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4. インドネシア(ジャカルタ)
インドネシア運輸省陸運総局鉄道局
Ir. Titiek Masdini Agustriana, DEA
インドネシア―ジャカルタにおける大量輸送システムの整備
 
1. はじめに
1.1 ジャカルタの交通事情
 1995年におけるジャカルタ市の面積は650km2、人口は約900万人である。面積6,160km2、人口1,100万人を擁する近隣のボゴール、タンゲラン、ブカシ(BOTABEK地域)とともに、ジャカルタ首都圏(JABOTABEK地域)を形成しており、その総人口は2,000万人に達する。
 現在、BOTABEK地域の人口の80%がジャカルタ市の周辺に集中している。
 
 ジャカルタの急速な経済成長により、乗用車の所有台数は急増している。表1に示すように、ジャカルタの車両台数は1994年から1996年までに12%増加した。この増加により、ジャカルタの中心地における交通速度は10km/hまで低下している。
 
Table 1. Motorized Vehicles in Jakarta
Year Motor Cycles Cars Buses Trucks Total Vehicles Annual Growth (%)
1994 1,344,774 753,723 293,101 284,301 2,675,899  
1995 1,540,825 849,939 320,246 310,128 3,021,138 12.90
1996 1,775,153 967,229 310,636 334,730 3,387,748 12.13
Source: Lomba Tertib LLAJ 1997
 
 ジャカルタでは、自動車等による一日一人当たりの平均利用回数は最大で1なので、近い将来に、自動車等の交通量が増加する可能性が高い。その上、JABOTABEK首都圏開発計画検討調査(JMDPR)の試算によれば、2010年におけるジャカルタ市の人口は1,200万人、ジャカルタ首都圏(JABOTABEK)の人口は3,000万人に達する。
 
 ジャカルタ全土で道路が占める割合は5.7%と先進国の水準を大きく下回っている。自動車の約300万台に対して道路総延長は6,018.76kmである。言い換えれば、ジャカルタにおいては道路1km当たり約500台の割合である。
 ジャカルタ市の中心地の機能を維持するためには、交通需要の相当な割合、たとえば50%程度を公共交通が担う必要がある。この公共交通の重視策は、バスや大量輸送システムが最も効率が高く、最も安価な交通手段である都市中心部についてである。
 
1.2 鉄道整備
 下の表2および図1に示す通り、現在、ジャカルタ首都圏(JABOTABEK地域)には鉄道線が8本走っており、総延長は165.244km、駅数は55である。
 
Table 2. Existng Railway Network 1997
Line Section Distance
(km)
Single/Double
Track
Electrified
(Yes/No)
Eastern Line Jkt. Kota-Rajawali-Kemayoran 3.970 Double Yes
Jkt. Kota-Ancol-Tg. Priok 8.086 Double Yes
Tg. Priok-Ancol-Kemayoran 8.614 Double Yes
Kemayoran-pasar Senen 1.436 Double Yes
Pasar Senen-Jatinegara 5.615 Double Yes
Tg. Priok Line Kp Bandan-Tg.Priok 6.476 Double Yes
Central Line Jkt. Kota-Gambir-Manggarai (elevation) 9.754 Double Yes
Western Line Jkt. Kota-Kp.Bandan-Tnh.Abang 10.328 Double Yes
Tnh.Abang-Manggarai 6.026 Double Yes
Manggarai-Jatinegara 2.652 Double Yes
Tangerang Line Duri-Tangerang 19.297 Double
(under construction)
Yes
(under const)
Serpong Line Tnh. Abang-Serpong 23.278 single Yes
Bogor Line Manggarai-Depok 22.794 Double Yes
Depok-Bogor 22.126 Double Yes
Bekasi Line Jatinegara-Cakung 9.163 Double Yes
Cakung-Bekasi 5.629 Double Yes
Source: Jabotabek Railway Project, 1997
 
 既設の鉄道インフラはすでに通勤用に利用されているが、さらに整備を進める必要がある。ジャカルタにおいて個人移動における鉄道の割合は、わずか3.1%(1995年)だからである。このように、JABOTABEK地域内における鉄道輸送の役割は相当に低い。いずれにしても、ヘビーレール、ライトレールを問わず、鉄道がジャカルタにおける公共交通システムの中心となる必要がある。
 
2. 大量輸送網の整備
 現在でも大きな人口を抱えるジャカルタは今後もさらに発展するため、交通事情は悪化している。ジャカルタは、一昔前よりハード面は改善されているものの、人口が増加するとともに、どのような交通手段を利用しても移動に要する時間が増大しているので、生活の質の低下に直面せざるを得ない。渋滞の悪化は、ジャカルタ市の経済にも悪影響を与える。交通状況を改善する措置を取らない限り、計画通りに市が発展することは望めないからである。
 
 インドネシア政府は、1990年代前半に委託した一連の調査を通じて、以上の問題をすべて認識している。これらの調査は、1993年に各省庁から集められた作業グループにより、「総合交通網」と呼ばれる2015年大量輸送マスタープランにまとめられた。総合交通網では、2つの都市大量輸送ルートが最優先課題とされ、第1段階の計画に盛り込まれた。この2つのルートとは図2に示す通り、東西ルート(タンゲラン−ブカシ)と南北ルート(コタ−ブロックM)である。
 
