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はしがき
 平成7年に起きた阪神・淡路大震災におけるボランティア・NPOの活躍、平成10年の「特定非営利活動促進法」の成立により、NPO等の多様な活動は、まちづくり、高齢者の生きがいづくり、地域環境、地域福祉等益々広がりを見せてきておりますが、その中でも、住民の多様なニーズにきめこまかく応える活動を行っているケースも増えてきており、NPO等に対する行政の期待も高くなっている。
 それぞれの問題意識に応じて活動テーマ、活動内容等を決定して活動するNPOには様々なものがあり、地域によって活動状況も異なっているため、地方公共団体と一様に関わりを持つものではないが、社会環境の変化の中で、NPOは社会において重要な役割を担っていくものと考えられることから、各地方公共団体においても、各種のNPO支援策を講じている。
 しかし、各地方公共団体において、具体的にNPO等とどのように関わっていくべきか、現在、試行錯誤しながら模索しているのが現状である。このため、先進的な地方公共団体を対象にNPO施策の調査を行い、その成果を本書として取りまとめた。NPO等と行政との協働について、できるだけ具体的な事例に則って紹介したいとの考え方のもとに、先進的な地方公共団体の事例紹介に多くを割いている。
 NPO等とのパートナーシップについて、既に取り組んでいる地方公共団体のみならず、今後の課題とされている地方公共団体においても、本書を参考にし、NPO施策に対して、積極的な取組がなされれば幸いである。
 また、調査研究を進めるにあたり、調査に多大なるご協力をいただいた関係団体の皆様に心から御礼を申し上げる。
 なお、本調査研究は、競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて実施したものであり、ここに深く謝意を表する次第である。
 
平成15年3月
 
財団法人自治総合センター
理事長 松本英昭
 
1 地方公共団体とNPOとの協働事業のあり方について
I. 協働事業のあり方
(1)NPOに限定せず、ボランティア等を含め広く市民の自発的な公益活動を捉える。
・公益活動を行う団体はNPO法人に限られるものではなく、自治会(例えば、環境美化活動)、同好会(例えば、福祉施設の慰問等)等も多くの活動をしている。組織に着目するのではなく、住民自治という観点から、市民一人ひとりの自発的な公益活動に着目し、その促進に努めるべきであろう。このため、公益法人、NPO法人、自治会、任意の団体を含めた各種団体を通じた活動はもとより、ボランティアを通じた個人の参加も含めて、広く市民公益活動と捉え、広範な協働を目指すべきである。
 
・イベントを通じてNPO等の間の連携を図ったり、一般市民の参加を募ることも有効である。参加の形態として、最近ではアドプトプログラムなども広く行われるようになってきている。また、参加しやすいテーマとしては公共施設の整備やまちづくり、環境美化活動等身近なものが望ましいであろう。
 
(2)
はじめに支援ありきではない。目的としての「支援」ではなく、手段としての「支援」を。何を目的として支援を行うかを明確にする。
・NPO施策に関する指針や支援条例の整備を行ったものの、具体的な協働事業の実施等にいたっていない地方公共団体も多く、指針や条例の目的が達成されていない状況がある。
 
・具体的な協働事業を通じた関係の構築や課題の発見を行い、その中で支援策を探っていくことが必要である。公益活動ならば、前述の様々なNPOや営利企業も行っている。NPO支援という前提をもとに検討を進めていくと、何故、NPOだけ支援することとなるのか、という壁に直面してしまう。行政にとっては住民ニーズの充足が目的であり、NPOとの協働はあくまでも手段である、ということを念頭に置いておく必要がある。
 
(3)NPOとの協働は市町村中心に。市町村と県の役割分担の明確化が必要。
・NPOの活動実態を見ると、(1)同一市町村内を活動範囲とし、(2)身近な生活課題の解決を目的として地域で活動する団体が多く見受けられる。NPOとの協働を進めるにあたっては、住民に近く、かつ生活に密接に関連した事務を行う市町村が主体になるべきである。このため、現在、NPO施策は都道府県中心として行われているが、市町村との役割分担を検討し、市町村を中心とした支援体制を構築していくことが必要である。
 
・都道府県に期待される役割としては、(1)高度な人材育成、(2)情報の収集、提供などである。このうち、NPOに関する情報の収集、提供については、ITの活用が期待される分野である。既に、先進的な地方公共団体においては、インターネットを活用した効果のある情報収集・提供システムを構築しているところもあるが、さらにネットワーク化を通じて、市町村や他の団体との連携も大いに期待できるところである。
 
・NPO施策について、都道府県、市町村とも様々な取組みがなされているが、都道府県と市町村との連携がほとんど検討されていないのが現状である。このため、まず、両者が話し合いの場を設ける等により、役割分担を図っていくことが必要である。
 
