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その施設が対象としているのはどんな“子”なのか
工藤・・・和田さんが関わっている人たちと、僕たちが関わっている人たちとは、やっぱり年齢的に違いがある。だから、この報告書を読むとき、「その施設が対象とするのはどのくらいの年齢層なのか」ということにも着目すべきでしょうね。
 
司会・永冨奈津恵、沢辺均
 
和田・・・それはそうですね。たとえば「社会的自立を図る」と言っていても、我々が言うのとタメ塾が言うのでは意味が違う。義務教育の子どもたちへの自立援助と、就労年齢に達している人への自立援助ではまるっきり違いますからね。
工藤・・・だから、「その施設が対象としている人々はどんな人か」をぜひ読み込んでほしいですね。
 オレは、「自分たちはオールマイティじゃない」ということを明確にしているかどうかが重要だと思うんだよ。責任のある施設では「自分のところが対象とするのはこういう年齢で、こういうタイプです」と言っていると思うよ。
小川・・・まったくその通りだと思います。私も、施設を調査していくうちに、一口に不登校・ひきこもりといっても、いろいろな種類の子どもたちがいるんだということがだんだんとわかるようになりましたから。調査の終盤では「この施設はこういう子に向いている」というコメントを追加することにしました。
和田・・・いろいろ見て回っている内にだんだん目が肥えてきたんだよ(笑)。
小川・・・初期に調査した団体は不利かもしれませんね(笑)。
工藤・・・調査した人の時期にもよるのか・・・。このことは、ある程度留意しとかなくっちゃダメだねぇ(笑)。まぁ、こういう調査っていつも不完全なものだからね。
和田・・・調査される側は、自分の長い経験の上でしゃべっているから、そんなに違いはないんだと思う。ただ、調査する方の目が違ってくるんだとしたら、どうなのかなぁ・・・。
工藤・・・3〜5年後に再調査するとか、年に1度同じ人が調査に行って、その情報をホームページ上に公開するとか、方法を考えた方がいいかもしれませんね。
 ただ、先ほども言ったけれど、「自分の手法の有効性はここだ」ということを代表者がちゃんと言えるということは、やっぱり大事だと思うんだよ。もちろん、「女の子はダメだ」「精神病はダメだ」と排除してしまうのとは違うよ。それが排除なのか、自分たちの特色を打ち出しているのかという問題は全然違うと思うんだよね。
 
