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2 社会的養護システムにおける里親制度の位置付け
 我が国の社会的養護の現状を見ると、児童福祉施設におけるケアに大きくウエートがかかっており、里親の下で養育されている要保護児童は約6%に過ぎない。
 欧米、特にアメリカ、イギリス、フランスなどにおいては、要保護児童の過半が里親によってケアされている。また、諸外国においては、親族による里親ケアや虐待を受けた児童をケアする専門里親など多様な里親が普及している。
 このような現状を踏まえ、平成14年度、厚生労働省は、新しく専門里親及び親族里親を創設するなど里親制度の大幅な見直しを行ったが、その推進のために、次のような施策について検討する必要がある。
 
(1)施設との連携、相互補完
 要保護児童の養育については、施設養護か里親養護かという二者択一的なとらえ方から脱却し、両者がそれぞれの役割を果たしながら、パートナーとして相互に連携・協力する必要がある。「児童の最善の利益」を目指した養育を進めるため、次のような機能の拡充を図る。
 
a 里親支援機能の拡充
 乳児院には家庭支援専門相談員が配置され里親支援を行っているが、他の児童福祉施設には置かれていない。このため、他の施設にもファミリーソーシャルワーカーを配置し、里親からの相談、研修、レスパイトケア、措置変更の際の関係調整など、里親支援を行う機能の拡充を図る。
 
b 的確なアセスメントに基づく子どもの養育支援計画の策定
 里親と施設のいずれか望ましい処遇方針及び措置の決定を行うため、児童相談所における的確なアセスメント手法を開発する。また、里親委託の際の養育支援計画の策定に当たっては、家庭復帰時期の確認が可能となり、委託を承諾しやすいよう保護者の参加を求める。
 
(2)里親の社会福祉事業化の検討
 里親制度は、現在、社会福祉事業として位置付けられていない。このため、里親を社会福祉事業として制度的に位置付けるとともに、児童福祉法に子どもの監護等に関する里親の権限を明確に規定することにより、里親制度普及の基盤を整備する。
 
(3)福祉専門職としての里親
 専門里親としての養育経験や児童福祉施設勤務経験を有し、一定の資格に基づく専門知識、高度な技能及び倫理観を持つ者を、「福祉専門職としての里親」として位置付け、被虐待児、不登校児、非行児、障害児など専門的なケアを必要としている子どもに対し、手厚い家庭的なケアを行う。この事業は、雇用対策面へも多少の貢献が期待できる。
 なお、本来のボランティア的な里親については、そのボランティアとしての意義を重んじるべきものであり、また、そのような精神に基づき里親活動を行っている方も多くいることから、従来通り推進を図るべきである。
 
(4)里親事業における市町村の役割
 里親は、児童福祉施設とともに、市町村における子育て支援短期利用事業(ショートスティ、トワイライトスティ)や家庭訪問支援事業(子ども家庭支援員)の引き受け先に位置付けられており、地域の身近な子育て支援を推進する役割も担っている。
 また、児童がこれまで育んできた人的関係や育った環境などの連続性を大切にし、可能な限り、その連続性が保障できるように都道府県と市町村との緊密な連携は不可欠である。里親制度の円滑な実施に向けて市町村の役割を強化するとともに、民生・児童委員の活用を図るなどの必要がある。
 
(5)里親機能の拡充
 里親制度を推進するため、次のような施策について検討する必要がある。
 
a 年長児童に対する自立支援施策としての自立支援里親の創設
 年長児童に対する自立支援施策は、極めて乏しい現状にある。このため、施設退所後の児童、無職少年、軽度なひきこもりなどには、社会的自立のための養育支援や就労支援が必要である。そのため、自立支援里親(保護受託者も含める)を創設し、年長児童の社会的自立を支援する。
 
b 里親ファミリーホーム(グループホーム)の創設
 児童相談所や児童福祉施設の指導や支援(レスパイトケアなど)のもとに、一定以上の養育経験がある里親が、4〜6人の子どもの養育を行う里親ファミリーホームを創設し、家庭的な養育を行うとともに、一時保護施設としても活用する。なお、原則として単独の里親家庭で養育することとするが、複数の里親家庭によって養育することも可とする。
 また、児童自立生活援助事業(自立援助ホーム)についても、相談事業を実施することができることを前提として、里親ファミリーホームの中に位置付ける。
 
