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(2)事例調査の結果
 続いて、事例調査をいくつか行っておりますので、その一部をご紹介したいと思います。
(1)さいたま新都心(さいたま市)
 ここは大規模な都心の再開発が行われている所で、「総合案内所」と「ふれあいプラザ」のふたつの有人案内窓口があります。
 さいたま新都心駅構内にある「総合案内所」では、視覚障害の方に対して、街の中を移動していくとそれぞれのポイントで案内が聞けるトランシーバーのようなものを貸し出しています。
 もう一方のカウンター「ふれあいプラザ」は駅ではなく街の中央部の広場近くにあり、カウンターには職員として雇用された方が座っていますが、奥の方はNPOの活動の拠点になっており、事前に「ある日どこそこに行きたい」とお願いしておくと、このNPOの方が道案内など人的サポートをしてくれます。
 
会場風景
 
 活動自体はこのNPOが自発的に実施しており、場所の提供のみをさいたま市と埼玉県で行っているという、官民の協力事例で、ハード面だけではなくソフト面まで踏み込んでやっているというのが特徴です。
(2)阪急電鉄伊丹駅(兵庫県伊丹市)
 ここは阪神・淡路大震災で全壊したため、駅ビルや駅前広場などを一体としていちから作り直したわけですが、マスタープラン的な早い段階から関係者、行政と事業者に加えて、身障者、高齢者の方々も参加し、利用者の立場からいろいろな意見を出したことが特徴です。
 そのなかでさらに具体的な問題は、ワーキンググループを作り、会議を原則オープンにして意見を取り込んでいく、あるいは意見を取り込んだ結果を実際に完成する前の段階で、内覧会の形で検証するといったことを行っています。
(3)京浜急行電鉄上大岡駅(横浜市)
 ここは再開発などいろいろな事業を行っているのですが、いわゆる施設整備の部分は都市計画局が担当で、利用者の意見を反映させるのは福祉局が窓口になっています。この庁内の連携が比較的円滑であったことで、ひとつの事例として挙げられます。ただハード面ではまだ課題が残っていて、開発途上のようです。
(4)知多市(愛知県)
 ここは利用者の意見と事業者、行政の実際の取り組みを調整する役割を担う方としてアドバイザーを採用し、その方に調整をお願いしています。具体的には、愛知県でアドバイザーの認定制度があり、NPO法人の形をとって、そこに委託するという形でやっているとのことです。
 そのアドバイスや調整結果を踏まえて、行政では5年間に集中的に予算措置をし、縦割りになりがちな部分を、行政の財政当局がそうならないようにバックアップしたそうです。
(5)藤沢市湘南台(神奈川県)
 ここは住宅地区のバリアフリー化をする際にワークショップを作り、住民が自分達で意見をとりまとめる形を採っています。利用者、住民自らが計画を作っていくので、非常に柔軟な対応、認識の共有化はできますが、かなり市役所の職員が時間と労力を費やしているとのことで、今後は、先程の愛知県の事例で申し上げたようなNPOの活動などが必要になると思われます。
(6)高山市(岐阜県)
 通常、バリアフリー化は住民を対象として考えているのですが、観光地の場合には利用者が定常的に決まっていないので、バリアフリー化にはニーズの把握が非常に難しいと思います。
 高山市では、モニター旅行を市で主催し、モニターで参加された方々の意見・感想からニーズを把握しています。具体的にはハードはもちろん、受け入れ体制などソフト面のマニュアル作成等に役立てているという事例があります。
(7)町田市(東京都)
 最後3つは、施設のバリアフリー化をこえて、移動手段の確保の事例です。
 ひとつは町田市で、ここは72年から車椅子専用送迎車による移送サービスを始めるなど全国的にはトップランナーなのですが、「車いすで歩けるまちづくり」をハード、ソフト、両方で推進しています。ただ、全体の調整が難しく、「福祉のまちづくり総合推進条例」を作って調整に努めているとのことで、この辺はかなり難しい課題になっていると思います。
(8)武蔵野市(東京都)
 これはもう有名な「ムーバス」の事例です(図5)。これは今のコミュニティバスのはしりですが、成功した一番の要因は、高齢者を中心とする利用者の活動のニーズを非常に良くフィードバックし、対応しているところと言われています。
 それからもうひとつ、「レモンキャブ」ですが、は地元の商店街の方を中心とするボランティアと市が共同で、ドア・ツー・ドアの交通サービスを提供しており、バリアフリー化を考えるときに、そういう地元の商店街とか商工業者の参画というのも、新しい視点であると思います。
 
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図5 東京都武蔵野市:官民連携による交通サービス提供
 
(9)中村市(高知県)
 最後はデマンドバスをもう少し高度なものにしている例で、電話やインターネットを使ってどこからどこに行きたいというのをオーダーすると、数分後には自分が乗車したい停留所にバスが到着し、目的地までの最適ルートを選択してバスが運行される、乗り合い型のサービスが限りなくドア・ツー・ドアに近い形になるシステムを実施しています。
 これも、かなり利用者が増えており(一日あたり約7人が約30人に)、実用化や事業性が改善されている状況にあると思います。
 以上、アンケートの調査結果、事例の調査結果をご紹介しましたが、課題を整理すると次のようになります(図6)。
 
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図6 交通と街づくりのバリアフリー化に向けた課題
 
 バリアフリー化の場合はニーズにきめ細かく対応していく地道な対応がどうしても欠かせないということと、当事者が非常に多くなるので、4点目にあるような推進体制、あるいは5番目にあるような利用者も含めた参加促進など、仕組みづくりが非常に重要になると思います。
 さらに、計画をしてから実施の段階、それからチェックをして、また改善する、このような形で絶え間なく、継続的にやっていくのが重要であることと、計画段階が非常に重要であるということで、推進体制、利用者ニーズの把握、事業内容の検討、役割分担、費用負担の検討、こういったものが必要だということです。
 それから、施設整備とかサービス提供では、きめ細かさ、あるいは施設のみならず人的な対応をしていくことが必要だと思います。







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