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終末期ケアの看護師の役割
2003年1月24日(金)
(前)日本看護協会
看護教育・研修センター
中山 康子
 
1. 緩和ケアの定義(WHOの定義)
 “緩和ケア(Palliative care)とは、治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者に対して行われる積極的で全体的なケアであり、痛みのコントロール、痛み以外の諸症状のコントロール、心理・社会的・スピリチュアルな問題の解決を重要課題とする。Palliative careの目標は患者とその家族にとって可能な限り良好なQOLの実現におく
 
2. 『生』と『死』に対する医療者の姿勢(WHO緩和ケアの定義より抜粋);
 生きることを尊重し、誰にも例外なく訪れることとして死に逝く過程にも敬意を払う。死を早めることにも死を遅らせることにも手を貸さない。死が訪れるまで患者が積極的に生きていけるよう支援する体制をとる。
 
3. ターミナルケアに必要な要素
 病状の末期にいる患者とその患者を支える家族の身体的、心理的、社会的、スピリチュアルなニーズに対し、チームで対応する支援体制が必要とされる。
(1)疼痛及びその他の諸症状のマネジメント
(2)その人らしさを尊重した日常生活の援助(生活の質の維持)
○ターミナル期では身体的ニーズの中でADL、経口摂取量などが低下する。これは生命エネルギーが低下する過程で起こる自然なこと。口から食べたいものを食べたい量だけ食べたい時に食べる。
○バージニア・ヘンダーソンの『看護の基本となるもの』の14の基本ニーズをみ直そう!
例:排泄の支援が患者の延命につながり、望ましい姿勢を維持できるよう技術を提供することが看護に与えられた役割。この基本的なニーズの充足の支援を通して看護者は患者の『生』を最後まで支える。たとえ臨終真近でもマウスケア・安楽な体位の保持など私たち看護職には患者に(家族に)提供できるケアがある。
○援助者が変わっても同じ手順で日常ケアを提供できるように工夫する。快の追及。
(3)患者の意思の尊重
(4)チームアプローチ
○患者・家族の意思を尊重してチーム内でケア方針を統一すること。
(5)コミュニケーション
○患者 家族 医療従事者 この3者が充分なコミュニケーションを通して信頼関係を築くことが大切。安心できるチームに支えられていると患者・家族が感じること。
(6)家族のケア
 
§ バージニア・ヘンダーソン
 看護者の役割は、患者が健康を維持するため、または患者が病気から回復するため、あるいは安らかな死を迎えるために人間にとって欠かせない活動を患者を補助して行いやすくすることである。
(1)患者の呼吸を助ける。
(2)患者の飲食を助ける。
(3)患者の排泄を助ける。
(4)歩行時および座位、臥位に際して患者が望ましい姿勢を保持するよう援助する。
また、患者がひとつの体位から他の体位へと身体を動かすのを助ける。
(5)患者の休息と睡眠を助ける。
(6)患者が衣服を選択し、脱いだり着たりするのを援助する。
(7)患者が体温を正常範囲内に保つよう援助する。
(8)患者が身体を清潔に保ち、身だしなみを良く、また皮膚を保護するよう援助する。
(9)患者が環境の危険を避けるように援助する。
(10)患者が他人に意思伝達が出来、自分の欲求や気持ちを表現できるように援助する。
(11)患者が自分の宗教に基づいた生活が出来、自分の善悪の概念に従えるように援助する。
(12)患者の仕事あるいは生産的職業を助ける。
(13)患者のリクレーション活動を援助する。
(14)患者の学習を助ける。
 
 人は体力、意志の力、知識があれば自らこのような活動を行っている。
 
4. いかにコミュニケーションをスムーズにとるか
○患者のコミュニケーション能力をアセスメントする
 聴力・視力・文字の読解力・医学的知識・自己を表現する能力・家族内のコミュニケーションパターンなど
○患者のベッドサイドで患者・家族と看護計画を立てる
○コミュニケーション技術
・絞り込んだ質間をする
 「今、一番心配なことは何ですか?」「自宅に戻られて今、一番気になっておられることは何でしょうか」
 絞り込んだ質問をすることで、患者は何が一番気になっていたかナースに話す中で自分の気持ちに気づくようになる。
・会話を促す
 うなずく、合いの手を入れる、「それで」「ええ」
・はっきりさせていく
 患者が曖昧なままの考えや思いつきを言葉に出きるように手助けする。「あなたのおっしゃりたいことが今一つ私にはまだわからないのですが、もう少し○○の部分をお話し頂けませんか」「それでどうなりましたか?」
・情報を提供する(医師など他の専門職との共同作業)
 医師の病状説明後に患者がどのように理解しているか確認し、患者の理解を促したり、患者が間違って理解したことを正す。患者が必要としている情報を提供する。(患者が自分のぺースで最終的に真実を理解できるように導いていく。患者の言う言葉に耳を傾け、どんなことを知りたいのか掴む努力をする。「最近のお身体の調子をどう感じておられる?」自由回答式の質問が良い)
・IF節の利用
・要約をする
 それまで話し合ってきた内容の要点をはっきりさせる効果がある。振り返りと今後の方向性を考えられるようになる。「今日は、〜について考えてみましたね。」
・沈黙する 間を置き、患者がじっくり考えられるようにする。
・スキンシップ Body Language
・患者の感情に手当てをする。
 「食べられないし、足も動きにくい・・・。」
 「うん、思ったように食べられないし、足も動きにくくて・・・辛いね・・・。」
・希望 たとえささやかなものであっても希望につながる事を提示する。
 