c 青年短期里親の創設
 子育てに関する感覚に世代の違いがあり、楽しむという感覚が薄く、子育てをいやがる若い人が増えていると言われている。このため、高校生・大学生が研修を受け、比較的高齢な里親家庭で子どもと一緒に遊ぶなどレスパイトケアを行ったりする青年短期里親を創設する。なお、一定時間以上の養育について、履修単位と認めたり、福祉施設実習として認めることが考えられる。
 
d 短期里親(週末里親など)に対する利用制度の拡充
 里親は、子育て支援短期利用事業(ショートスティ、トワイライトスティ)や、家庭訪問支援事業における子ども家庭支援員の引き受け先の1つとして位置付けられているが、その積極的な活用を図ることにより、里親制度の普及を推進する。
 
e 専門里親に対する委託児童の拡大
 現在、専門里親については、要保護児童のうち、児童虐待等の行為により心身に有害な影響を受けた児童が委託対象になっているが、その対象を非行・不登校児等まで拡大する。
 
f 親族里親に対する委託児童の拡大
 現在、親族里親については、両親など児童を現に監護している者が死亡や行方不明、拘禁等により児童を監護することが不可能となり、親族へその養育を委託しなければ、その児童を児童福祉施設に入所せざるを得ないにおいて、施設入所より親族で養育することの方が適当なケースに限って、委託対象になっている。この対象範囲を拡大し、児童虐待等により心身に有害な影響を受けた児童についても委託対象とすることとする。
 
3 里親支援の強化
 里親による養育は、個人的な養育ではなく、社会的な養育である。したがって委託児童に対して適切な養育を行うためには、相談、研修、レスパイトケアなど十分な支援が必要である。里親支援策については平成14年度において相当の充実が図られたが、さらに次のような拡充を検討する必要がある。
 
(1)委託費(里親手当)の改善
 養護施設入所児童等実態調査結果によれば、里親家庭の年間所得については、一般家庭の所得金額よりもやや多いという結果も出ているが、今日の経済情勢を考慮すると、現在の手当水準での子育ては経済的に容易ではないとの指摘もあり、委託費の改善については、多角的に検討する必要がある。
 
(2)里親研修の充実
 都道府県レベルでの研修の拡充とともに、里親の養育技術の研修や他機関との合同研修などを、国立武蔵野学院及び子どもの虹情報研修センターなどで実施する必要がある。
 
(3)里親サロン事業の創設
 里親が定期的に児童相談所につどい、児童福祉司の援助のもとに、子ども養育などについてグループミーティング・ディスカッション及びロールプレーなどを通して、里親自身の養育技術の向上やメンタルヘルスの維持を図ることを目的とした里親サロン事業を創設する。
 
(4)児童相談所体制の整備
 里親委託児童が一桁の都道府県もあるため、全国一律に里親担当福祉司を配置することは困難であるが、委託児童が一定数以上いる児童相談所に里親担当児童福祉司を1名配置する。
 
(5)里親会のあり方について
 今日まで、里親会は、里親促進事業などさまざまな活動を展開し、里親制度の発展に寄与してきたが、会員の中には若年者が少ないという実態もある。里親制度の推進のためには、里親会の活動は極めて重要な役割を担っており、中長期的な視点に立って自ら今後の里親会のあり方について検討する必要がある。
 
(補論)里親制度と未成年養子縁組について
 里親制度と養子縁組制度は、本来別々の制度であるが、現状は養子縁組希望者が里親制度を利用している関係にあり、このことが里親制度イコール養子縁組制度といった誤解を招いている一因にもなっている。養子縁組制度自体は、それ自体独自の意義を持つ制度であるが、里親委託をすることが実親に子どもを取られてしまうのではないかといった思いを抱かせ、里親委託を承諾しないことに結びついているといった点も指摘されている。
 したがって、児童福祉の視点に立った里親制度と未成年養子縁組制度の関係のあり方について、中・長期的な展望の下に検討する必要がある。







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