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■代表者に訊く
佐々木 豊志さん
●くりこま高原自然学校代表
 
●団体の特徴
 野外教育を学んだ代表が1996年に私費を投じて開校。青少年の健全な育成の場である自然体験活動と広く一般にアウトドアレジャーレクリエーションの充実を支援することを大きな目的として始められた。その後、東北という地域にこだわり、地域社会や自然環境を意識したプログラムを発掘し四季を通じて多彩な活動を行っている。今では教育をはじめ福祉や観光、農山村地域の農林振興、産業振興や地域づくりなどの分野など地域のあらゆる所からの声もかかり、積極的に活動に加わっている。近年はくりこま高原の生活環境を生かし、スタッフや寄宿生と共に『生活を創る』という行為の中から多くのことを学んでいる。今後も自然と共存し、より豊かな生活を創造することを実践しながら、スタッフや子どもと共に創造的に生き抜く力と知恵を培いつつ「自然学校」の社会的な役割を構築して行く。
 その一つの役割として、青少年育成を支援する「山村留学制度」と「不登校・引きこもりのための寄宿制度」を運営している。子どもたちとのかかわり方の基本は、体験学習法を踏まえた生活体験や自然体験を提供し支援して行くことであり、一過性の活動とは大きくことなり、生活を共にする仲間との関わりと様々な活動体験から感じ、学ぶことを大切にしている。
【指導の特徴】
 社会と自己を取り巻く仲間と環境が豊かになるために、創造的に関わる人間になることを目指している。
 冒険的体験では、自然に入り込んで非日常的な活動を行う。少しハードな環境の中でちょっとハードルが高い課題を仲間と共にトライしてみる。失敗もあり、トラブルもあり。こんな体験の中から、自分自身を振り返り、仲間を見直し、自分が出来ることを見つけ一歩踏み出す。
 生活体験的活動では、共に生活しながら毎日の課題を解決していくことは、時に単調になりますが、行動や意見の対立、行き違いから多くの学びを発見できます。共同生活を通じ、些細な心のプロセスもお互いで理解し合おうと考えているため、生活の中から生まれた失敗やトラブルをみんなで受け止め、解決するようにしています。
 体験学習法と教育的手法をベースにして、自然環境を生かした「野外教育」「冒険教育」と生活環境を生かした「生活創造」「食農教育」など実体験からの学びを大切にしている。
 不登校・引きこもり(寄宿生)の場合でも、あくまでも教育の範疇で対応しています。面接で本人の状況と課題を確認し、病気ではないと判断した場合で、本人の意思で入所を希望された方のみ受け入れます。今までには精神医療機関に相談された方で入所した方もいます。必要以上に病気であるという診断と薬に依存した状態を、病気としては扱いません。あくまでも教育の手法と自己成長の力によって課題を解決して行きます。
 教育の範疇か、精神医療の範疇で対応すべきなのか、判断は難しいところですが、「くりこま高原自然学校」は病院ではありません。共通体験をしたもの同士が分かち合える体験学習法という学び方を通して関わっています。
●卒設の基準
 すべて本人次策です。帰りたいといえばすぐに帰します。ただし、二度目に戻ってくるときは条件をつけて少しでも変わるようにお膳立てをします。ここに来る子どもは親との関係に行き詰まった子がほとんどです。しかし、ここを彼らにの逃げ場にしたくはないんです。何か自分の目標を見つけるきっかけ作りの場として使ってほしいです。
●年代別目標
 年代別の目標はありませんが、自発的に物を考え、自分から一歩を踏み出すということに気付いてほしいです。熱中する、熱くなる、そういう態度が育ってほしいです。つまり、クリエイティブな生き方ができるようになってほしいということです。
●施設における自立の定義
 自分の目標があって、それに向かって努力ができるようになったらここを出ていいと考えています。自立云々という見方とは違い、行動できるようになったかどうかを見極めのポイントに置いています。
●在籍生の就職状況とその支援体制
 中学生は今まで全員高校に進学しました。引きこもりだった子が就職したかどうかはちょっと分かりません。
●在籍生のアルバイトの可否・その状況と支援体制
 アルバイトは一切やらせていません。
●作業(有償/無償)の有無・その内容と状況
 自然学校の様々な活動にスタッフと一緒に関わることを勧めています。すべてボランティアとして関わることになっています。ただし、おいしい所取りは認めていません。
●教科学習の必要性とサポート体制
 通学生の場合は、毎晩学習の時間を自主的に設定しています。試験期間の1週間前からは個別に学習できる空間を確保したり、職員やスタッフが学習指導したり、学習環境を整備しています。時には個々の学習に応じて独自の試験問題を作成して模擬テストも行います。教員免許を持っているスタッフが多いので、不登校生が勉強したくなったときはスタッフが面倒を見るようにしています。滞在中に勉強の必要性を感じて自宅に戻り、高校に進学した子もいます。
●在籍生の心理的サポート体制
 子供の心の動きを読むのがスタッフの大切な仕事だと思っています。それは、ここの体験活動の中で日々訓練し、実践しているので、ここのスタッフの得意な点だと思います。
 また、スタッフミーティングや子どものミーティングで、些細な子どもの心の動きの情報を共有することに努めています。より多くの“振り返り”によって、共通の課題認識と指導方針の合意形成をして、ときには全体の話題に上げたり、個々の対応で解決したりして子どもの心理面をサポートします。
●外部医療機関との連携
 そのような機関と連携を取る必要のある子どもは引き受けていません。その判断は簡単ではありませんが、ここは医療機関ではないと思っているからです。
●在籍生の保護者へのサポート体制
 保護者との信頼関係を大切にしています。特に不登校・引きこもりを持つ親御さんのケアも重要と考えています。子どもはもちろん、親御さんの課題の解決にも相談に乗っています。
 
