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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/05/26 読売新聞夕刊
[イラク戦争からの問い](1)衝撃と恐怖 圧倒的な力見せた米国(連載)
◆広がる無力感の行方は
 イラク戦争が事実上、終結した。しかし、米国が大義としたイラク民主化への道のりはまだ不透明だ。国際テロもやまない。北朝鮮の脅威もある。戦いは何を解決し、何を解決できなかったのか。米国が圧倒的な力を示した戦争が、われわれの文化状況や社会にもたらした課題は何か――。五回にわたり考える。
 「敵」の見えない戦争だった。精鋭と目されたイラク軍の姿はテレビにほとんど映し出されず、サダム・フセインの生死すら、いまだ明らかでない。大量破壊兵器も見つかっていない。
 見えない戦争で、圧倒的な印象を焼き付けたのが米国の存在だった。ハイテクを駆使した軍事力は、「戦争長期化」という一部の予想を覆し、首都バグダッドは、あっけなく陥落した。「戦争」と呼ばない識者がいるほど軍事力の差は歴然としていた。
 文芸評論家の福田和也は、従来の戦争観を一変した米英軍の「衝撃と恐怖」作戦に、今日の状況が象徴されていると語る。「イラクだけではなく、世界を力で畏怖(いふ)させる怪物アメリカ。それが現代世界にほかならない」
 福田は、昨年六月、米フーバー研究所の研究誌に発表された、米の新保守主義の代表的論客R・ケーガンの論文「力と弱さ」をもとに持論を展開する。ケーガンは、「欧州と米国が同じ世界観を共有しているふりをするのは欺瞞(ぎまん)」と指摘、世界の無法状態を終わらせることができるのは、強大な軍事力を持つ米国だけだと言い切っている。論文の通り、絶大な力によって、フセイン政権を粉砕した。「アメリカは自らの意志で怪物と化し、世界ににらみをきかせている」と福田は語る。
 イタリア在住の作家、塩野七生は『文芸春秋六月号』の連載「イラク戦争を見ながら」で、「結局は軍事力で決まるということ」「アメリカ合衆国への一極集中」「国連の非力」・・・などこそが、「見たいと思わなくても見るしかない現実」と指摘している。
 ブッシュ大統領の決断を「道義なき侵攻」とする批判もある。しかし、福田は「恐怖を振りまく怪物に、道義を求めるのは的外れ」と語る。「アメリカの怪物性を前に、善きこと、美しきことを語るのは難しい。誠実であろうとすれば、アメリカの空前絶後の破壊力に、おびえ、立ちすくむことから出発するべきだ。『それでも私はあきらめない』という人の気持ちはわかるが、感傷的な自己満足に過ぎない」とまで言う。
 塩野も連載で、日本の対外的な無力を指摘、対内的な「経済力再建のみに邁進(まいしん)する」よう提言している。
 こうした見方には、「米国の過大評価、日本の過小評価」という反論もある。対米支持を打ち出した神戸大教授の五百旗頭(いおきべ)真は、「米国は開かれた国だけに、自ら反省する力がある。米国の行動は、大局的には世界秩序にプラスになる。日本はともに行動することで内側から影響力を発揮できる」と分析する。
 ただ、巨大な力と非力の非対称という世界に生きる無力感、不安感を言う人は少なくない。ある哲学者は、「米国の行動には疑問もあるが、北朝鮮の脅威を考えると、発言しにくい。沈黙するしかない」と心境をうち明けた。
 反戦を表明した作家の島田雅彦にも屈折がある。島田は、戦争が嫌いという息子に「じゃあ、ディズニーランドも行かず、ハンバーガーもやめて抵抗しなくちゃ」と言ったら、「それはイヤ」と言われたという。米国は経済力、情報力でも世界をリードしている。島田自身、マイクロソフトの使用をやめられない。
 米国一極社会は嫌だけれど、それに抵抗するすべがないとしたら、どう生きるのか。島田は「ぐれるしかないのではないか」と語る。
 開戦の危機が高まっていた今年二月、読売新聞が発表した「全国青少年アンケート調査」によると、若者に無力感、絶望感が深まっている。中学生以上の未成年五千人の75%は「日本の将来は暗い」「今の日本は、努力をすれば、だれでも成功できる社会ではない」と見ている。
 この調査結果を見た精神科医の斎藤環は、『中央公論五月号』に「戦争を連日傍観しているわれわれの側に徐々に芽生えつつある圧倒的な無力感、もはや怒りや悲しみすらも努力なしでは喚起され得ない無感動、そうした徴候が若い世代にまで全般化してしまうのではないかというおそれのほうがリアルだ」と書いた。
 「強いアメリカ」がもたらした波紋は大きく、深い。(敬称略)
 
 写真=原田晋 「Window Scape - war『a fighter』」
 
 
 
 
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