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2003/04/07 読売新聞朝刊
[社説]パレスチナ こちらの和平構築も重要だ
 
 イラク戦争後の復興問題をめぐり、関係各国の動向にあわただしさが増している。これと並行して、中東地域の安定にとって同様の重要性を持つ中東和平にも、動きが出てきた。
 ブッシュ米大統領は先月、条件付きながら和平のためのロードマップ(道筋)を、イスラエル、パレスチナ双方に提示する考えを表明した。
 ロードマップは、大統領が昨年示したイスラエルとパレスチナの二つの国家共存構想をもとに、米国、ロシア、欧州連合(EU)、国連の四者が協議し、大筋で合意したとされる。イスラエル総選挙などを理由に、発表を遅らせてきた。
 二〇〇〇年秋に始まった双方の暴力の応酬で、それまで和平交渉のベースとなってきたオスロ合意が崩壊した。以来、和平交渉の手掛かりは完全に失われていた。双方に影響力を持つ米国が、新たな構想を携え、主導的な役割を果たす意欲を見せたものとして期待したい。
 懸念がないわけではない。ブッシュ大統領の発言の時期が、ちょうどイラク戦争の開戦前に当たっていたこともあり、イラク攻撃に批判的な欧州や、中東イスラム諸国の世論の懐柔を狙ったものとも受け取られた。
 米国は、敢然として和平仲介に臨み、こうした懐疑を払拭(ふっしょく)すべきだろう。
 ブッシュ大統領は、パレスチナ自治政府に、「真の権限」を有する首相の就任を求め、それが認定できた段階で、ロードマップを提示するとしている。
 アラファト自治政府議長は既に、アッバス・パレスチナ解放機構(PLO)事務局長を首相候補とし、組閣を命じている。問題は、アッバス氏が、権限を持った首相として、十分な実績を上げることができるかどうかだ。
 自由で公正な選挙を実施し、財政や司法改革を推進しなければならないが、何よりも、過激派によるテロや暴力を取り締まる必要がある。
 イスラエルのシャロン政権も、占領地への軍事弾圧を繰り返すのではなく、双方が歩み寄れるような素地を作るべきだろう。そのためには、占領地での入植地建設を、やめなければならない。
 ロードマップによれば、今年中にパレスチナ暫定国家を創設することを目指して、最終交渉を経た後、二〇〇五年にも、イスラエル・パレスチナ紛争の終結を目標としている、という。
 当事者の真剣な取り組みが必要だが、四者を中心とする国際社会の強力な後押しが重要である。
 日本も、様々な分野で、紛争解決とパレスチナの国家造りに貢献したい。
 
 
 
 
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