◆スタッフに訊く・・・1
石川 麗香さん
●24歳 女性 正規スタッフ 勤続年数2年
●施設と関わるようになった理由
 岩手大学に通学していた頃、近くに国立青年の家があり、そこのボランティアをやっていました。夏のキャンプ行事があり、その指導者が佐々木さん(代表)でした。大学4年生の就職活動中にくりこま自然学校に興味を持ち、スタッフとなりました。
●施設について
 自分の家も田舎にありましたが、ここに来て四季の変化がはっきりと感じられるようになりました。春なら日々緑の量が増えていく、秋になると目の前で紅葉が深まっていくのが見えます。それに感動しました。
●在籍生の変化に気づくとき
 生活の中で入寮時には出来なかった小さな事、例えば、通り過ぎるときにさっと手伝ってくれるようになったときなどです。キャンプ生活では特にそれがはっきり見えます。
●在籍生との関わりで注意している点
 相手が子どもでも自分が悪いときはちゃんと謝ることです。悪い意味でのずるさは出さずに、悪いときは素直に「ごめん」と言いたい。子どもにした約束をきちん守るように注意しています。
●ここで働いて喜びを感じるとき
 自分は調理に関わることが多いので、子どもたちがおいしいと言ってくれたときは嬉しいです。子どもと一緒に作るときもあり、任せてみると独創的な料理を作っていたりして面白いです。料理が好きで調理学校に通う子どももいます。
●辛いと感じるとき
 人とのコミュニケーションの取り方が苦手な方なので、上手くコミュニケーションが取れずに自分が内にこもってしまうときは辛いです。
●施設での自分のポジション(役割)
 本館ログハウス(=レストラン兼宿泊)の飲食宿泊部門の担当です。
●施設の今後について
 何と言っていいかうまい言葉が見つかりませんが、寄宿施設の中で活動して経験も浅いので、まだまだ子供たちとの関わり方や指導法など学ばなければならない点がたくさんあると感じています。それから、本館担当としては、ここだけで採算が取れるようにしてゆきたいと思っています。調理では地鶏の食材をどんどん取り入れていきたいです。
●代表・その他のスタッフについて
 代表は一言で言うとすごい人だと思います。考え方やそのバイタリティーなど人を惹きつける魅力のある人です。自分以外はみんな新しい人ばかりで付き合いも浅いです。夏が山場なのでそこで同じ仲間として共通体験を重ね、互いに思いをぶつけ合っていきたいと思っています。自分にはないものをたくさん持っている人達なので、いろいろお互いに吸収し合いたいと思います。
 
