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2003/03/24  毎日新聞朝刊
[論点]イラク戦争 日本の立場は─国連抜きの開戦反対
小沢一郎・自由党党首
◇自立国家として安全保障の原則を確立
◇自ら汗をかき、米に直言できる立場築け
 国連の武力行使容認決議なきイラク戦争は「国家リンチ」に等しく、反対である。大量破壊兵器対策とテロ対策が冷戦後の国際社会の重要課題であることは誰も異論がない。国連決議に反して大量破壊兵器を隠匿してきたイラクのフセイン独裁政権を放置できないことも、あまり異論がないだろう。しかしそれでも、イラクへの武力行使はあくまでも、国連憲章に基づく国連の軍事行動として実施されなければならなかった。
 米国等が国連決議を得ないまま開戦を強行したことは、今後の国際政治、国際安全保障において、米国自身にとってもその他の国々にとってもマイナス面が大きすぎる。肝心の大量破壊兵器の拡散防止とテロの抑止・根絶は、世界的な反米感情の高まりなど多くの不安定要素が生じる結果、かえって困難になる。
 ところが、小泉首相をはじめ日本政府が米国に対して、そのような重大懸念を指摘し、決議なき武力行使は絶対にしないよう自制を求めた形跡は全くない。一方、査察の継続を主張して米英と対立した仏独露中に対して、イラクの即時・無条件の武装解除のために最終的には国連として武力行使せざるを得なくなることもあり得ると説き、米英との協調を求めることもしなかった。
 国際社会に深刻な亀裂をもたらしたどちらの側にも有効な外交努力を全くしなかった。正確に言えば、有効な外交ができないのである。
 それはなぜか。首相は米国支持について「日米同盟を重視した。日本は武力行使も戦闘行為もしないのだから問題はない」と説明した。そこに「無力外交」の原因が端的に表れている。
 日米安保条約第1条は「国連憲章に定めるところ」に従って国際紛争を解決すると明記し、国連強化をうたう。つまり日本の安全保障は、2国間の日米安保体制と国連を中心とする多国間の国際安保体制が相互補完関係をなし、その二つが不可分一体の基盤となっているのである。
 ただし、それを有効に機能させるには、わが国は日本国憲法に基づき(1)国連で武力行使容認決議が行われ、国連から要請があれば、国連平和活動に参加し、軍事行動を含むいかなる協力も行う(2)国連決議がないまま米国などが独自に行う戦争には参加しない、との原則を確立し、誠実に実行しなければならない。
 政府のこれまでの憲法解釈では、たとえ国連決議が行われても、日本は国連の軍事行動に参加できない。しかし、国連の軍事行動は、憲法が禁じている「国権の発動たる戦争」とは全く異なる。
 日本が国際社会の平和と安定にどの国よりも努力してこそ、米国もその他の国々も初めて、日本の外交努力に真剣に耳を傾けるのである。米国に追従せず、米国の耳に痛いことも直言できるのである。日本がいま第一に行うべきことは、「自立国家」として、安全保障の明確な原則を確立し、それを内外に宣明し、他国のために黙々と汗をかくことである。その一事に尽きる。
◇小沢一郎(おざわ いちろう)
1942年生まれ。
慶應義塾大学経済学部卒業。
衆議院議員。自由党党首。
 
 
 
 
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