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私はこう考える【イラク戦争について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2003/04/11 読売新聞朝刊
[イラク後の世界](1)「圧政国家」に警告(連載)
 
 「バグダッドの『壁』が崩壊した」
 九日午後、首都中心部フィルドス広場に群がった市民や米海兵隊員が、サダム・フセイン大統領の像を引きずり倒し、歓声を上げた時、スペインのアスナール首相は、それを一九八九年のベルリンの壁崩壊になぞらえて語った。仮に米軍の周到な演出がそこにあったとしても、全世界にテレビ中継された、この光景は、フセイン体制崩壊を象徴しただけではない。依然、この地球上に残るいくつかの圧政国家に対する無言の警告でもあった。
 冷戦が終結する前に、東欧諸国ではレーニンやスターリンの像が市民の手によって次々と倒されていった。その光景が我々の記憶から消えないのは、それが一国の独裁体制の終えんにとどまらず、世界の地殻変動の序曲だったからにほかならない。
 フセイン像の引き倒し劇も、それが中東と世界の政治地図における大きな変動の時代の始まりを示したところに大きな意味がある。
 米国は二十一世紀の安全保障の最大の課題である国際テロ防止と大量破壊兵器拡散の阻止を訴え、イラクの民主化を掲げて、ある意味で強引に戦争に突入した。だが、それによって、隣国を二回も侵略し、中東地域の大きな不安定要因であったフセイン政権は、開戦後わずか三週間の戦闘で崩壊した。
 戦争が長期化すれば、石油価格の高騰などで世界経済をさらに苦境に追い込むのではないか、という戦前の懸念は完全に払しょくされた。
 しかも、今回、兵力計三十四万人を投入した米英軍の死者は今のところ、湾岸戦争(一九九一年)時の多国籍軍戦死者二百四十四人を下回る百三十一人。イラク側には相当数の死者が出ているが、少なくとも米英側にとって、予想以上の成功だったのは明白だ。
 米国は、新たな安保理決議という国連のお墨付きなしに、「有志国の連合」(新国家安全保障戦略=ブッシュ・ドクトリン)で、この戦争に突入した。先制攻撃を辞さないとしたブッシュ・ドクトリンの初めての適用でもあった。「国際協調」を主張して譲らなかったフランスなどの反発は織り込み済みの決断だった。
 その中での劇的な勝利は、米国が、国連や米欧同盟に頼らなくても、問題解決に単独で乗り出し、新しい世界秩序を生み出す力を有していることを、改めて世界に見せつけた。
◆紛争解決「有志国連合」で
 バグダッドでフセイン大統領の像が引きずり倒された九日朝(米東部時間)、チェイニー副大統領は、ニューオーリンズのホテルで開かれた全米新聞編集者協会の会合に招かれ、イラク戦争勝利への強い自信を披歴していた。
 「開戦初期は、テレビで戦況解説する元将校らに作戦をあれこれと批判されたが、実際は、日に日に戦果が上がっている」
 演説の鍵は、米同時テロで顕在化したテロの恐怖と大量破壊兵器の脅威を「二十一世紀の(文明社会への)挑戦」と位置づけたことである。その上で、冷戦時代の「抑止と封じ込め政策」は、大量破壊兵器を持つ“ならず者国家”には通用しない、との持論を展開し、ブッシュ・ドクトリンの妥当性と、その理論を実践に移したイラク戦争の正当性を説いた。
 「湾岸戦争時の半分以下の陸上兵力と三分の二に満たない空軍力で、湾岸戦争をはるかにしのぐ目標を達成している」
 十二年前、米国は国連安保理決議を背に、二十八か国からなる多国籍軍を主導した。当時のブッシュ大統領は、勝利演説で、「国連の勝利」とうたいあげた。多国籍軍型の国際危機管理体制の定着に期待が高まった。
 だが、十二年という時間の経過は、息子のブッシュ大統領をして「安保理は責任を果たさなかった。だから米国が立ち上がるのだ」(三月十七日の最後通告演説)と言わせるまでに、米国と世界の関係を様変わりさせてしまった。
 国際社会の危機管理が、もはや「国連中心」では立ち行かなくなってしまった現実を示したものともいえるだろう。
 もちろん、戦後統治をめぐっても主導権を確保し、国連の関与を限定しようとするブッシュ政権の姿勢には批判がないわけではない。イラク戦争支持を強く打ち出しているワシントン・ポスト紙でさえ「欧州や国連をのけ者にしてのイラク復興や民主化は不可能だ」と、極端な一国主義への傾斜と自信の裏に潜む危うさに警鐘を鳴らし始めている。
 しかし、米国が、新しい安全保障戦略で想定しているのは、はるかに軍事技術の進んだ米国の手足を縛りがちな、国連など既存の国際機関ではない。紛争ごとに米国が中心の「有志国の連合」を結成し、問題解決に乗り出す姿だ。イラク戦争は、そのテストケースとなり、見事に成功した。
 この戦争が、先制攻撃理論の初の実践として戦われたことの意味も大きい。北朝鮮や、イラン、シリアなどの「テロ支援国」に対し、米国が、いつ、どのような戦略を決断するか、そして、どんな形の連合ができるのか、という圧力をかけ続けることになるからだ。
 フセインの銅像を足げにした人々の熱狂をよそに、アメリカの、新たな世界秩序作りへの模索は続く。
(アメリカ総局長 水島敏夫)
 
 
 
 
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