★在籍生に訊く
高橋 乙生さん
●13歳 女性 在籍年数2ヶ月
●入寮する以前の状態と入寮のきっかけ
 普通に学校へ行き、帰ったら友達と遊んだり、ごろごろしたりしていました。ここの夏のキャンプで知り会った友達と仲良くなって夏のキャンプ後もその子は残りました。寄宿先から電話があり誘われて興味を持ちました。親もすんなり理解してくれてOKしてもらいました。
●入寮当時の施設の印象
 普通に家で生活するのと違い、大人数なので生活のリズムも変わります。大変なこともあるけれど相手のことを考えて行動しなくてはならない場所だと思いました。
●現在施設で行っていること(作業・通学。勉強など)
 山村留学なので、朝は自分たちでご飯を作って学校へ行きます。部活を終えて帰ってきてまたご飯を作ります。休みの日は犬の散歩とか掃除とかしています。
●施設で楽しいこと
 しゃべるのが好きなので、いろいろな人としゃべれるのが楽しいです。学校もすごく楽しい。友達もできたし、バトミントン部で体を動かすのも好きです。
●施設で辛いこと
 大人数で生活していて意見が合わなかったときに、たまに自分勝手になってしまうことです。
●入寮後自分の中で変化したこと
 単純なことだけど、ここへ来てからけっこう早く寝るようになりました。友達とは9時45分に寝るようにしています。朝は6時集合になっていますが、たまに遅れます(笑)。
●今の目標
 まず朝ちゃんと起きることです。そして学校のない土、日は犬の散歩とかちゃんとやりたいです。それから、家にいるとテレビがあってつい見てしまうけど、寮にはテレビがないし静かだから、勉強もがんばりたい。
●将来について
 将来は学校の先生になりたいです。
●現在の施設の印象
 景色もきれいでとても過ごしやすい所だと思います。
●他の在籍生との関係
 時々言い合いとまでいかないけど、ぶつかることもあります。女の子同士は仲が良いです。男女で意見がすれ違うから大変かな。
●親との関係
 変わったことは特にないです。家が近いから休みのときなどは、時々どこかへ一緒に行くこともあります。
●代表・スタッフの方との関係
 女性スタッフの方が話しやすいです。送り迎えをしてもらうときは男女に関係なく楽しくやっています。
 
▼団体詳細
団体名称●くりこま高原自然学校(クリコマコウゲンシゼンガッコウ)
代表者名●佐々木 豊志(ササキ トヨシ)
所在地●〒989−5371 宮城県栗原郡栗駒町沼倉耕英中57−1(クリコママチヌマクラコウエイナカ)
電話番号●0228−46−2626 FAX●0228−46−2627
URL●http://www1.neweb.ne.jp/wa/kurikoma/ E−MAIL●kurikoma@ma.neweb.ne.jp
設立年度●1996年 在籍生平均在籍年数●数日から10ヶ月(山村留学は1年単位)
入寮生数●男・・・1人 女・・・2人(平均年齢・・・14歳) 入寮定員●8名
通所生数●受け入れ無し
年齢制限●無し 性別制限●無し 相談業務●有り 家庭訪問●無し 親の会●無し 会報発行●無し
特記事項●関わり方の基本は、体験から学ぶ「体験学習法」の手法をとり、野外教育・体験教育を実践している。入寮生の定員は8名。山間にあるため通所は受け入れていない。その他の業務は、長期寄宿自然体験学校・山村留学(今年度より)・青少年のための自然体験活動・家族や一般人のための自然体験プログラム・長期キャンプ(文部科学省委嘱事業「子ども長期体験村」を継続)。
スタッフ状況●日中・・・スタッフ全員で対応。夏のキャンプ時にはボランティアが3、4人いる。「その他」の2名は研修生。夜間・・・宿直が寄宿舎に1人つく。
スタッフ●正規・・・男4人・女1人/その他・・・女2人
 
