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■代表者に訊く
嶋田 聡さん
●フリースクール玄海代表
 
●団体の特徴
 フリースクール玄海では、ひきこもり、不登校の子どもを大きく分けて次の3つからなるととらえています。1.親、特に母親に対する依存心が強いこと。2.自己中心的な考え方。3.こうあるべきだという観念的な一面。
 「玄海」では、それらを改善できるような方策をごくシンプルに実践しています。まず、母親のもとから離してしまうこと。日本の家庭では父親の存在が希薄です。子ども達に何か問題が起きても母親任せになってしまいます。すると、どうしても母親の方に子供が依存しがちになってしまいます。お互いを見つめなおすためにも、一度家を離れてみることは非常に効果的です。
 次に集団の中で個を作っていくこと。自己中心的に自分の幸せだけを求めていたのでは、社会性を身に付けることはできません。他人のことを考えられるようになってこそ真の自立を獲得できると考えています。ですから、ある程度規則のある集団生活に身を置くことは重要です。
 そして、頭の中で物事を進めるのではなく、実際に体を動かしてみること。不登校やひきこもりの彼らには、往々にして「こうあるべきだ」という真面目で完璧主義的な面があります。「こうなったらこうなる」という思い込みが激しい。ですから、実際に体験して自分の身の丈を感じていくことが必要です。
 全国には様々な考えのフリースクールがありますが、「玄海」では学校というものを否定していません。学校というのは、その社会を反映するものだと思います。学校は生徒を社会に出すための鋳型です。そこでやっていけないのなら、主体性のないまま社会に出てもやっていけるわけがありません。彼らには社会性を身に付ける場が必要なのです。
 「玄海」の平日のカリキュラムは授業を中心に進められますが、ここではカリキュラムに徳育や坐禅などを取り入れています。日常生活の中でも儒教の思想を参考にしているもの(下坐業や写経)もあります。社会に出て行くためには真の自立が必要です。自分の幸せのためだけではなく、他人のために何ができるだろうと考えることが出来る、それが自立ということなのではないでしょうか。儒教、儒学の思想は、自己中心的な考え方から、広い意味で他人を思いやれるようになる、そんな自立の手助けになると私達は考えています。
 また、定期的に合宿をしたり、土日を中心に様々なイベントも組みながら、実際の体験から彼らが学んでいけるような環境作りを心がけています。
●卒設の基準
 人の心配ができるようになったり、自分の枠を持てるようになったとき。友達が出来る出来ないとか、親の意志などによっても変わってきますが、だいたい一年をめどにしています。
●年代別目標
 [10代]依存心を取る。自己中心から他者のためへ。頭ガチガチのタイプから実践型へ。
●施設における自立の定義
 先ほど述べたとおり、自分の幸せのためだけではなく、他人のために何ができるだろうと考えることが出来ることです。
●在籍生の就職状況とその支援体制
 主に大検などの機会を与えて大学へという形にしています。就職は少し厳しいのではないでしょうか。就職は縦の関係ですので、いきなりそれを彼らに要求するのは難しいと思います。まずは大学や専門学校などへ進学し、大人(自立)への猶予期間を持った方が良いのではないかと思います。
●在籍生のアルバイトの可否・その状況と支援体制
 アルバイトはその子の状況や理由で判断しています。自分のために働くとか、理由に意味がない場合には許可していません。
●作業(有償/無償)の有無・その内容と状況
 有償の作業は行っていません。無償作業では、施設でのボランティアをしています。
●教科学習の必要性とサポート体制
 午前中に2時間、週10時間の教科学習の時間を設けています。教科は英数国以外にも社会や理科、美術、書道、体育など非常勤講師の方々に来ていただいて行っています。レベルは分けていますが、あくまでも基礎程度の学力を身に付けるというスタイルです。大検を目指すという目標もありますが、必ずしも受けなくてはならないということではありません。
●在籍生の心理的サポート体制
 24時間体制です。人間と人間とのことなので、スタッフはいつでも真剣勝負です。真剣勝負だからこそトラブルもありますが、そのようなときは別のスタッフがタイミングを見て寮からドライブなどへ連れ出し、話し合うようにしています。ドライブ中の、互いに横に並んで話すということが彼らには良いようです。それ以外でも個別カウンセリングをしたり、スタッフと一対一の状況というものを作るようにしています。
●外部医療機関との連携
 精神病院との連携はとっていますが、限定はしていません。風通しを良くするためにも複数の病院と連携を取るようにしています。
●在籍生の保護者へのサポート体制
 子供に変わってもらう前に親に変わってもらおうというのが、ここの方針の一つで、月に1度第4日曜日に父母学習会を開いています。また、定期的に母親の会も開いています。父親へのアプローチを重点的に取り組んでいますが、なかなかうまくいかないのが現状です。
 
