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事例2 静岡県
〜県と市町村の役割分担と支援施策の転換〜
1. これまでの取組み
 平成10年3月の「特定非営利活動促進法」の制定をうけ、静岡県では、「新世紀創造計画第2次実施計画」(平成11年2月策定)において、NPOを社会的役割を担う新たなパートナーと位置づけた。さらに、NPO推進室とNPO相談窓口を開設し執行体制を確立するとともに、「ふじのくにNPO推進委員会」を設置し、その提言を受けて平成12年2月に策定した「NPO活動に関する基本指針」の考え方をもとに支援施策を実施している。
 
NPO推進室とNPO相談窓口の開設
 本庁に、NPOを専門に担当する「NPO推進室」を設けるとともに、県内9か所の県行政センターに「NPO相談窓口」を設置した。相談窓口では、NPOの認証申請や活動について簡単な相談を受け付けている。
 
ふじのくにNPO推進委員会の設置
 NPO活動に関する基本指針を策定することを目的に、「ふじのくにNPO推進委員会」を平成10年6月に設置した。この委員会は、委員のみが審議を行うのではなく、だれでも自由に会議に参加し、意見が述べられる「公開参加方式」によって開催された。この「ふじのくにNPO推進委員会」は、「ふじのくにNPO懇話会」と名称を改め、現在も県内のNPO活動を健全に発展させることを目的に提言を行っている。
 
注)ふじのくにNPO懇話会
 構成メンバーはNPO有識者、NPO・ボランティア活動団体の代表者。年3〜4回公開会議形式で開催され、議事録はインターネットで閲覧できる。
 
 静岡県では、(1)自主性・自立性の尊重(支援の結果として行政への依存度を高めたり、活動に対する誘導や干渉とならない支援)、(2)間接性・側面性の尊重(補助金等を交付する直接的な助成ではなく、活動の環境づくりを主眼とする支援)、(2)柔軟性・段階制の尊重(NPOの発展段階に応じた柔軟な支援)、(3)有限性・時限性の尊重(NPOの成長を誘発するための呼び水としての役割を明確にし、有限的・時限的な支援)、という考え方に基づき支援を行うこととしており、具体的には次のような事業を行っている。
 
(1)情報の提供
 各NPOに対しタイムリーかつ適切な情報を提供し、市民の間のコミュニケーションを深めるため、(1)情報誌「パレット」の発行、(2)インターネットを活用した情報発信などに取り組んでいる。
 
(1)情報誌「パレット」の発行
 《しずおか県NPOネットワーク情報誌》というサブタイトルがついた情報誌で、年5回発行している。NPO活動に関する啓発記事、県内NPO団体の紹介、財務のアドバイスなど実務面の記事、イベントのお知らせなど、幅広い情報を提供している(本誌の編集・制作は県内NPO法人(12、13年はNPO法人しずおかエムエスオウ、14年はしずおか流域ネットワーク)に委託)。
 
(2)インターネットの活用
 ホームページを作成し、県内NPO団体の概要や県の支援施策情報等の発信を行っている(ホームページの作成は、NPO法人「ふじのみや電脳電拡クラブ」ほかに委託)。
 
(2)人材育成
 県では、NPO活動の裾野を広げ、継続的に安定して活動できるNPO団体を育てるため、NPOの活動に初めて関わる人向けからNPO団体の運営を行うリーダー養成まで、幅広い人材育成支援を実施している。
 
(1)市町村職員の研修
●NPO地域講座の開催
 NPOについて県民の理解を深めるための基礎的な内容の講座を県下74市町村で開催。運営は県内を東部、中部、西部に分け、それぞれをNPO法人に委託している。
 
●「出前講座」の実施
 県内には21市49町4村あるが、地域や市町村によってNPOへの理解度もさまざまである。その落差を埋めるために、NPO推進室職員が各市町村に出向く「出前講座」を行っている。県の指針や他の市町村の成功例などを紹介しながら、市町村担当職員の意識改革を図っている。
 
(2)NPO団体を対象とした事業
●「NPOマネジメント養成塾」
 NPOの多くはそれぞれの活動分野のノウハウは持っていても、会計や組織管理等の団体の運営ノウハウが弱いため、各団体の実務担当者を対象に、組織経営、資金の確保、事業の企画立案、会計、税務、行政・企業へのプレゼンテーション等についての専門講座を「マネジメント養成塾」として開催している。
 
●「マネジメントサポーター養成講座」
 定年等により退職した人が職務上身につけてきたさまざまなノウハウ(労務管理、経理等)をNPO活動において発揮してもらうために、企業退職者を対象にNPOに関する研修を実施し、修了者を「サポーター」として登録し、招請を希望するNPOに紹介する事業である。サポーターには生きがいをもたらし、NPO団体には実務面での支援を行うことを目的としている。
 