(4)まず、管内のNPO等の現状を把握することが第一歩である。
・管内で活動するNPOの存在を知らない、活動状況を把握していない、という地方公共団体も多い。しかし、そういう中にあっても、庁内の様々な部局が、従前から行っている事業においてNPO等と接触している場合も多い。まず、NPO施策の第一歩として、管内のNPO等の実態をアンケート調査し、どんな団体がどのような活動を行っているのかを把握することが必要である。
 
・最初に、各部局が独自に関係を持っている各種団体の情報の集約を行ってみる。それから、自治会、同好会等様々な組織を対象に広範に調査を行ってみることが必要である。すべての団体で公益活動を行っているわけではないが、多くの団体で公益活動がなされている可能性がある。また、アンケート調査対象から漏れる団体も出てくるが、NPO間の独自のネットワークを通じて、行政と団体との間で接触をとることも可能であるので、定期的に調査を実施していくのが適当であろう。
 
(5)総合的な「窓口」を設置し、対応を一元化する。
・NPO等と行政との接点は支援策に限ったものではない。そもそもNPO等の活動内容の多くは身近な生活課題であることが多く、様々な場面でNPO等と行政との接点はありうる。しかし、NPO等から行政に相談等を持ちかけようとしても、どこに話を持ちかけたらよいか分からない場合が多い。このため、市民活動を対象とした統一的な窓口を設置することが必要である。
 
(6)市民活動支援に関する既存の組織を統合・一元化する。
・多くの自治体では、市民活動の分野でも、福祉分野(社会福祉協議会)、生涯学習分野(生涯学習センター)等の行政組織の縦割りに市民活動支援組織がつくられている場合が多く見られる。しかし、市民活動を行う住民、またこれらを利用する住民にとっては、そもそも縦割りの発想はなく、支援組織については、できるだけ組織の統合を行うことによってはじめて市民本位でかつ効率的な運営が可能となる。
 
・特に、社会福祉協議会のボランティアセンターとNPOサポートセンターとは、業務内容等について類似する点もあり、統合・一元化を検討することも必要であろう。
 
(7)NPOについて理解する。
・地方公共団体の中には、どのようなNPOと連携を図っていくべきか悩んでいる団体も多い。行政と同様に様々な分野に全般的に取り組んでいる団体や中立的な立場で活動できる団体の存在を模索している地方公共団体も多い。しかしながら、NPOは自らの問題認識に基づいて活動しており、必ずしも行政と同じ方向を目指しているわけではなく、また、住民を代表しているものでもない。このため、NPOと接するにあたっては、NPOは行政と問題認識や活動原理が異なっていることを理解し、接していくことが必要である。したがって、NPOに対して、行政の考え方をきちんと伝えるとともに、できないことは「できない」と説明していくことも必要である。
 
・NPO等は、同じ関心や目的を持つ人たちの組織であり、必ずしも住民を代表しているわけではない。各種審議会等にNPOを参加させているケースも多いが、形式的な住民参加のために参加を求めることは行うべきではない。しかしNPO等は行政よりも、より課題に近いところで活動しているケースが多く、行政にはない着眼点を持っていることもある。各種審議会等に参加を求めるのであれば、NPO等の持つどのようなノウハウや能力を活用しようとしているのか検討し、明確にしたうえで参加を求めるべきである。
 
・NPO等にとって行政制度についての理解不足(行政の仕事は年度の予算を通じて行われ、年度毎にその成果を求められることや、毎年の予算編成の時期は決まっており、その時期を逃すと事業を行うことができないこと等)が、NPO等と行政との意思疎通を図るうえで障害となっているケースも見うけられる。NPO等は、行政との協働を考えるにあたっては、(1)「NPO自身は何をするのか」という自らの役割を明確にし、(2)行政に対しては「何をして欲しいのか?」ということを具体的に提案しなければ、行政が提案を活かしていくことは難しい。このような弊害を除くためには、行政が適切にアドバイスしていくということも必要であろうし、行政の仕組みに通じている地方公共団体の職員等がNPO等に参加する、ということも有効な方策と考えられる。
 
・すべての部局において行政とNPO等との協働事業を行っているわけではない。また、NPO等との関係の持ち方がよく分からないという職員のほうがむしろ多いと考えられる。このため、現在、多くの地方公共団体の職員研修でNPO講座等を設けられるようになってはきているが、一般的な内容の講座では効果は薄く、むしろ実際のNPO等とのやり取りを通じての成功例、失敗例を取りまとめた事例集を作成し、職員研修等で活用することが有効であろう。
 
(8)性急に成果を求めない。
・NPO等との協働事業には時間を必要とするものである。そのため、性急な成果を求めないことが必要である。具体的な取組みの中から課題を発見・解決し、施策の充実に結びつけていくということが必要である。







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