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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/04/19 産経新聞朝刊
【正論】イラク戦争─自主防衛体制の整備こそが不可欠だ
京都大学教授・佐伯啓思
 
<<イラク戦争の教訓とは>>
 アメリカの対イラク戦争は比較的短期間に一応の決着がついた。では、この戦争の教訓は何だったのだろうか。
 日本政府は米英によるイラク攻撃を支持し、この決断は、多くの論者によって強く支持された。すでに反戦平和主義が破綻していることは明らかである。また、今回の事態は、平和的機構としての国連という戦後日本に特有の幻想をも打ち砕いた。結構なことである。何よりも、今回のアメリカのイラク攻撃は、もはや国連に事態を委ねることができないという点でも、それぞれの国の主体的な決断を迫ったのであり、日本も例外ではなかった。その意味では、この戦争は、日本にとっても決して他人事ではなかった。それは十二年前の湾岸戦争という「国際的制裁」とは全く性格の異なったものであった。
 だがそれでは、日本の「決断」とは何であったのか。
 いうまでもなく、アメリカとの「同盟」を強化するということである。ここには、いくつかの判断があった。第一に、国連はもはや機能せず、今後の世界は、各国の国益をめぐる「同盟関係」によって維持される。第二に、アメリカは圧倒的な軍事力と世界への影響力をもち、かつ自由・民主主義の価値観を掲げており、アメリカとの同盟こそが日本の国益となる。さらに第三に、北朝鮮問題においてアメリカの軍事的支援を得なければならない。わが国は、アメリカと協調する必要がある。この三つだ。
<<米国との協調が国益か>>
 だが、これらの論拠は本当に正しいのだろうか。第一に、アメリカの単独主義というものは、厳密にはあり得ない。だから、今回のイラク攻撃でも、アメリカは最後まで国連にこだわり、しかもかつての国連決議まで攻撃の正当性に持ち出したのである。
 そもそも国連とは、諸国家の利害の衝突と駆け引きの場であって、一般的にはそこでの紛争解決は困難だ。しかしまた、国際的同意や協調を取りつけるための重要な場でもある。その意味では、「国際主義」と「単独主義」を対立させることに無理があって、何らかの国際的合意を背後に置かねば、そもそも単独主義も機能しないというべきだろう。したがって、アメリカの軍事力がいかに突出しようと、アメリカが単独で世界の秩序を維持するという「帝国」は形成されえない。言い換えれば、アメリカとの「同盟」さえ維持すれば、世界秩序の安定を享受できるというものではない。
 第二に、北朝鮮問題についても、今後のアメリカの対応が不確定な以上、どうして、アメリカとの同盟維持が、北朝鮮問題についての日本の国益だと無条件にいえるのだろうか。アメリカは再び、国連を通した国際主義に戻る可能性もあり、そうすれば、安保理での中国、ロシアとの対立は避けられないだろう。その時に、アメリカがいかなる行動に出るかは現状では、予測しがたい。
<<米国への支持は賢明な判断か>>
 私は、日本政府がアメリカのイラク攻撃を支持したことを批判するつもりはない。それ以外の選択肢は現状ではあり得ない。安保体制を前提とすれば、当然のことだ。しかし、それを賢明な判断ということはできない。まして、それを無条件に日本の国益というわけにはいかない。問題は、他の選択肢があり得ない、というところにこそある。
 「同盟関係」とはいえ、日米関係はきわめて変則的なものであり、対等な同盟ではない。この場合、対等なとは、軍事力の格差はあっても、それぞれの国が自国の防衛について、自主的判断と選択をなしうるという共通認識を前提にできる、ということだ。つまり、正常な同盟のためにも、まずは自らの手で自国を防衛するという自主防衛体制を整備することが不可欠である。「北朝鮮の脅威から国を守ってもらうためにアメリカを支持する」というのは、賢明な判断というより、屈辱的な選択として論じられるべきことではないのか。アメリカのイラク攻撃の支持の前に、日本の自主的な防衛体制(テロとの戦争でもある)の構築という見通しを論じるべきではないのか。自国の防衛という「自由」の最も基本的なレベルでのアメリカへの全面依存(変則的な「同盟」)こそが、戦後日本の国家感覚を麻痺させてきた元凶だからである。
(さえき けいし)
◇佐伯啓思(さえき けいし)
1949年生まれ。
東京大学経済学部卒業。東京大学大学院修了。
滋賀大学助教授を経て、京都大学教授。
 
 
 
 
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