●「マネジメントアドバイザー」の派遣
 NPOの運営に不可欠なマネジメントについて相談があった場合、弁護士、会計士、税理士、社会保険労務士などの専門家を派遣するもので、現在、約150名の登録がある。
 
●「NPO市民大学院講座」
 「NPOマネジメント養成塾」の上級コースと位置づけられている人材養成講座である。
 NPOの豊富な実務経験を持つリーダー等を対象に、《講義17回/NPOの専門理論》+《演習6回/ゼミ形式のグループ討議》+《実習2回/現場実習》で、専門知識を身につける講座を開き、県内のNPO団体の組織力の向上を図っている。
 
(3)活動拠点の整備
 事務所を持たない小規模なNPOの活動拠点、NPO団体間の交流拠点、情報収集拠点のモデル施設として、平成11年7月に「ふじのくにNPO活動センター」(愛称:静岡パレット)を静岡市内に開設している。
 
2. 静岡県における協働
 静岡県ではNPOとの協働を、多様化し複雑化する社会サービスに柔軟に対応するために、資金、人材、情報など組織力に恵まれた企業や行政と、きめの細かいサービスを得意とするNPOが、それぞれの持ち味や利点を提供し合える関係を構築することと捉えている。「協働」を目指した取組み事例としては、(1)「安間川河川整備構想策定事業」(平成13年7月〜14年3月)と(2)「NPOアイディア活用協働推進事業」が挙げられる。
 
■「安間川河川整備構想策定事業」(平成13年7月〜14年3月)
 浜松市内を流れる安間川の河川整備基本計画の策定業務について、浜松市を活動拠点とするNPO法人「浜松NPOネットワークセンター」に委託。
 NPOのもつノウハウと機動性を活かし、住民参加によるワークショップ方式により検討を何度も重ね、市民ボランティアによる河川調査を実施するなど、従来にない手法を取り入れ、きめ細かい検討を行うことができたと県では評価している。
 
■NPOアイディア活用協働推進事業
 県内のNPO団体から事業提案やアイディアを募集し、NPO推進室で一括受理し、庁内の関係課を交えて検討をおこない、優れた提案については事業化を図っていく。なお、提出された提案や検討結果はすべて公開することとしている。
 平成13年度は27件の応募があり、そのうち「里山管理及び竹材の有効活用事業」「NPOマネジメントサポーター養成事業」の2件が事業化され、提出したNPOに委託された。平成14年度は44件の応募があった。
 
3. 課題と今後の展望
■協働を目指した事業展開を行う
 静岡県とNPOとの関係は、NPOの設立や運営を担う人材育成等の支援から、NPOとの協働への移行を模索している段階にある。
 今後は「NPOアイディア活用協働推進事業」をはじめとする協働を目的とした事業に重点を置く方向だが、13年度の同事業の実績を見ると、提案27件中2件しか事業化されておらず、必ずしも順調に動き出しているとは言えない。原因としては、(1)NPO団体側の企画提案力不足、(2)提案された事業の多くが市町村が行うべき事業であったこと、(3)県組織内部の意識改革の遅れが考えられるとのことである。県内のNPOが増加するなか、NPOの自主性・自立性という特徴を尊重しながら、団体の実力向上につながる施策をどのように展開していくのかという点と、NPOからの提案を活かすために職員の意識改革と組織体制の構築が課題となっている。
 
■県と市町村の役割分担を進める
 県と市町村の役割分担については、地域に根差したNPOに対する支援を市町村が主体的に行うように進め、県はあくまで市町村の後方支援を担っていくという方向性を持っており、現在のような幅の広い支援施策については、ある程度の期間が経過した後は、県と市町村との役割分担を明確にしつつ、見直しを行っていく考えである。一方、NPO団体の活動状況やNPO支援への取組み及び意識については、市町村によって差があることから、市町村の意識改革を図り、それぞれ地域の状況に応じた市町村独自の取組みを促進していく考えを持っている。
 
■企業との連携が課題
 県では、地域社会の課題の解決を図るためには、行政とNPOとの協働だけでなく、企業等の事業者とNPOとの連携の必要性も認識しており、特に事業者が所有する技術、資金、施設、人材等の提供によるNPO活動の支援について期待している。県は、企業とNPOの連携を促進するため、「NPOと企業とのパートナーシップセミナー」を実施し、NPOと企業等の出会いのきっかけをつくっており、事例としては少数であるが企業とNPOがタイアップして古紙再生品を共同開発する等の成果を上げており、NPOと企業との連携については今後とも促進させていく考えである。







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