ふだん発言する機会のない実践者の記録
沢辺・・・この報告書を読み込むコツがまだまだ出てきそうですね。他には何がありますか?
小川・・・先ほども言いましたが、在籍生がいないところは、その施設の本当の姿が見えないですね。僕は、11カ所調査した中で2カ所がそうでした。生活の実態がないわけですから、見てもやっぱりわからないですね。
山田・・・私が調査したところでも、在籍生のいないところはありました。
 ただ、その施設の代表者の方がたくさん本を書かれていて、それを読むと、訪ねたときに在籍生がいなかった理由もよくわかりました。その代表者の方は、「子どもが70%ぐらい回復した時点で家庭に戻す」という考えの方なんです。今まで生活してきた場所―つまり家庭で、親と一緒に回復していくという形を取ってるんですね。だから、在籍期間が短い。子どもを見ることはできませんでしたけど、代表者の考え方はよくわかりました。
和田・・・その人は物書きもやられるんですか。僕なんかのようにじかに子どもと向き合っていると本を書く暇がないけどなぁ。とにかく時間がない。現役の実践者は、実は意外と本を書いてないんですよ。記録が出ることもまれなんです。
 だから、実践が行われている現場を記録に残していくのは、実はすごく重要な問題なんじゃないかなと思ってるんですよ。だって、実践をほとんどやってない物書きの考えだけが先行してるんだもの。
永冨・・・ということは、工藤さんは・・・(笑)?
工藤・・・オレは2冊だけだから。
沢辺・・・すごく昔に出した『学習塾の可能性』(ユック舎、1982年)と、『お〜い、ひきこもり』(ポット出版、1997年)でしょ?『お〜い、ひきこもり』は工藤さんが書いた部分は半分だから。
工藤・・・やっぱり、本を書く時間はなかなかとれないよ。
和田・・・だから、本当にそういう部分だけ見ても、今回の調査は、本を書く暇のない実践者に光を当てたという点で、意味がありましたよ。
工藤・・・そうね。モノを言うやつだけに、スポットライトが当たるんじゃなくてね。あ、大事なことを忘れてた。この報告書において写真は重要なポイントだよね。
永冨・・・写真は支障なく撮らせてもらえたんですか?
山田・・・私が調査したところで、主催団体に市がからんでいるところがありましたが、そこでは制約がありましたね。名札等の名前が写ってはいけないとか・・・。
和田・・・“公”の施設にいる子どもは、代表者の個性や手法にひかれて来ている子どもたちじゃないからね。
工藤・・・“民間”施設には、本人に選択権があるけど、“公”的施設は相談機関から言われてやってくるんですよね?その違いは非常に重要ですよ。
小川・・・僕が調査した施設の中に、社会福祉協議会が運営しているところがありました。ここの在籍期間は中学3年生までなんです。中学3年生になったら、その子がどんなに重要な契機を迎えていたとしても追い出されてしまう。民間だったら、こういうことは絶対にないですよね。追い出されたらその子はどうなるのかなって、すごく気になりました。
工藤・・・とはいっても、公的施設の在籍期間が、無限に延長されるのも恐いと思いますけどね。
小川・・・要は子ども本意の施設になっているかどうかということですよね。だから、在籍期間が切れるときに、その施設がどこか別の施設を紹介するという方法があればいいなと思います。
和田・・・それにしても、公的施設が今回の調査を受けてくれたのは面白いと思いますよ。公的なところは、ある意味そんなに真剣じゃない。宣伝しなくていいから、あまり公開したがらない。だから、貴重な報告だと思います。
山田・・・親御さんにしてみれば、公的施設なら費用があまりかからなくてすむという魅力があると思います。補助金が出ているから当たり前なんですけど。寮費は親御さんの収入に応じて決まっていて、だいたい1〜2万円ぐらい。民間だと13〜15万円ぐらいかかります。
工藤・・・費用の部分ははっきりさせておこう。公的施設には補助金が出る。北海道だったら在籍生1人に対して40万円まで、東京都だったら40〜80万円まで。つまり、税金が使われている公的施設のコストの方が民間施設より数倍高いんですよ。それに、公的なところと民間とは、家賃も違うし・・・。
山田・・・たしかに、公的施設へは児童相談所を通してしか入れないという問題もあります。
小川・・・ある財団から助成を受けることができたので「今年は特別価格」という施設もありましたよ。僕としては、「なんで民間施設には公的な援助がないの?」と疑問に思いましたけどね。
和田・・・NPOに対する助成金のシステムにものすごく問題があるんだよね。このシステムが、行政の縦割りと同じなんですよ。
 不登校児だけの話じゃなくて、現在の日本では「縦割りでは割り切れない」ということが非常に大きな問題になってきている。それなのに、財団でも、企業でも、助成は全部縦割りの仕組み。ここは福祉、ここは環境問題、ここは子育て援助・・・と細分化されていてそれぞれが全然リンクしていない。でも、24時間の日常生活にはその全部が入ってるじゃない?
工藤・・・年齢による区分もある。18歳以上が対象になると途端に助成が受けられなくなってしまうもの。それに、フツウの人間にはお金を出してくれないよね。障害者だと助成は受けやすいんだけどさ。
和田・・・僕のところでは、米作りをやってたりするけど、じゃあこれは縦割り行政の中でどこに入るのかと言えば、“里山保全”だから環境省とか、ね。
 現在のさまざまな問題というのは“専門化・細分化”に原因があるはずのに、そこを解消しようとしている団体に対する助成が、これまた細分化されているというのは、大きな矛盾だと思う。ひきこもりの問題はよくわからないけど、少なくとも不登校の問題は分断してはいけないと思う。“隔離”―狭いところに押し込めるという部分に根の深い問題を抱えてるんだから。
 
ミスマッチを防ぐための「プラットフォーム」に向けて
沢辺・・・最後に、言い残したこと、また今後の課題などを、みなさんから一言ずつお話しいただきたいと思います。
山田・・・もう少し調査員同士で情報交換したかったです。この報告書を読む人の気持ちと、施設を経営している代表者の気持ち。この二者のバランスをとりながら、報告書を書いたんですが、それでいいのかどうか。他の調査員の方の意見もお聞きしたかったですね。
 今後は、せっかくこうやって調査したものを終わりにしてしまうんじゃなくて、もっと不登校・ひきこもりの本人に役立つことにつなげていきたいと思います。
 子どもさんに合う塾って必ずあると思うんです。調査している中で、私は個人的に、「あの子にはここがいい」とか、「この子にはここがいい」と考えていました。だから、そういったコーディネートができればいいなと思います。
小川・・・僕は、この調査のポイントは、代表者の人格―どういう人生観なり教育観を持っていて、どういう人柄なのか、どういう情熱を持って取り組んでいるのかという点だと思いました。僕はそれが一番重要だと思いましたから、本当にいろいろな話を聞き、報告書を書いたつもりです。
 「不登校やひきこもりという存在はレールからはずれた脱線者」という目が社会にあるわけですよね。しかし、それを援助する施設は、広い意味での“21世紀の教育”を試行錯誤しながら考えているんだなと、強く感じました。そのやり方は代表者の個性によってバラバラなんですけど、バラバラであることこそが“21世紀の教育”の先端なんじゃないかなと思えて、すごくポジティブに“個性”というものを見ることができました。
 今後、継続して調査をしていくことができ、新しい情報をプラスしていくことができるなら、もっと大きな意味も生まれてくるんじゃないでしょうか。とにかく、こういったことは今までやられていなかったわけですから、この調査が、今後行われるだろう調査の最初の基準になるんだと思いますね。
山田・・・ちょっと言い残したことを言ってもいいですか?
 私は不登校の親の会に関わっているんですけど、そこに来る親御さんたちは宿泊型施設に対して嫌悪感をすごく感じているようです。戸塚ヨットスクール【注8】のような場所を思い浮かべちゃうみたいなんですね。今年(02年)の夏、不登校の親の会の全国大会があって、このプラットフォーム事業のことをいろいろな方に話したりしたんですけど、反応はほとんどありませんでした。やっぱり宿泊型に対する反発は大きいと思いましたね。私の周りでは、宿泊型施設の話をしただけで、周りの人に引かれてしまうということがありますね。
工藤・・・戸塚ヨットスクールのイメージというのは、どの宿泊型施設にもいつもついて回るね。タメ塾の場合、「必ず見に来てくださいね」と言い続けてきたのは、見てもらわない限りそのイメージを払拭できないからだよ。
 