▼通所費・入寮費
通所生●受け入れ無し
入寮生●[山村留学の通学寮生の場合]入寮費・・・100,000円/月額負担金・・・90,000円。[不登校・引きこもりの寄宿生の場合]2,500円(1日・三食込み)。
 
▼生活
日課スケジュール●[午前]6:00・・・起床、犬の散歩/7:00・・・朝食、その後学校。学校に通っていない子はスタッフの動きに応じてスタッフと共に生活を作る。(例・家畜の世話、犬の散歩、農作業、食事作り、ただし参加は本人次第)[午後]12:00・・・昼食。その後学校に通ってない子には様々な自然体験プログラムが用意されている/5:00・・・夕方の集まり、家畜の世話/6:45・・・夕食/7:30・・・ミーティング/8:00・・・入浴・自由時間/9:45・・・消灯/10:30・・・学習消灯延長
週末・休日●通学者は土曜日、日曜日は自由です。ただし、何をするのかスタッフは把握するようにしてます。町の行事には積極的に参加するようにしています。不登校生は毎日何をやりたいかで日課が決まります。
食事●山菜など自然の恵み、自給の農産物と卵を食材に使用しています。食事作りにも進んで在籍生を参加させています。
清掃●風呂掃除は当番制です。全体の掃除は土曜日か日曜日に週一回で行います。個人の部屋は個人の責任で掃除しています。
年間スケジュール●1月・・・○スノーシュー(スノートレッキング)△雪かき△薪運び△薪ストーブ管理△家畜の世話/2月・・・○スノーシュー○イグル(※)作り○雪っ子祭り参加○テレマークスキー△雪かき△薪運び△薪ストーブ管理△家畜の世話/3月・・・○ぶなの森ネイチャースキー○雪上キャンプ○雪の子どもキャンプ△雪かき△薪運び△薪ストーブ管理△家畜の世話/4月・・・○栗駒山頂テレマークダウンヒル・・・○雪山アタック△薪運び△薪ストーブ管理△家畜の世話△雪解け後周囲整備△花壇整備/5月・・・○GW子どもキャンプ○力ヌー○乗馬△田植え△山菜取り△畑の土作り/6月・・・○世界谷地花と、ぶなの原生林トレッキング△畑の種まき△家畜の世話△雑草取り/7月・・・○子どもキャンプム畑管理△野菜収穫△雑草取り/8月・・・○子どもキャンプ/9月・・・○力ヌー(北上川リバーツーリング)△畑管理△野菜収穫△家畜の世話△稲刈り/10月・・・○栗駒山登山(紅葉)○乗馬○カントリーパーティー(ウェスタン〉△畑管理△秋野菜収穫△家畜の世話△キノコ採り/11月・・・○手作りウィンナーソーセージ作り○手打ちそば体験△薪割り△薪運び△薪ストーブ管理△家畜の世話/12月・・・○クリスマスリース作り△冬ごもり準備△薪割り△薪運び△薪ストーブ管理△家畜の世話
※夏休み、冬休み、春休みは基本的に帰宅します。ただし、本人が残りたいときは残ることができます。活動は主に生活を創造する日常的な活動(△)と、冒険体験と自然体験の非日常の活動(○)に分かれます。
※「イグル」とはイヌイットの人たちが住んでいた雪の家のことです。







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