働を進めるには、地域の協力を得るため、行政とNPO等の1対1の関係だけでなく、これらの組織との連携も必要である。このため、行政が既存コミュニティ組織とNPO等との関係をコーディネートすることも今後必要となろう。
 
・商店街をはじめとして、地元企業の公益活動に対する取組みが遅れている。既存のコミュニティ組織と同様に、積極的に地元企業の参画を積極的に求めていくべきである。
 
(2)
地元のNPO等だけではなく、広域的に活動するものにも着目し、行政はNPO等と地域とのコーディネート機能を果たす。
・農村部に位置する地方公共団体の中には、地元にNPOが存在しないので、NPO施策は必要ない、と考えているところも多く見受けられる。しかしながら、都市と農村の交流を目指すNPOをはじめ、広域的に活動する団体も存在する。地域環境の保全、地域間交流を通じた地域振興等は、農村部に位置する地方公共団体が抱える共通の課題だが、これらのNPOの活動は都市住民の活力を活用して農山村の再生を目指すもので、農村部に位置する地方公共団体の利益とも合致するものである。しかし、都市部にあって、都市部に住む人材を派遣する立場にあるNPO等にとっては、なじみのない農村部に入り込み、活動を行うことには大きな困難が伴うことが多い。環境教育、植栽、美化活動、グリーンツーリズム等NPO等の活動を実行に移すにあたっては、活動場所である農村部にある農家、森林組合等の地域の様々な人々との連携は不可欠である。この場合、行政が、地域の様々な人々とNPOとの仲立ちをすることで、NPO等の地域での活躍が容易になっていくものと考えられる。このため、行政が中心となって、関係者からなる協議会を設立し、NPO等と協働していくということが有効な方策であろう。
 
事例1 黒松内町(北海道)
〜都市と農村との交流を目指した協働〜
1. これまでの取組み
■協働事業の前提――「ブナ北限の里づくり構想」
 黒松内町の豊かな自然を活かした町おこしをめざしたのが、平成元年に本格的にスタートした「ブナ北限の里づくり構想」である。自然・農業・生活文化などの地域資源を活用し、体験学習型の都市との交流を柱にしてまちづくりを進めるものであり、いわゆるリゾート開発による町おこしとは異なっていた。
 その構想を進めるなかで、平成3年の自然体験学習宿泊施設「歌才自然の家」をはじめ、平成5年には「ブナセンター」、「歌才オートキャンプ場」、「特産物手づくり加工センター トワ・ヴェール」というブナ北限の里づくりの核となる4つの交流施設ができた。交流施設の位置づけではその後、「黒松内温泉 ぶなの森」や「トワ・ヴェールII」、「ミニビジターセンター」も完成し、都市から訪れる人たちを迎えている。
 
■協働事業のきっかけ――ブナセンターの設立
 平成5年にオープンした町営博物館ブナセンターは、「ブナ北限の里づくり構想」の理念を象徴する施設であり、都市との交流促進の中核施設として位置づけられた。ブナ里における自然の調査研究や工芸創作活動、図書などを整備し、町の自然・文化資源に関する情報収集と発信機能を持つ複合施設である。
 ブナセンターの活動としては、(1)ブナ里における自然の調査研究、(2)ブナ里の資源に関する情報収集・発信、(3)自然環境体験学習プログラムの開発・実施、(4)野外活動の指導者の人材育成などがある。
 ブナセンターの特徴としては、欧米型の「博物館」として教育普及活動に力を入れ、自然体験型環境学習プログラムを開発し、さまざまな事業と野外活動の指導者となる人材育成を柱としていた点である。そうしたブナセンターの活動のなかで、後にできる「黒松内ぶなの森自然学校」に深く関わるNPO法人「ねおす」との接点が生まれた。
 「ねおす」とのはじめての出会いは、平成7年、まだ任意団体だった「ねおす」が事業として行っていた子ども体験ツアーで、ブナセンターの施設を利用したことに始まる。そして、平成9年に、ねおすから教育プログラムで勉強に来ている学生をブナセンターで預かって研修してほしいとの依頼があり、センターは研修の場を提供した。
 ブナセンターの活動のうち、「人材育成」の活動を抽出して特化させて誕生したものが、当初の「黒松内ぶなの森自然学校」である。
 