◆スタッフに訊く・・・1
児島 哲さん
●58歳 男性 正規スタッフ 勤続年数4年
●施設と関わるようになった理由
 代表(嶋田さん)と予備校勤務時代に知り合って、前任の職場を退職した際にタイミングよく電話をいただいたのがきっかけです。共同経営者というよりも共同援助者のようなものです。
●施設について
 もとは専門学校の校舎だったんですけど、好意でその施設を提供してもらっています。はじめは福岡市内の知心学舎で学んで、現在は自分たち風にアレンジしています。
●在籍生の変化に気づくとき
 行事やイベントごとに変わっていくことが多いです。例えば、父母学習会で久々に親に会ったり、休みに家に帰った後などです。カリキュラムにただ参加するのではなく、必要性や目的意識を持ちはじめたら、変わったなと感じます。
●在籍生との関わりで注意している点
 出来ない子を楽しく参加させることです。
 出来る子だけが注目を浴びて楽しむのではなく、出来ない子も楽しめるように色々工夫をしています。人間関係もありますが、うまく混ぜることです。後は、それぞれが好き勝手しないように注意しています。また、和気藹々と楽しむのだけれども、挨拶をきちんとしたり、節度をわきまえることを心がけています。
●ここで働いて喜びを感じるとき
 子供たちが素直な自分を出してくれたときです。
●辛いと感じるとき
 本人との意思疎通がうまくいかない、何を言いたいのか理解できないときですね。そして自分が全く逆の指示や対応をしてしまったときは辛いと感じます。
●施設での自分のポジション(役割)
 代表が経営や展望の部分を担当されているので、自分はそれが現実になるように支えていくことが役割だと考えています。言ってみれば女房役というところです。
●施設の今後について
 ここを基盤にしてもっと違う形(発展した形)の学校を作りたいと思っています。ログハウスとかを建築したりですね。
●代表・その他のスタッフについて
 代表はこうと決めたら引かない方です。24時間ここのことを考えていて、瞬間的に取り入れるタイプだと思います。思いついたことがあれば真夜中でも電話してこられますね。子供のためにはお金も惜しまないし、どんどん先取りをしていきます。頑固親父的タイプですね。(もう一人のスタッフ)大嶋君は真面目です。素直なお兄さんといった感じです。僕はもう兄貴というよりおじいさんになってしまっていますね(笑)。
 
★在籍生に訊く・・・1
●16歳 男性 在籍1ヶ月
 
●入寮する以前の状態と入寮のきっかけ
 ひきこもっていました。家にいたら先生達が訪問してきてくれました。
●入寮当時の施設の印象
 家にいるよりも楽でした。家族といるより騒がしくなかったから。
●現在施設で行っていること(作業・通学・勉強など)
 授業と普段のカリキュラムの他にギターを習っています。卓球にもはまっています。あとはボクシングを習いたいと思っているので、今は筋トレをがんばっています。
●施設で楽しいこと
 気楽なことです。
●施設で辛いこと
 暇なことです。特に土日の休み。
●入寮後自分の中で変化したこと
 寝るのが早くなりました。きついけど、生活のリズムが良くなりました。
●今の目標
 ここを卒業して家に戻ることです。
●将来について
 一人暮らしをしたいです。あまり家族とうまくいっていないので。
●現在の施設の印象
 集団生活は、他の人に気遣いをしていかなくてはならないので大変です。
●他の在籍生との関係
 集団生活なので、何か迷惑をかけていないかどうか気になります。最近は仲良くなってきました。
●親との関係
 あまり仲良くはないです。
●代表・スタッフの方との関係
 嶋田先生は怖くて優しい人です。児島先生は真面目な先生っていう感じがします。







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