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2003/04/18 読売新聞朝刊
強すぎる米国 突出した軍事力は警戒の対象(解説)
◆他国との協調には慎重姿勢を
 イラク戦争は米英軍の勝利で終わりつつあるが、国際社会には「強すぎる米国」に対する不安も見える。
(解説部 波津博明)
 
 フセイン体制の崩壊は、アラブ諸国民を除いて、世界が歓迎した。ただ、開戦をめぐって米国と対立した仏露などでは、その後も対米不信が続いた。
 仏有力紙ル・モンドが先月末行った世論調査では、「戦争でどちらに味方するか」との問いに対し、「米英側」と答えた人が多かったものの、その割合は34%に過ぎず、「イラク側」も25%に上った。そして31%が「どちらにも味方しない」だった。
 ロシアではもっと極端で、全ロシア世論調査センターの調査で、「米の軍事作戦の成功を望む」人はわずか13%で、75%もの人々が「失敗」を望んだ。かつて超大国だったロシアには屈折した心理もあろうが、北大西洋条約機構(NATO)の“準同盟国”となった国としては、驚くべき数字といえよう。
 一方、英国ではフセイン体制崩壊後、戦争支持派が63%、反対派23%と開戦前と逆転した(ガーディアン紙調査)。自国軍勝利という要素のほかに、フセイン体制打倒に広範な共感があったことは間違いない。仏露でもフセイン体制崩壊を惜しむ声はほとんどないはずだが、にもかかわらず、かなりの人が「米国には勝ってほしくない」と思った。これに似た“居心地の悪さ”は仏露以外にも、また米支持派の中にさえ見られる。
 原因の一つは、米軍が強すぎるという事実そのものにあろう。米国の軍事予算は三千二百億ドルにのぼり、一国で世界の軍事費全体の四割を占める。第二位のロシア以下十五位までの十四か国を合わせたのと同じ額だ。世界はこの史上空前の超大国が、イラクでその力を解き放ち、相手を一蹴(いっしゅう)するのを見た。
 英国は十九世紀後期、第二位と第三位の国(仏露)を合わせたのと同等の海軍力を保持する「二国標準主義」のもと、当時としては「突出」した一位を維持したが、現在の米の地位とは比較にならない。また陸軍に関しては、英国は「強国の一つ」でしかなかった。
 米国ほどの比類ない軍事大国は、それだけで畏怖(いふ)と警戒の対象になりうる。同盟国を含め他国との協調のためには、とりわけ慎重なスタイルが求められよう。しかし、ニューズウィーク誌国際版のファリード・ザカリア編集長は、昨年インタビューした十数か国の政府高官のうち、「イスラエルと英国を除くどの国の高官も、米の姿勢に屈辱感を抱いていた」という。単独主義そのものへの反発もあろうが、氏は「他国の神経を逆なでする外交スタイル」を問題にする。
 たとえば、ラムズフェルド国防長官の「古い欧州」批判や「英国なしでも戦える」といった発言は不要な摩擦を生んだが、同長官ら政権強硬派に連なる新保守派(いわゆるネオコン)の発言はもっと刺激的だ。国防政策諮問委員会のリチャード・パール前議長は「フランスはもはや同盟国ではない。抑止対象にすべきだ」と、仏を冷戦時代のソ連の位置に置いた。ネオコンの代表的論客ロバート・ケーガン氏は、欧州のように国際法を重視するのは弱小国の特徴とし、「米国人と欧州人が同じ世界観をもっているふりはもうやめるべきだ」とまでいう。
 こんな言葉が政権やその周辺から頻出すれば、他国が不安や「屈辱感」を感じても不思議ではない。世界は米国がその力をどう使うか固唾(かたず)をのんで見守っているのである。
 
 
 
 
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