 そういうイメージを持つ人は、「親子は必ず一緒にいなければならない」という考え方を基本に持っているんだと思う。不登校やひきこもりは、親子共通の課題として、親子で取り組んでいかなければならないという考え方が、いまだに脈々とあるんだよね。
和田それは、その人の人間理解が浅いんたよ。(一同笑)
工藤・・・それをオレに言ってもしょうがないじゃない(笑)。
和田・・・その考えは絶対におかしいよ。だったら、僕は「寄宿教育」っていう本を書くよ。「親が子どもを囲い込んでいい」という権利なんかないわけだから。僕は、血のつながりのない人たちが共存していく、そして開かれた社会を作っていくということが今世紀の目標になると思っているもの。
 しかし、僕は井の中の蛙だね。そんなに拒否反応があるなんて知らなかったなぁ。
永冨・・・たしかに不登校親の会に参加している親御さん、特にお母さん方には宿泊型施設に対する強い拒否反応があると感じますね。
工藤・・・教員のグループとか、親のグループでは、特に拒否反応が強いんだよ。オレなんか、子どもを奪う「鬼」みたいに言われるときがあるよ。
和田・・・ここの場合(CLCA)は宿泊型を前提とした相談を受けているわけですよ。なのに、相談件数はすごく多いですよ。もちろん数字的に見たら微々たるものかもしれないけど、スタッフが足りないくらいの反響があるんですけどね。
 そこで、この事業をやった意味をもう一つ付け加えたいんです。
 それは、この調査が、複数の人たちが一つの施設に関わり、本当にその人に合った道を模索してあげるための、第一歩になったんじゃないかなと、僕は思っているからなんですよ。
 多くの宿泊型施設は個人経営の商店みたいなものだから、縁があってそこの門を叩いた人は、そこに取り込まれてしまいます。その場所で、1、2年は簡単に過ぎちゃう。その子どもがその施設に合えばいいけれど、もしミスマッチがあったとしたら、これは大変な問題ですよ。そこに閉じ込められちゃって、不幸な目に会うケースはたくさんあるんじゃないかと僕は思う。だから、この調査報告の次の段階としては、施設間の風通しをよくして、常時複数の人たちが一つのケースに関わって、その人が本当に合うところへ行ける―そんな仕組みができればいいなと思います。
 それと、もう一つ。今回の調査報告のような客観的な事実が、「こういった施設で働きたい」と思っている人たちの目に触れるということも意味あることだと思いましたね。今までは、主催者が美辞麗句を並べて「うちはこんなすごいことをやってますよ」という本しかなかったんだから。施設で働きたいと思っている人たちに対する受け皿も、この事業の延長線上にできていけばいいなと思います。
工藤・・・まったく、和田さんのおっしゃる通りで、実際に調査に行った人こそが、ある程度の区分け能力を持って、コーディネートしていけるといいなと思いますね。「待ちましょう」という考え方も同じなんだけど、時間の無駄遣いが1、2年ですむならまだいい。でも、ミスマッチの施設にキャッチされて5年、下手したら10年も経っちゃった人が現実にいるんだから。この問題はフリースペースだってそうで、そこの居心地がよすぎてずっとそこに居続けるという問題が発生している。人生を無駄にしないためにも、今、和田さんがおっしゃったことはやっていかなくちゃならないと思うね。
 ホントは「お宅のお子さんにはここがいいですよ」と教えてあげたいんだけど、この本ではそれが言えないもどかしさはある。
 ただ、これが情報として流れるというのは本当にいいことだと思うんだよ。子どもの選択肢として宿泊型施設を見る場合、「最低限このぐらいのことは調べようね」といった調査内容のガイドとしても使えると思いますよ。
 

【注8】・・・太平洋横断単独ヨットレ一スで優勝した戸塚宏氏が1977年に開講した、情緒障害児のためのヨットスクール。79年以降、訓練生の死亡や行方不明が相次ぎ、問題化。83年、戸塚宏氏やコーチが逮捕され、体罰の是非論議が巻き起こった。(永冨)







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