■協働事業のスタート
 平成10年11月、ブナセンターの自然体験型環境学習への継続的な取組みや、センター設立後5年間のなかで培った(社)日本環境教育フォーラムや「ねおす」とのネットワークを背景に、町におけるいっそうの環境学習の充実をめざして「黒松内ぶなの森自然学校」を誕生させ、平成11年4月から実質的な活動を始め、現在に至っている。
 「やることのできるノウハウとネットワーク」を、ブナセンターも、「受け皿」となる人材育成を指導できる「ねおす」も持っていたということが大きく関係している。
 
2. 黒松内町における協働
■協働の関係づくり
 黒松内町に見ることのできる協働の関係づくりのポイントは、(1)協働の姿の地域社会への浸透、(2)信頼に基づく対等な関係の確立と維持、(3)互いの専門性の認識に基づく役割分担があげられる。
(1)協働の姿の地域社会への浸透
 黒松内町は、いわば「お互いの顔が見えやすい」まちである。そのなかで、自然学校は設立から5年目を迎え、その存在を町に浸透させてきている。協働事業として行っている事業の姿が地域のなかではっきりと目に見えるようにするためには、情報を発信・公開することが大切である。
(2)信頼に基づく対等な関係の確立と維持
 協働して行う事業がはじめにあるのではなく、目的の達成のために協働をするということが大切である。そして、互いの信頼に基づく対等な関係をつくり協働事業を行うなかで、関係を維持できるかどうかということである。
 このような関係の背景には、互いへの「信頼」がある。ルールとしてはあるが、規則に書き込めるものではない「信頼に基づく対等な関係」を維持できたのも、この黒松内町が「顔が見えるまち」であることが大きな要因である。
 もちろん、センターと自然学校が、週1回のミーティングなどを通じて、事務局どうしの緊密な連携を保っていることも大きな要因である。
(3)互いの専門性の認識に基づく役割分担
 市民活動団体・NPOの活動分野における専門性と、行政としての専門性とを認識したうえで、それぞれの役割分担を明確にすることが大切である。お互いの専門性を認識し、明確に役割分担ができれば、お互いの顔の見えるまちほど協働が進みやすいし、その活動も浸透しやすい。今後、市民団体・NPOと行政の協働がさらに進んでいったときの役割分担については、ねおすは、地域内の「公共」を行政が担い、NPOは大きな外とのネットワークをもって「公共」を担うようになると考えており、その意味で自然学校は、地域に根を張りつつ、さまざまなセクターをコーディネートする複合的な役割を担うと考えている。
 
3. 黒松内町における協働事業
■黒松内ぶなの森自然学校
 「黒松内ぶなの森自然学校」は、設立を黒松内町が行い、運営は任意団体である「ぶなの森自然学校運営協議会」に委託されているのが特徴である。ブナセンターの事業であった野外活動を指導する人材の育成は、研修生制度となって引き継がれた。この制度のコーディネートは、北海道で野外活動の体験学習やその指導者の人材育成を団体として積極的に行っていたNPO法人ねおすに委託された。
 「運営協議会」は、町内外の関連団体(ねおす、北海道環境財団など)の代表者等や環境教育を実践している団体(環境学習フォーラム北海道など)の人々で組織され、非常勤会員として20名ほどの運営協議委員が所属している。協議会の立ち上げに際しての委員は、当時事務局を務めていたブナセンターの高橋氏が、町内では「顔の見えるまち」の関係を活用して各分野の代表となるような人を選出し、町外ではセンターの人材ネットワークを活用して自然環境教育の指導者として活躍する人を選出した。こうした委員から構成された運営協議会が、自然学校の認知やその後の地域での浸透を深めたのである。
 
 
 自然学校は、(1)自然体験型環境学習プログラム事業、(2)人材育成事業、(3)地域交流事業の3つの主要事業が柱となっている。
(1)自然体験型環境学習プログラム事業
 黒松内の豊かな自然環境を活用して、学校向け自然体験プログラム、一般観光客向け自然ガイド、子ども長期自然体験村など自然体験プログラムを実施している。
(2)人材育成事業
 研修生制度により、環境・自然教育の指導者を育成している。研修生は全国公募により1年間の期間で2名を受け入れている。平成11年度から14年度までで計8名が研修を受け育っている。
 研修生は研修奨励金が支給されるなか、自然学校の実際の業務に携わりながら、コーディネータによる指導や外部講師を招いた講座などで、自然体験型の環境学習プログラムの提供を受けることができる。
(3)地域交流事業
 黒松内町と都市との交流を進めるための活動である。ブナセンターの事業であった「週末田舎人」や機関紙の発行及び情報の発信といった活動を引き継いでいる。平成14年度からはNPO法人ねおすとの共催で、子どもの月例キャンプ「イエティくらぶ」を実施し、子どもたちの自然体験の拠点となる場の提供を始めている。
 