 このように総合交通網では、コタからブロックMまでの鉄道路線の建設を第1段階で行うことが勧告されている。この路線だけで、ジャカルタの交通事情を大幅に改善することができると予想されている。
 
 コタ−ブロックM線の他にも、南北を結ぶ大量輸送路線が計画されている。これは、LRTシステムの上に、有料道路を併せて建設するというものである((通称「トリプルデッカー」)。この組み合わせにより、南北回廊に沿った公共交通システムの輸送量だけでなく、幹線道路の輸送量も増加することが期待される。この有料道路により、自家用車による移動可能性が向上するとともに、公共交通サービスを向上させるLRTシステムの運行を資金的に支えることになる。
 
 「トリプルデッカー」のルートは、ジャカルタの南北回廊であるが、有料道路の総延長は約23.55kmであり、出口あるいは入口のランプやインターチェンジを数ヵ所設置する予定である。
 
 下の表3は、ジャカルタの大量輸送実施計画をまとめたものである。
 
Table 3. Summary of MRT Implementation Program
MRT ALIGMENTS EXISTING TRACKS
(km)
NEW TRACKS
(km)
TOTAL SYSTEM
(km)
Phase I (Year 2000)      
Tangerang-Bekasi 18.2 18.3 36.5
Kota-Blok M   13.0 13.0
Sudirman Casablanca   3.6 3.6
Sub Total Phase I 18.2 34.9 53.1
Phase 2 (Year 2005)      
Airport Spur   5.0 5.0
Kelapa Gading Spur   6.0 6.0
Blok M-Cipete   4.0 4.0
Ciledug-Blok M   12.0 12.0
Sub Total Phase II   27.0 27.0
Phase 3 (Year 2010)      
Loop Line 27.7   27.7
Serpong Line-Pondok Kopi 10.5   10.5
Sub Total Phase 3 38.2   38.2
Phase 4 (Year 2015)      
Pondok Kranji-Serpong 8.5   8.5
Casablanca-Pasar Minggu   7.3 7.3
Casablanca/Sudirman-Loop   2.0 2.0
Ring Road-West Bekasi   6.7 6.7
Sub total Phase 4 8.5 16.0 24.5
Totals 64.9 77.9 142.8
 
3. ジャカルタ初のMRT
 公共交通の鉄道整備は、政府の資金だけでは不可能であるとされる。インフラ整備は、政府が民間と共同で行うべきである。
 
 政府に加え、10年前からは民間も、有料道路の建設・運営等、都市交通インフラの整備に関わっている。民間の参加は、ジャカルタ特別市が開発計画を達成する上で大きな支えとなっている。
 
 建設が計画されているのは、二層高架構造にして有料道路とLRT線を通すものである。このシステムはトリプルデッカーと呼ばれており、地上部分に幹線道路、その上にLRT線、さらにその上が有料道路となっている。
 
4. コタ−ブロックM線(MRT)
 計画の第一段階に盛り込まれているコタ−ブロックM線(南北を結ぶMRT)は、最適化段階であり、ヒトやモノの移動コストを引き下げることができる。この路線は、南ジャカルタの住宅地域とSudirman-Thamrim回廊沿いの商業地域の間を中心とした交通需要を満たすとともに、他の地域から回廊沿いの目的地までの移動に資することを目的としている。
 
 コタ−ブロックM線は、地上の駅付近を除いて全線が地下を走るが、この計画の実施に当たっての課題は、単に技術的なものだけではないとされている。明らかに一般市民の利益となる事業の早期実施につながる方法を開発することも、同様に重要である。
 
5. 第二重点路線
 次に整備すべきなのが、DURIとCAKUNGを18.3kmで結ぶ大量輸送線である。これは、運輸省が出した総合交通網案MRT実施計画の第一段階として挙げられたタンゲラン−ブカシ線(東西回廊)の一部である。
 
 ジャカルタ市のマスタープランでは、東西方向の都市開発が計画されており、ボゴールと南ジャカルタの間の自然資源を保護するために、南への拡大を抑制することが提言されている。そのため、東西回廊の大量輸送システムが不可欠となっている。
 
 この大量輸送システム路線は、商業中心地区、特に、モナスの北側(ジャカルタ港地域の一部)とケマヨランの新興商業住宅地区を対象としている。この路線の東部分は、プロガドンやチュンパカプティなどの地域を対象とし、既設のブカシ線と接続する。
 
6. まとめ
交通の需要が供給を上回ると、渋滞、交通機関の遅れ、運賃の上昇等につながる。これを踏まえ、作業グループは、1990年代前半に政府が委託した一連の調査を元に、「総合交通網」と呼ばれる2015年大量輸送マスタープランをまとめた。この総合交通網に基づき、いくつかの鉄道路線の建設を実施することが提言されている。
 
いずれにしても、ヘビーレール、ライトレールを問わず、鉄道がジャカルタにおける公共交通システムの中心となる必要がある。
 
ジャカルタ初のMRTは、ジャカルタ−スルポン間の住宅地区と商業地区の交通需要に対応することを目的として、有料道路とMRTが組み合わさったものである。
 
建設が予定されているもう一つのMRT線は、総合交通網の第一段階に盛り込まれているコタ−ブロックM間の地下鉄である。建設に最適な区間を決めるために、コスト分析が行われている。







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