<患者の次のような問いかけにどのように対応するか>
・「私は少しも良くなっていない。そうでしょう?」患者の問いかけを真剣に受け止めて、患者が何を求めているのかをわかろうと努力すること。どんな問題も逃げ出さないで、関わっていこうとする姿勢。
・「あとどの位?」
 なぜ、患者は私にこの問いかけをしてきたのか?何を求めているのか?生存期間を教えて欲しいと言っているのではないかも。臨死時の不安、やりたいことがあるのか?その人と会話を続け、この問いかけをしてきた気持ちを看護職は理解して対応していく。
・真の病名を知らせていない患者が病名に関して問いかけて来たとき
 「がんではないかと考えておられるのですね。もう少し今、病気について考えておられることをお話くださいませんか?」
 すぐに病名を答えるかどうかを考えるより、患者の病気に対する考え(疑いの内容)を理解してから対応する
 
<患者のためにならないこと>
・救ってあげるという感情
 患者の為に自分がいなければならないと感じてしまうこと
・誤った元気付け
 「がんばって」「大丈夫よ」「くよくよしないで」
※真の支援は、事実に基づくものでなければならない。例えば、痛みが出たら何をしたら良いか具体的な情報を与えて、その人の場合はどのような対処をするか話し合うほうが良い。
・助言の仕方
 患者の選択の場が狭まらないように助言して本人自身に考えてもらえるようにすること。指示をするのではない。
・看護者側に不安があり、話題を変えること。
・看護者の価値観で物事の判定をしないこと
 「〜したほうがよい」という言葉は注意して使う
 
5. ターミナルケアにおける家族の支援
【家族ケアの目標】
 辛いことではあるが、患者の死を家族員ひとりひとりが受け取れるように支援する。
 患者の死が家族に与える影響は、患者の年齢、家族内でしめる患者の位置、関係性によって様々。
 家族が患者と望むかかわりを持ち、理解しながらそのプロセスを歩むこと、また家族の悲しみの感情を充分表現できるように支援する。
 家族が患者のケアを通して自分の人生を肯定的に思えるように支えていく。
 
<家族の抱える課題>
予期悲嘆
延命を望む気持ちと、苦しみを早く楽にしてあげたいと思う葛藤
病名を伝えるかどうか
介護疲れ
経済的問題
病状に対する医療者の説明不足による不安
患者の死を受け入れたくない
などケースによって様々。
 
患者の全体像のアセスメントと同様に家族アセスメントを通して家族を(看護者として)理解し、がんによって変化した(発生した)家族の抱える課題に対してケアを提供していく。
☆課題を乗り越えていくのは家族。そこを支援する。
 
(拡大画面:29KB)
図3−1 カルガリー家族アセスメントモデルのカテゴリー構成
 
6. 死別後の悲しみを乗り越えるためには
 悲嘆:死がもたらす喪失を基にした深い心の苦しみの感覚
 悲嘆のプロセスは当然の人間の反応「親がなくなるときは過去を失い、配偶者がなくなるときは現在を失い、子供がなくなるときは未来を失う」という言葉がある。
 
 死別による心理的な危機をどのように乗り越えられるか・・・その後の生活の仕方や適切な支援者、社会的な支援があるかどうかで左右される。
<遺族支援のポイント>
・気持ちを充分出せるように感情表出を促すような関わりが必要。
・看護職としては、新しい生活がうまく出来ているかどうかを尋ねたりする。(食事はどうか、夜は眠れているかなど)
<スタッフの喪失体験>
・デスケースカンファレンスやスタッフ同士で気持ちを表現しあう
 
7. 私たち看護職が自分自身と看護を大切に!







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