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NPO法人 新潟青少年自立援助センター
ニイガタセイショウネンジリツエンジョセンター
 
代表者名●若月 正勝[ワカツキ マサカツ]
所在地●〒949−3732 新潟県柏崎市北条2095−1
電話番号●0257−31−5010 FAX番号●0257−31−5011
URL●http://www.ab.aeonnet.ne.jp/%7Eyscn/ E−mail●yscn@aeonnet.ne.jp
 
経営するスーパーで就業体験
YSC全面バックアップが強み
●報告―小川 誠[寄宿生活塾 五色塾代表]
 
 YSCN(新潟青少年自立援助センター)の代表若月正勝さんは面白い。氏は2年前まで柏崎を中心に17店舗を持つスーパーの経営者だった。しかし5年前に妹さんの息子がひきこもりになったのがきっかけで、ひきこもりに興味を持つようになっていった。その息子さんと二人だけで山小屋を建てたこともある。そんな彼は大手スーパーの進出がきっかけでスーパー経営を止めようと決意し、その加工・配送センターをどのように処分しようかと考えあぐねていた矢先、YSC(NPO法人青少年自立援助センター)の工藤定次さんに出会った。そして、その話を聞いた工藤さんは、若月さんに新潟版のYSCを設立するよう働きかけた。以後、話はトントン拍子に進んで、昨年(2001年)の8月にはYSCN発足という展開を見たというわけだ。二人の出会いには何か運命的なものすら感じる。
 
建物全景・・・元々はスーパーの配送センター。今では2階の大部分を宿泊施設として転用しています。1階に加工工場や倉庫があります。いつでもトラックが2、3台止まっています。
 
周辺景色・・・のどかな田園風景が続く田舎。宿舎からは田んぼと緑の丘陵が続いているのが見渡せます。
 
寮生の個室・・・基本的には個室制。相部屋もあります。規則違反をしたときは罰として相部屋に移されるそうです。
 
 YSCNの強みは自前のスーパーに食品加工センターがあって、そこに幾つかの就業体験の場が用意されていることだ。ひきこもりに対する世間の理解はまだまだ低いので、一般企業などではまず就業体験などはさせてもらえない。ここYSCNでは肉加工、魚加工、惣菜作り、野菜や食品の梱包や配送、それに加えて、配送事務、さらには実際にトラックでの配送など数種類の就業体験が可能だ。寮生の経済的自立の訓練の場としてはまたとない恵まれた環境だ。加えて、農業体験や近隣の豊かな自然の中での自然体験や生活体験もできる。また、加工センターの2階は事務所となっていたが、事務所スペースも大半は寮生の宿泊施設に変身。現在スーパーは5店まで減らした。スタッフもYSCから1人雇用し受け入れ準備は完了した。こうして若月さんの最大の懸案であった加工センターの処分問題は全く新しい事業を始めることで発展的に解決した。
 若月さんは現在でも月に一度はYSCに赴いて研鑽を重ね、家庭訪問に同行したり経営のノウハウや寮生の指導法を学んだりしてセンターの実質的向上に余念がない。若月さんのチャレンジ精神とYSCの全面的なバックアップがYSCNの第二の強みである。YSCNを発足して若月さんが発見したことの一つは、スーパーの加工工場の従業員は寮生を指導する立派なスタッフだったということだ。つまり、寮生たちを指導、教育するために特別な教育や訓練を受けていなくても、自分の仕事に経験と自信、そして熱意を持って誠実に取り組んできた従業員はちゃんと子供たちの就業体験を指導できるのだ。子供の社会的な自立には実際に社会で自立して現場で仕事に携わっている人に直接指導してもらうのが一番良いという事例ではないかと思った。
 
食堂・休憩所・・・この部屋の隣が惣菜の加工工場。地元のおばさん(指導員)が寮生の指導をし3食の食事を作る。
 
魚製品加工工場・・・従業員3名と寮生3名が作業にあたっていた。見ていると簡単そうだが、寮生は苦戦していました。
 
配送仕分け場・・・てっきり従業員だと思ったら一人は通いの生徒だと知らされてビックリ。仕事人の物腰でした。
 
お惣菜加工工場・・・前日に寮生とスタッフが採って来た山菜のパック詰めと大根のサブ加工をやっていました。
 
肉加工工場・・・ここにはまだ寮生が作業プログラムとしては入っていませんでした。
 
ボランティアのおじさん・・・農作業の手伝いをしてくれています。少しずつ地域に密着していっているようです。
 
 調査員の最初で最大の問いはスーパーの経営者に不登校やひきこもりの面倒が見られるのかという素朴な疑問だった。あれこれお話を伺っていて分かったのは、スーパーの経営で発揮された様々な能力、それは単に損得の計算だけではなく、人を見る目や人心を掴む力など人間的な諸能力が新しい仕事に十分生かされているようだという点だ。そして若月さんが今まで趣味でやってきた様々な体験や、若月さんの人生経験そのものがYSCNに集約されて生かされているらしいということだ。これが私の感じた答えらしきものだ。YSCNはその意味で若月さんの人生の集大成になるのかもしれないと思った。
 ところでひきこもりの子供たちは総じておとなしい。だから食事時も概して静かだ。でも、性格は素直で、仕事は真面目に最後まできちんとやる。良い面がたくさんあるとスーパー部門の長は感心している。
 この子たちがYSCNに慣れて仕事に自信がついてきたら、きっとまだ重い口も軽くなり、これから入ってくる後輩にも自信を持って接することができるようになることを望みたい。食事時の会話ももっとにぎやかになることだろう。
 ただ、それまでの間、つまりスタッフも寮生も全員が新人であるここ1、2年の間は、特にひきこもりだった寮生同士は互いに普通の人よりもずっと強く意識したり、不必要なまでに遠慮しあってしまいがちではないかと思う。その分、気が休まらないのではないかと気がかりだ。だから、どうやって寮生の心から安心できる雰囲気やリラックスできる環境を作るか、それが発足一年足らずのYSCNの「心のケア」の面での課題ではないかと思った。例えばそのために明るく元気で誰にも気軽に言葉をかけることができる女性スタッフがいたら、その場の雰囲気もずいぶん和らぐのではないかと思った。[調査日―2002.05]







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