■「自然学校」と「ブナセンター」の役割分担
 町営博物館であるブナセンターと任意民間団体の運営である自然学校との役割分担については、ブナセンターが調査・プログラム開発を主に担当し、自然学校がそれを実施するという関係にある。
 センターには、平成5年のオープン以来の情報の蓄積があり、自然学校はその情報提供を受けて事業を具体化して実施するノウハウを持っている。センターは情報提供を行うかわりに、自然学校からの参加者の要望など現場からの声をフィードバックしてもらうことができる。
 
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4. 課題と今後の展望
■事業を継続していくための人材育成が課題
 「自然学校」は、自立できる存在であることが望ましい。設立当初から将来の法人化も視野にあったが、設立当初は、野外活動の指導者を黒松内という環境のなかでのびのびと育てるという人材育成事業のみで自立できる組織を考えていたが、現実的には、人材育成のみで自立することは難しく、人材育成に関係したさまざまな主催事業・受託事業を実施していかないと自立した運営はできないことがわかってきた。
 また大都市では、数多い市民団体やNPOのなかで、活動分野を特定分野に特化することにより、その存在をアピールできるが、小さな地域では特化した活動では自立した運営ができにくく、地域のネットワークも広がらない。
 今後は、自然案内人を養成するという人材育成をべースに置いた、さらなる事業の展開が課題である。
 
■継続的な事業展開と地元への還元を目指す
 自然学校は、これまで「自然環境」「体験教育」がキーワードであった。今後は、それに「地域産業体験教育」を加え、さらに人々が交流することにより、相互に影響を与えながら「自ら育つ」、相互交流学習を進める「交流拠点」と「交流のしくみ」を整備していくことを構想している。
 時代の要請に応じて、自然環境だけでなく、黒松内町の基幹産業である第1次産業との連携・協働を図りながら、自然豊かな農漁村地域をフィールドとして、次代を担う人材の育成を広く行っていこうというものである。その人材育成は、自然体験・地域産業体験活動、その企画実施、地域社会の生活体験をすることで、対人コミュニケーションなどの社会的スキルを高めることをねらいとしている。都市との交流のなかで、持続可能な地域社会の実現に貢献できる「地域人づくり」、その核になるキーマンを育てるための場とプログラムの提供が今後の役割となると考えている。
 自然学校は、さらに深く黒松内町に根を下ろすことになり、交流の内容も関わる人も、より多様になってくる。自然学校は、いわば地域のなかで触媒のような役割を担うことが期待されている。
 自立できる組織運営と地域への還元を、どのようにバランスよく考えていくかが、自然学校の課題である。そのなかで、運営協議会の形態については、法人化を選択肢に入れつつも、状況を考慮し、考えることになる思われる。
 
NPO法人「ねおす」
 ねおすは、平成4年に任意団体としてスタートし、平成11年4月にNPO法人格を取得している。「ねおす」は“Nature Experience Outdoor School”(自然体験学校)の頭文字をとって名づけられた。自然をキーワードに、「場」「プログラム」「指導者」を提供する活動を、北海道を拠点にして展開するNPO法人である。
 ミッションとして、子どもから大人までを対象に、自然活動、環境教育、野外教育等のプログラムの企画・運営など環境学習に関する事業を行い、人と自然、そして人と人との豊かな出会いをつくり、持続可能な地域社会の推進に寄与することを目的とする。
 特定非営利活動として、(1)環境保全を図る活動、(2)まちづくりの推進を図る活動、(3)社会教育の推進を図る活動、(4)子どもの健全育成を図る活動、その他事業として、(5)環境・自然に関わる学習プログラムの情報の収集と提供、(6)子どもや大人及び高齢者、障害者への野外自然活動の実施・提供、(7)これらに関わる人材の育成と新たな雇用の場の提供、(8)これらに関わる団体、個人の相互の情報交換や活動支援、(9)これらに関わる調査、研究が挙げられる。
 現在、黒松内ぶなの森自然学校と同様な関わりとして、川湯エコミュージアムセンター(北海道弟子屈町)、大雪山自然学校の設立企画(北海道東川町)、大杉谷自然学校(三重県宮川村)、登別ネイチャーセンター設立準備企画(北海道登別市)を支援している。







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