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5.3 船舶分野におけるインシデント情報の報告、活用体制
(1)パイロット・セーフティー・レポーティング・システム(Pilot Safety Reporting System(社)日本パイロット協会)
 水先人のPSRSシステムにおける情報の流れは以下のとおりである。
 なお、報告書のセキュリティーの確保は、報告制度の運用において最も配慮すべき事柄であることから、分析組織内においても報告書の開封担当者を限定し、当該担当者が開封後速やかに内容を転記するとともに、報告者及び報告者を特定できると考えられる記述を抹消し、秘匿性を確保することにしている。
 
 
受信:  堅固な施錠された郵便受け、もしくはパスワードによって保護されたE−Mailによって、受領する。
開封:  開封は総括指導者もしくは事務局長の専権事項とする。
   開封された報告は一連番号を付してPSRS管理台帳に記入の上、専用ファイルに保管する。
保管:  保管は施錠された堅牢なロッカーを用い、開錠は事務局長の専権とする。
分析の開始:  管理台帳に記入後、担当分析委員及び専門委員を指名し、分析に必要な海図などの資料収集を行う。
   また、必要に応じて詳細な追跡調査(コールバック)を行う。
分析作業:  担当分析委員は、担当専門委員と協議のうえ得られた情報を基に、バリエーションツリーの作成その他の分析作業を行い、各月の分析会議に諮って問題点と対策の検討を行う。
問題点の整理と対策の立案:
   各月の分析会議においては、分析結果の補強ならびに問題点の整理、対策の立案などを出席者全員で行い、多角的な視点から検証を行う。
報告者に対する連絡:
  (1)報告受領時: 受領御礼と分析作業開始のお知らせ
  (2)情報収集終了時: 報告者及び当該状況を特定できると思われる部分を切り離し、礼状を添付して返送
  (3)作業終了時: 分析結果、政策策定ならびにその実施状況などを最終的に通知
データベースヘの入力:
   分析作業終了後、事後の検索の用に供せるようにキーワードを設定し、必要事項をデータベースに入力する。
日本パイロット協会への報告:
   海難防止研究会定例会議において報告するほか、重要かつ緊急性のある案件については、その都度検討結果を(社)日本パイロット協会に報告する。
 
(2)我が国の海運会社における現状
(1)A社
 自社運航、自社乗組みという運航形態のLNG、VLCC約20隻及び関連の15社からなるSMS管理委員会(A社と同様のISMコード上のマニュアルを使用している。)の約200隻を対象に、ヒヤリハット・ニアミス関係の報告を収集している。
 ニアミス報告として収集したものを、通年ならびに4半期ごとに集計して統計処理をし、これを安全情報として周知し、注意喚起を行っている。
 平成13年度の1年で約1,300件(災害、疾病といった安全衛生分野を含む。)が報告され、このうち、いわゆる海難につながるようなものは約3割であった。日本の社会ではインシデント情報を集めるのは難しいとの感想を持っている。
 特に危険なニアミス報告については改善策、注意喚起をあわせて各船舶に「シンク・セーフティ」として、月1回以上フィードバックしている。また、関連のグループ会社には「ニアミス報告トピックス」というレターで紹介している。
 外国のマネージメントを含む全運航船舶に軽微なものは「安全情報」として英文で周知している。
 海上社員については注意喚起、情報の通達に加えて、昇進時の乗船前の研修にも利用している。
 
(2)B社
 海難事故の未然防止のために、平成11年11月からニアミス情報を直接管理しているLNG船のみを対象にして始めた。コンテナ船、PCC等、間接管理している他船種のニアミスについては各管理会社が情報を収集・管理している。現在、当社グループは約500隻運航管理しており、そのうち約250隻には船主としての責任があり、ISM(国際安全管理制度)やISO 9001:Ver.2000と呼ばれる品質管理の手法を用いて、精度の高い「独自の安全管理システム」を導入している。また、社内に社長を頂点として「安全運航管理委員会」なる組織を設置して、全運航船の安全管理維持と事故発生時の再発防止策を展開している。
 インシデント情報の報告は、ISMコードで要求されていることでもあり、船舶管理会社、船舶の船長、スーパーインデンデント、並びに本船の検船員等からシステム的に報告されるようにしている。報告フォームを整備しているが、月2、3件程度の実績で、今まで報告されたインシデント情報は300件から350件であるが、例えば衝突に係わるようなものは数えるほどである。
 サンプル数が少ないため傾向を分析するまでには至っていないが、個々に発生した重要な事象や前向きな提案については安全管理の観点から対応策として検討し、予防処置或いは是正措置として、船舶管理会社や傭船船主並びに本船に安全対策を周知徹底している。
 
(3)C社
 当社は内航船社で、フェリー2隻、内航のRORO船3隻の計5隻を運航している。2年前に、安全運航推進委員会を立ち上げて、6ヶ月間海難事故ゼロキャンペーンを実施した。その時にヒヤリハットの調査を行い、それを分析して事故の未然防止に役立てることを思いつき、調査結果を基にヒヤリハット集を作ることとした。報告フォームにハインリッヒの法則を取り入れて実施し、全乗組員140人を対象に報告を求めたところ、154件の報告があった。報告書は無記名、船名、職名等は一切なしとして行ったが、2000年5月から始めて昨2001年4月ぐらいで止まっているのが現状である。おそらく、船長は自分の恥ということで報告が少なく、セコンド以下からの報告が多いのではと思っている。
 ヒヤリハット集を作成して全船に配付し、「今のところヒヤリで終わっているけれど今一度考えを新たにして下さい。」と周知している。
 
(4)D社
 事故災害ゼロを目指して毎月、定期的に安全会議を開催し、その会議資料の一部として昭和55年頃からヒヤリハットの報告書を用いており、ヒヤリハットの原因や対処方法など検討した結果を再び船主、船長に返すという方策を取ってきた。
 この会議資料を一度限りの会議に利用するだけということではなく、数年分を集約して似たような事例をグループ毎に集めて発生順に並べ、概要については船の人にイメージしてもらいやすいように漫画を描いたヒヤリハット集を作成したところ社内から評判を得た。
 しかしながら、自分の失敗、恥ずかしいことを人に知らせることのためらいが船員にあった。
 その他、ヒヤリハット報告を阻む理由は、次のようなものが考えられる。
(i) 事故にならなくて良かったが、そのようなまずいことをいつもしているのかと見られる。
(ii) 報告書を書くことが非常に面倒である。
(iii) 報告書を書いても、それをどのように有効活用してくれるのかが見えてこない。報告書を書くだけだったら何の役にも立たないのではないかという思いがある。
 このため、ヒヤリハット報告書は出来るだけ簡単な様式でないと長続きしないこと、報告された情報はきちんと分析・検討し、報告者に活用され、生かされているという満足感を持ってもらわないと報告するという使命感が芽生えないと考えた。
 ただし、各船舶、船員の感性も違い、自主的に報告してもらう現行のシステムにこれ以上を求めるのは限界があると思う。
 現行の海難審判のシステムでは、どうしても責任追及型にならざるを得ない。その点、事故に至らなかった、間一髪で避けたヒヤリハットは責任の追及は全くなく、いろんな面から自由な話が聞けると思う。







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