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中国大興安嶺の狩猟民族の樺樹皮器物の装飾文様図録・・・翻訳・岡田陽一
 「樺樹皮文化」は中国の大興安嶺の狩猟民族が、樺樹皮を用いて器物をつくり形成した独特の文化である。寒帯に位置する大興安嶺は樺の樹を豊富に産する。樺樹皮は軽く薄くて強くしなやかであり、器物をつくるのに用いられる。考古学の発見によると、この地に居住する少数民族は、千余年以前にはすでに樺樹皮を用いて器物を作つくっていた。今日、エベンキ、オロチョン、ダフールなどの狩猟民族はいまもなお樺樹皮を剥ぎ取り、軽くて精巧で長持ちする、携帯に便利な各種の器物をつくっている。
 大は樺樹皮船やテントから、小はカバンやたばこ入れなど、大きさや形はさまざまである。それは中国国内に形成された「樺樹皮文化」と「樺樹皮芸術」であり、唯一の「生きた化石」のごときである。
 「樺樹皮器物の装飾文様図録」を特集し、樺樹皮の器物の美しい装飾文様の鑑賞から始め、樺樹皮文化の世界へと案内しよう。図録の内容は装飾文様の性質によって、植物文、動物文、幾何文、墨絵輪郭画法の四つに分類した。器物の排列は、エベンキ族、オロチョン族、ダフール族の順とした。
 
◎植物文◎
 
【樹】エベンキ族
 
植物文樺樹皮の盒
 
植物文樺樹皮の盒
 
 植物文は樺樹皮の器物の基本的な装飾文様の一つである。エベンキ族は一般に、根、茎、葉、花を円形に変え、オロチョン族は一般に、愛情を象徴する「南綽(ナンツュオ)羅花」〈「南綽」はオロチョン語で大興安嶺のツツジ科の植物。「羅花」は漢語で花を並べる、の意〉を美しい花形の装飾文様に描く。
 
植物文樺樹皮のカバン
 
植物文樺樹皮の盒
 
【花】オロチョン族
 
 花は植物文の主要な造形の一つである。オロチョン族は愛情を象徴する「南綽羅花」を広く運用し、写実から抽象へと、単純なものや複雑な多種多様な花形を発展させた。
 
花形植物文の樺樹皮盒
 
花弁の枠
 全体が十字形の花を円形の器蓋の装飾文様の中心とし、周囲は二輸を八片に切った花弁が内円に向いて枠をなし、さらに異なる色彩を施して際立たせる。
 
南綽羅花文の文樺樹皮の器蓋
 
南綽羅花の誕生
 オロチョン族は具体の描写から変化して次第に十字の造形や四方へのびて展開する南綽羅花を生んだ。この花は一輪をそのまま円形の器蓋に表現したり、簡略化して横向きに連続して器体に排列し、さまざまに変化させたものがある。
 
南綽羅花文の文樺樹皮の器蓋
 
半切の十字形花[下右]
 十字形の南綽羅花を半分に切り、上下に二つを相対して並べて交互に排列し、樺樹皮の盒の円形の器体のぐるりを飾る。とくに延べ広がりの美観が備わる。
複雑な花形[下左]
 花の形式も繁雑な円形の線に発展し、円形の器蓋の中央を花心となして、周囲に向かって開き、幾重にも重なり合い、文様はいっそう変化に富む。
 
花形植物文の樺樹皮の盒
 
単純な十字形花
 十字形の南綽羅花は、円や線に簡略化されたり、単純な十字形のように、簡単な造形へと発展し、器体に途切れのない連続として表現される。
 
花形植物文の樺樹皮の籠
 
【樹と葉】
 植物文のうち、木の幹と木の葉は重要な典型的装飾文様である。木の幹はしばしば完全な形に表現され、木の葉は単純と複雑の両方の形がある。
 
樹形植物文の樺樹皮の籠
 
樹形・葉形植物文の樺樹皮の籠







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