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2003/03/27 産経新聞朝刊
【正論】イラク戦争 国連でなく民主自由連合を結成する時
拓殖大学国際開発学部教授 森本敏
◆機能不能の安保理
 十二年前の湾岸戦争が、湾岸秩序を回復するために行われたとすれば、今回の「イラクの自由」作戦は、国際社会の構造を根本的に変質させてしまうほどの意味合いを有している。今回の、イラクへの査察や武力行使問題をめぐり、国連安保理が機能しなくなっていることは明確である。
 国連は本来、第二次大戦後における国際社会の平和と秩序を戦勝国の共同管理によって維持確保しようとしたシステムである。特に、戦勝国の代表国である安保理常任理事国は、他の加盟国とは比べ物にならないほど大きな権限と責任が与えられているが、それは国際社会の平和と安定を維持するためにこそ、使用されなければならない。
 しかし、実際には常任理事国が自国の国益や国内政治やエゴを国連に持ち込んで拒否権を行使し、ために国連は冷戦期から殆ど機能しなかった。わずかに国連が活動したのは、経済社会理事会の所掌である経済・文化・科学・教育・衛生・環境・人権・開発などである。
◆国連は幻想だった
 国連は冷戦後にようやく、本来の機能を回復したかに思えたが、それは幻想であったことが今回、はっきりした。日本は従来から、外交政策の基本軸を国連中心主義においてきた。しかし、国連による国際秩序は正義でも真理でもなく、安保理常任理事国の馴れ合いと談合、エゴの世界である。日本がこのような国連に幻想を持ち続けたのは誤りである。日本ではまた、米・英の武力行使が国際法に照らしていかなる法的根拠があるのかという議論が盛んに行われている。
 しかし、米・英両国と仏・独・ロシアが安保理決議の解釈を巡って、立場が分かれること自体、安保理が機能しないことを証明するものである。
 本来、米・英では政策と国家の意思が先にあり、独・仏は法律的根拠が優先されるという違いがある。日本は明治以来、近代日本を建設するにあたりプロシア、フランスなど欧州大陸国から制度を取り入れたこともあり、独・仏と同じ性格を有する制度を持っている。また、それが日本人の思考過程に大きな影響を与えてきた。
 従って、政策決定に際して、法律上の根拠を求める習慣がついており、法律や憲法の枠内でしか政策の選択をしないのであり、国家の国益や意思をどうするかという議論を優先してこなかった。米・英はイラクの大量破壊兵器問題とテロという深刻な問題に如何に、取り組むかという観点から政策決定をしたのであり、国際法上の解釈は議会や法律家がやることであるという態度である。
◆憲法を草案すべきだ
 ロシアは今回、米・英の武力攻撃には根拠がないといっているが、冷戦期にハンガリー動乱、プラハの春など侵略行為を繰り返し、拒否権を行使して安保理決議を阻止してきたのはソ連であり、論拠に欠ける。いずれにせよイラク問題をめぐって米・英と仏・ロ・中は分裂し、結果として安保理は機能しなかった。この分裂の背後に米国の一極性(ユニラテラリズム)に対する仏・独の反発があることは明らかであり、ロシア・中国もこれに同調しているとすれば、この分裂は修復不能である。このような、国連安保理に日本、ドイツが常任理事国入りすると、安保理はもっと分裂する。日本の安保理常任理事国入りは幻想である。国連は最早、第二次世界大戦後半世紀の役割を終わった。このような国連を今更、立て直してみても意味はない。
 冷戦後の国際秩序は価値観を中心とする構造になりつつある。どのような価値観を国際社会の秩序と繁栄の基準とするかを慎重に選択し、米国、英国、日本など自由、民主主義、自由経済に基づく繁栄といった基本的価値観を共有する諸国間で、国際連合ではなくて、民主自由連合を結成する時期が来ている。
 これに参加したいという国家には、門戸を開放すべきであるがその際、共有する価値観の基準を設定すべきである。この民主自由連合は、加盟国が緩やかな運命共同体として共通の価値観を追求する限り、同盟国として戦うことを約束するものでなければならない。日本としては、この新連合の結成にイニシアチブを発揮し、日本がこの新たな連合に参加する決定を行うに際して、新連合の精神に基づく日本のありかたを決める憲法を草案すべきである。
(もりもと さとし)
◇森本敏(もりもと さとし)
1941年生まれ。
防衛大学校卒業。
外務省・安全保障政策室長、野村総合研究所主任研究員を経て、現在、拓殖大学教授。
 
 
 
 
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