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慶長遣欧使節船『サン・ファン・バウティスタ』の文化財としての位置付け
 
平成15年1月16日
濱田直嗣
1. 文化財指定の分野(国の例)
[有形文化財]
(1)絵画
(2)彫刻
(3)工芸品
(4)書跡・典籍
(5)古文書
(6)歴史資料(次頁参考)
(7)考古資料
[建造物]
[史跡 名勝 天然記念物]
その他(略)
 
2. 『サン・ファン・バウティスタ』号の有する要素
 (1) 歴史的復元を最重要課題としたため、学術的な価値を十分に備える内容にある。
 (2) 我が国が伝承してきた木造船の造船技術を、宮城県が中核となって集大成した最後の建造物にあたる。(20世紀最後の本船の建造をもって、船大工による当該の技術は途絶えている)
 (3) 上記の結果、我が国の木の文化を歴史的・技術史的遺産として内包し、これを後世に発信する最終、最大の資料になった。
 (4) 国宝『慶長遣欧使節関係資料』を検証補完する、貴重な学術資料でもある。
 (5) 我が国の外交史、文化史上、特筆される『慶長遣欧使節』の規模と性格を顕在化できる稀有な資料とされる。
 (6) 宮城県における工業技術の先駆的、革新的な立場を実証する。
 (7) 木の文化、木の多様性、木と人間の関わりを各階層が学習するための原点ともなり得る文化財で、さらに国際的な広がりをも喚起させる。
 (8) 係留地が、『慶長遣欧使節』出帆の地とされる月浦に近接しており、牡鹿半島の歴史環境の保全と周知に、実例として資することができる。
 
3. 『サン・ファン・バウティスタ』の文化財指定にかかる問題点
 (1) 従来の指定物件は、「現物」あるいは「現物に近い制作時期」に限られており、現代の復元は対象になっていない。従って、新たな視点からの指定を目指す必要がある。
 (2) 県指定の申請にあたっては、『慶長遣欧使節』の多様性や特殊事情と宮城県の強い結びつきが配慮されるよう、留意する必要がある。
 (3) 本件が歴史資料だけではなく、建造物、史跡などに連動する総合的、複合的な文化財であることを強調し、前例にとらわれない発想によって、指定を推進するよう要望する。
 (4) 近年注目されている、科学技術関連の内容に合致する点も重視すべきであり、再現が既に不可能な現況も考慮しなければならない。
 以上の内容から、『サン・ファン・バウティスタ』の文化財指定は歴史資料、建造物、史跡の3分野を兼ねるものとされ、従来対象にされていなかった現代の学術研究と、歴史事象の再生を図る事業が獲得した成果を文化財に認定するという、試金石の作業に該当する。宮城県独自の文化財保護活動に、新たな方向性を付け加えるものでもある。
 
[参考]
 
歴史資料の部
 重要文化財
 一 政治、経済、社会、文化、科学技術等、我が国の歴史上の各分野における重要な事象に関する遺晶のうち、学術的価値の特に高いもの
 二 我が国の歴史上、重要な人物に関する遺品のうち、学術的価値の特に高いもの
 三 我が国の歴史上、重要な事象または人物に関する遺品で歴史的または系統的にまとまって伝存し、学術的価値の高いもの
 四 渡来品で我が国の歴史上、意義が深く、かつ学術的価値の特に高いもの
 
 歴史資料部門は、昭和50年の文化財保護法の改正に伴い、昭和52年に新たに設置された部門である。指定件数は、平成9年6月30日現在で90件を数えている。
 我が国の歴史上に重要な事象(政治、経済、社会、文化)および人物に関するもので、学術的価値の高いもので、比較的にまとまって現存するものを対象としている。各分野の代表的な指定例を挙げてみると以下のとおりである。
(政治) 文禄3年、島津氏分国太閤検地尺(鹿児島県・島津興業)国絵図並郷帳(国立公文書館)
(経済) 法隆寺枡(東京国立博物館、奈良県・法隆寺)
福井家枡座関係資料(京都府・片山潤氏)
(社会) 葛川明王院参籠札(滋賀県・明王院)
(文化) 春日版板木(奈良県・興福寺)、坤輿万国全図(宮城県図書館)
(人物) 徳川家康関係資料(静岡県・久能山東照宮)
シーボルト関係資料(長崎市立シーボルト記念館)
 近時、近代の歴史資料の保存・活用についての機運が高まり、調査研究協力者会議を開催し、平成8年10月には指定基準に「科学技術」の項を加えるなど、特に近代分野についても視野に入れるべきであるとの意見を得た。







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