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Interview
三菱重工業(株)長崎造船所を訪ねて
 今回お訪ねしたのは、三菱重工業(株)長崎造船所(長崎市)です。長崎造船所は、現在、世界最大級の豪華客船ダイヤモンドプリンセスを建造中で、5月25日に進水式を終えたばかりでした。
 出迎えてくださったのは、船舶業務部福田部長代理さんです。造船所に向かう車の窓から、長崎港に浮かぶダイヤモンドプリンセスの白い船体が見えたので、まずは月並みな質問。
 
大きいですね。
 そうですね。ご存知のようにクリスタルハーモニー(1990年、48621GT、全長241m)飛鳥(1991年、28717GT、全長192.8m)についで戦後同所で建造するクルーズ客船の3隻めとなりますが、一番大きいですね。
 
ダイヤモンドプリンセス
総トン数 約113,000 総客室数 1,337
全長 290.0m 海側客室率 72%
船幅(最大、デッキ9) 41.5m 海側バルコニー付客室率 56%
水面上高さ 54.0m 最大乗客収容力 3,100
計画喫水 8.05m 乗員室数 650
運航速力 22.1knots 最大搭載人員数 4,160
 
どこを航行するのですか。
 アメリカ航路です。
 
完成はいつですか。
 来年の初夏です。
 
まだ1年もかかるのですか。
 はい、契約が2000年の2月末、それから設計、起工、今年の5月末に進水式、来年初夏に引渡しですから約3年半かかることになりますね。手づくりの船といえるでしょうか。
 
この頃、クルーズ旅行の広告をよく目にするようになりましたが、クルーズというのはまだ私達にとって馴染みが薄いと思います。クルーズ船というのはどんな船ですか。
 一言で言ってしまえば海の上のホテルです。客船というのは自己完結社会なんです。つまり、すべてを自分で生み出し、処理をする。貨物船は物を運んでお金をいただきますね。いかに多くの貨物を運ぶかがカギです。客船は人間を運びます。お客様からお金を頂戴します。お客様は航海中は船から、外には出れません。だからお客様に楽しんでいただけるように多くの施設、設備が必要だし、多くのお客様の多様な嗜好にあったものが必要とされます。船内には様々な施設があります。レストラン、ラウンジ、病院、チャペル、シアター、ジム、プール、エステ等です。
 
船自体がひとつの社会なんですね。ところで、ダイヤモンドプリンセスは環境にやさしい船と聞きましたが、どうやさしいのですか?
 クルーズの醍醐味は美しい自然をゆったりと味わえることだと思うんですよ。
 例えば、アラスカクルージングがありますが、アラスカは自然を守るために環境保護に関する規制がとても厳しいところです。
 ですから私達も、船の煙突から出る煙を出来るだけ少なくする排煙低減型発電機関、ガスタービンとの複合型発電装置、船内汚物・汚水処理装置等、自然を守るため、最先端の設備を用意しました。
 考えてみてください。船内人数は約4千人ですから、そのゴミの量はものすごいものですね。例えば、ビンは砕いてパックに入れて港につくまで保管します。缶も圧縮してパックに入れます。燃えるゴミ(生ゴミ)はミキサーのようなものでドロドロにして、水分を分離させます。そして水分が無くなったかすを焼却します。焼却した際の灰はパックに入れて保管し港で処理します。また、焼却する時の排ガスは、焼却排煙処理装置で有害物質を除去するようにします。トイレ、風呂の水はバイオ処理で汚水を真水に近い状態に変えます。
 
船舶業務部 福田部長代理
 
徹底していますね。客船はいろいろなことに気を使わなければいけないのですね。
 そうですね。客船を作るとき、貨物船等の建造と一番違うのは物量です。
 クリスタルハーモニー、飛鳥を建造した時、私も営業にいて、仕事に携わったのですが、今回は前の2船と比べても更に物量が違うのです。
 
物量といいますと?
 電線、パイプ、ダクト等は膨大な物量で、一般商船と比べて数十倍から百倍以上になるものもあります。また、今回、機器、設備、調度品、ほとんどが外国の製品なんです。
 
なぜ外国の製品なんですか
 外国(ヨーロッパ)は日本より10年早くクルーズ船の建造に取りかかりました。ですからサプライヤーも一緒に育ってるわけで、やはりクルーズ船に関する製品はあちらの方が優れています。ということで、物のほとんどを外国から購入するのですが、例えば、機器は海外の工場から製造、出荷します。もちろん製品のテストには立ち会いますが、納品までに2〜3ケ月かかります。もし、納品されたものがうまくいかなかったらどうしますか。リスクが大変大きい。その対応を考えていないといけません。そこが違うのです。
 
福田部長代理は、ダイヤモンドプリンセス建造プロジェクトのなかで何を担当していらっしゃるのですか。
 私はコーディネーターです。お客様との交渉、また全体からみた各チーム間のコーディネートをします。
 プロジェクトには、設計、工作、それぞれにキーマンがいますが、他に専従スタッフがそれぞれに数十人います。また多様な施設を作るために様々な業者さんが入りますから、合わせて1千人規模で仕事をしているといえます。たくさんのチームがマトリクスの形で仕事をしていますから、インターフェイスが大変重要になります。例えば、同じフロアで3つの会社が同時に作業をします。作業の物(パーツ)をどこに置くのか、いつ運び込むのか、どうやって運び込むのか、そのためにはどのような調整が必要なのかといったことです。
 
想像しただけで頭の中がパニックになりそうですが。
 私が最も大切だと思ってることは、情報をタイムリーに共有する(共有させる)ことです。
 適切なコーディネート、適切なリスク管理。同時進行の仕事をしていますから、コーディネートが非常に重要だと思います。
 
完成まであと1年ですね。
 先日進水式が終わりました。進水式というのは確かに建造過程におけるランドマークなんですね。でも一息ついたという気がしません。引渡しに向けて忙しい日々が待っています。
 引き渡して初めてホッとするのかもしれません。
 
 インタビューを終えて、あらためてダイヤモンドプリンセスを見ると、大勢の作業員の方達が巨大な船体のあちこちで作業をしていました。ダイヤモンドプリンセスは何千というアリ達が一生懸命働いて作り上げる、巨大な、精巧な、優美なアリ塚のように見えました。
 







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